虚(うろ)の底よりiを込めて「さて」
其の空間を埋め尽くすモニター全ての電源を落とし、目の前のラップトップを閉じる。
此処は、人間の世界よりも更に深くに息衝く魔の巣窟。「悪魔系ヨーチューバー」として活動する本物の悪魔ブラックは、自身の動画編集用に用意した部屋で一息つくと席を立ち、モニターの群れに埋もれている古い壁紙に視線を移した。
「…そういえば最近言ってないですね。休憩がてら様子を見に行ってみましょうか」
「じ!」
ブラックは小さな撮影助手、通常カメラちゃんを連れて部屋を出ると、ふわりと蝙蝠の翼を広げて上昇した。
「此処へ来るのも久しぶりです。一万年ぶりくらいか、ちょっと…放置し過ぎましたね」
「じ〜」
二人の悪魔が見据える先には、国一つ程の面積に広がる根を虚空に伸ばし、その頂点は魔界の空を突き破り地上まで届きそうな、巨大な樹木が浮かんでいる。
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