即堕ち執事さん執事は顔に飛び跳ねた血液と汗に最悪な気分になりながら穴を掘っていた。埋めるのは今月に入って何人目でしょうか。旦那様が何処で恨みを買って来たのか知りませんが、多すぎる。スコップで土をざくざくと掘り、巨大な芋虫を彷彿とさせる頭陀袋を、尖った爪先の光る革靴が転がした。
「おーい、執事、進んだかい?」
「旦那様、今回は何をやらかしになられたのですか?毎日、襲撃されるなんて……」
「分からん、心当たりがありすぎる。アッハッハッハ。敵も大きい方が良いではないか」
「よろしくないでございますっ」
執事は甲高い声を上げて地団駄を踏んだ。横に立つ恰幅の良い狸が豪快に笑う。まさに狸爺という言葉の似合う初老の男は、穏やかに繕っていたが、不気味な程に寂寥とした目をしていた。
「旦那様っ、頭をお下げになられあそばせっ!」
執事は主を蹴り飛ばすと、頭上高くスコップを掲げた。甲高い金属音。銃撃。跳弾が庭木にめり込んだ。
「お〜、狙撃かぁ」
「クソわよ」
呑気な声を上げる主を他所に、執事は懐から研がれて殺意の光るレターナイフを取り出すと、銃声のした方へ投擲した。
この狸の旦那に使えて幾年か。執事という職だがボディガードと言う方がしっくりくるのかもしれない。大財閥の総帥なんて聞くと、聞こえは良いが、マフィアみたいなものである。巨額の富なんてものは出し抜いて、蹴落として、何かの恨みと犠牲の上に築かれるのだ。
「旦那様には困ったものでございますねぇ……」
執事は胃薬を飲み干し溜息を付いた。何度も辞表を出したが、その都度、体で引き止められて屈服させられてきた。巨大な体躯に抱き締められ、荒々しく犯され、お前が必要だ、なんて囁かれて逃げられなくなってしまう。
「豪快すぎるんですよ、まったく」
キッチンで頭を抱えていると、小さな泣き声が聞こえてくる。赤子の声。顔を上げると主が小さな天使を抱いて入口に立っていた。
「おーい執事、見てくれ、孫だ、カワイイだろう」
「今度は子供のお守りですか、そうで……」
言葉は赤子の嬉しそうな笑い声に掻き消される。言葉は分からないが、小さな両手を伸ばして執事を求めているようだった。恐る恐る手を差し伸べてみると小さな手が握り返す。ふぁぁと喃語を発しながら、赤子は執事の指をぎゅっと握りしめ、太陽のような笑みを浮かべた。
「ぼ、坊っちゃま」
ふわふわして、もちもちして、心に染み込む温もり。この赤子は愛情を要求している。執事の目には自然と涙が溢れてきた。
「坊ちゃま、かわうい〜!!!!!!!んんんっ、わたくしのことは、ひつじい♡とお呼びくだたい、すきっ♡カワイイ♡坊ちゃまぁぁ♡」
執事がひつじい♡になった瞬間だった。
それは、見事すぎる即堕ちだった。
「そんなに孫はかわいかったかぁ?」
「んんっ、最高にっ、ございますっ♡」
真夜中、主の部屋で執事は夜の仕事をしていた。本日の締めは、主への奉仕。大きな膝の上に載せられるて、灼熱の肉棒に貫かれる。根本まで沈んだそれを絞めつけながら執事は嬌声を上げた。
「良いか?良いか?」
「ああ……これ以上は……旦那さまぁぁ」
肉食獣の眼に見つめられ、執事の心臓は主に掴まれているようだった。愛情を喰らう恐ろしい一族に支えてしまった。離れることは出来ないのだろう。
執事は快感に蕩ける頭で忠誠を誓った。