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    edaco10_07

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    edaco10_07

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    コスメブランドのディレクターユキ×売れないファッションモデルモモ

     夢は啓示だ。
     だから僕は睡眠を重要視する。どんなに忙しくても、どんなに疲れていようとも、しっかりと身支度を整えて自分の部屋で眠りに付く。そうすると、上質な深い眠りは僕の心を豊かにし、細やかなアイディアを与えてくれるんだ。この前の春の新作を作る時の夢は壮大だった。芳しい桃の花の香りが僕を誘い、青空の下新緑の芝と桃の花びらの中で乱れた。明け透けに言えば、春の情景の中での青姦。ただの淫夢だ。でも僕にとっては違う。この夢は過去最高の売り上げを叩き出す春のコスメを生み出す核になった。
     そう、春の新作を出す時に見た夢が良くなかった。最高で最強のインスピレーションを刺激したあの夢以来、僕の感性があれ以上の夢を欲してしまっていた。おかりん曰く、これがスランプ。僕の夏の新作は納期1ヶ月を切っていた。

    「あれ以上の夢じゃないと次の新作出ないよ」
    「そんなこと言わないでください……スランプなんてその場のものですから……」
    「無理だよ。僕は今まで夢の助けがあって作り出してきたんだ。それがなければ一生できないね」
    「え、じゃあどうするんですか? このままだと社長は嬉々として千くんのことクビにしますよ……」
    「アイツ性格歪んでるよね。誰が食わしてやってると思っているんだ」
    「まぁまぁまぁ……」

     こんな軽口叩いてるけど、結構本気でヤバい。何も思いつかない。夢は見るけど、当たり障りのない辺鄙な夢で、僕の感性を刺激するような夢じゃない。こんな感じだと凛太郎がニコニコ笑いながら親指で首を切る仕草をし出すのが目に見えている。ムカつく。どうにかしないと。
     多分、僕にはあの夢の続きが必要だった。咽せ返りそうな程の桃の香り。肌に触れる柔い花弁と芽吹いた新葉。健全な視界を覆すような凶悪なまでの快楽。僕に縋るルベライトの瞳は大きくて、白混じりの黒髪が彩度の高い景色によく映えた。薄い胸板がーー……?

    「……?」
    「どうしました?」
    「……おかりん、今すぐこの特徴を持つ人間を探して」

     デスクに放ってあったメモ用紙に走り書く。白いメッシュ、黒髪、ルベライトの瞳、そして、男。

    「うーん」
    「どうしたの?」
    「いえ、少々心当たりが」
    「その子可愛い?」
    「まぁ、そうですね。男性にしては可愛らしい顔つきだと思います」
    「そう、それはよかった。見つかったらいつでもいいから連絡頂戴」
    「わかりました」

     どうして僕はすっかり忘れていたのだろうか。あんなに情熱的なセックスをした相手を。夢の中の、存在しているかもわからない人間とセックスをした。でも、夢は僕への啓示だ。もしかしたら、この男が鍵を握っているのかもしれない。





    「『Re:vale』……あのコスメブランドの?」
    「はい。僕はそこでクリエイティブディレクターの秘書を勤めている岡崎です」
    「そ、そんな凄い人が何故此処に……」
    「少々事情があって、この特徴を持つ方を探していまして……そこで辿り着いたのが貴方なんです」

     掌に収まるくらいの大きさのメモ用紙に箇条書きにされた文字たち。筆圧が弱く、ペンの細い線が走り書きながらも美しくバランスを取っている。白いメッシュ、黒髪、ルベライトの瞳、男。たしかに、俺自身の特徴に合致していた。

    「え、じゃああの『Re:vale』の広告オファーってことですか……!?」
    「あっ!? す、すみません! 普通そう思われますよね……いや、可能性はゼロではないんですが……ちょっとそれとは別件と言いますか……」
    「え、あ……はい……すみません。ちょっとびっくりしちゃって……」
    「あぁ……! そんなに落ち込まないでください……!! 多分、おそらくですが次の新作の予定が決まれば貴方になると思うので……!」
    「いえ、大丈夫です。すみません、少し取り乱してしまって……お気遣いありがとうございます」

     自意識過剰な勘違いをしたことを恥、思わず視線が下を彷徨う。恥ずかしい。特徴を持っているからといって、こんなアマチュア同然の貧相なモデルを起用する訳がない。
     国内最大大手のコスメブランド『Re:vale』。新進気鋭で歴史が浅いながらも、業界トップに食い込んだブランドだ。高級感溢れるコレクションから、ポップでチアフルなコレクションまで熟す。「Re:valeは季節毎に違うブランドへと生まれ変わる」と言われるくらいに、毎回“最高”を更新し続ける。
     そんな凄いブランドの人が、しかも天才的と言われるクリエイティブディレクターの秘書が会いに来たと聴いた時、オレの興奮は最高潮だった。まぁ、勘違いだったんだけど。
     でも、案件ではないなら何故この特徴を持つ人間を探しているんだろう。好奇心に負けたオレは、岡崎さんに促されるまま車へと乗り込んだ。
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