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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    殺生丸ともろは(妄想)

    ##半妖の夜叉姫

    *


    「いーのかよ、こんなんでさ」
     姪を名乗る四半妖の小娘は唇を尖らせた。
     あ、これ食べる? と大きな大きな風呂敷のようなものから彼女が取り出したものはいつか見たことのある食べ物。時折犬夜叉やかごめたちから臭っていた、アレだ。芋と脂と何かの臭いが混じった、とにかく臭いの強いもの。そんな印象しかないが、この世に似つかわしくない見慣れぬ文字が刻まれたそれは『あちら側』から持ち込んだものだということはすぐに分かった。
    「食わぬ」
     それは鼻が曲がる。
    「……そこには返事するのかよ」
     じゃアタシが独り占め。もろはは嬉しそうに袋を破り、薄暗い川辺にあの臭いが漂い始める。
    「……臭い」
    「風下に座るからだって。言っとくけど、アタシは動かねぇからな」
    「……」
     答えない殺生丸のほうをもろははちらりと一瞥し、再び視線を袋の中に戻す。もう残りは少ない、折角ならみんなで分ければよかったかな、とも思ったがすぐにその考えは捨てる。どうせせつなはこの目の前の殺生丸と同じで「臭い」と言って切り捨てるし、とわはあぁ見えてすぐに遠慮する性格だ。いずれにせよ一人で食べることになっただろうし、と容赦なくそれを口に放り込む。
     そして、アタシは気にしないけどさ、と半妖ですらない少女はぺろりと指先を舐めてから口を開いた。
     とわ、と。
     殺生丸の血を分けた娘の一人はそう名乗った。せつなというもう片方は退治屋でお頭の琥珀という男のもとで腕を磨きながら妖怪退治をしている様子だったが、とわという姉は 違う。時代樹を介して『あちら側』に消えてしまったという彼女を育てたのはもろはの叔父に当たる(らしい)、草太ぱぱと呼ばれる『父親』だった。
    「いい人だったぜ、草太ぱぱっての。血の繋がりなんてないけどさ、人間の親子に見えたんだ」
     それは彼女が半妖としての力を隠し、ただただ人間であろうとしたから。
    「……」
    「芽衣って妹もいて……楽しそうだった。草太ぱぱはこっちの世界のこともかごめから聞いてたみたいだし……今もとわは思ってるんじゃないかな、草太ぱぱのこと 父親って」
     その芽衣ってのが可愛くてさぁ、と、もろはは行儀悪くバリバリ音を立てながら菓子を頬張りながら言う。
     父親だとか、母親だとか。
     親との関わりだなんてものを彼女はよく知らない。何せ己の両親のことすらはっきりとは知らないのだ、そして生業は賞金稼ぎときた。確かに村を襲う妖怪を退治すれば、そこには両親の死を嘆く幼子の姿がある。かと思えば両親の無事を喜ぶ幼子の姿もあれば──両親と幼子の立場が逆でもあり。そんな人間たちの様相を知らないもろはではない。
     だが、それもこれも、どれも他人事。
     自意識を持ったその時からずっと ずっともろはは一人で生きてきた。
    「決めるのは私ではない」
    「甘ちゃんだぜ、とわは」
    「……」
    「……待ってんだよ」
    「……」
    「分かってんだろ」
    「……」
     とわは殺生丸というこの冷酷な妖怪の男に『父親』を望んでいる。
     彼女は決して、どれほどお互いが望もうとも、どれほど草太ぱぱという人間の男を慕おうとも、血の繋がった父子になることはできないのだ。草太ぱぱという男と共に面倒を見てくれていたらしい『母親役』もまた、人間でしかない。妖怪の血を継ぐ己を殺さない限り、半妖であるとわは人間の両親を持つ子どもにはなれないのだ。
     本物の父親はただ一人。
     あの『向こう側』の世界に時代樹を通して飛ばされた日のことを娘は忘れたことなどないと言う。せつなの手を取れなかったことを悔い、見ず知らずの土地に飛ばされ、鉄の車が走る国で生きることを強いられた彼女を救ってくれた大人たちを本物の家族だと思って生きてきたとも聞いた。
     けれど記憶にはなかったはずの父親がこうして目の前におるのなら。
    「ったくよぉ アタシは別にどうでもいいけど、あんな落ち込んでるとわと一緒に仕事するこっちの身にもなってほしいぜ」
    「……なぜそんなことで落ち込む」
    「……そこから?」
    「……」
     落ち込んでいることくらいは分かる。誰がどう見たって、彼女はずっと憂鬱そうな顔でため息ばかり零しているのだから。少なくとも上機嫌でないことくらいは誰にだって分かるが。
    「もしかして、自分のせいで落ち込んでるとは思ってなかったのかよ」
    「……」
     図星。
     父親であるはずの妖怪がとわに歩み寄ることはない。当然、せつなにも。娘たちの存在は認識してるはずだというのに、とわがその短い人生の中で『知る』父親像とはかけ離れた対応をする殺生丸にひどく落胆していたのだ。記憶がないと言い張るせつなは大して落ち込んではいないように見えるが、それでも気にしていないはずもない。
     どぉしてアタシが間に立たなきゃなんないのさぁ、と火鼠色の衣を身に纏ったやんちゃ娘は大げさに息を吐いてみせた。
    「……妖怪は心の作りが違うとか言うけど、伯父上のそれは間違いなく性格だよなぁ」
    「その呼び方は許さん」
    「ダメ?」
    「二度は言わぬ」
    「……ちぇっ。そんなに嫌いかよ、半妖が……犬夜叉、ってのがさ」
     だからとわにもそんな態度? と聞けば。吐き捨てるように殺生丸は返す。
    「……半妖であることなどどうでもいい。アレが気に食わんだけだ」
     もはや、そのようなことは。
     たとえアレの母親もまた妖怪であり、アレが半妖でなかったとしても。血の色などどうでもいい。
    「ほんっと そういうところ娘もそっくりだぜ」
     勘弁してほしいなぁ、とわざとらしく再びこぼすと同時にもろはがくぁ、と大きく欠伸をこぼす。あの愚弟そっくりの仕草で、そっくりの座り方をして、少し違った言い方をして。
     半妖の為り損ないは笑う。
     手を頭の後ろに回して、白い小さな牙を見せて。
     ちっとも本気で怒っていないような──どこか嬉しさすら湛えた あの弟そっくりの 顔で。
     終ぞ殺生丸は黙れ、殺すぞという投げやりな言葉すら口にすることを諦めた。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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