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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    弥珊と翡翠

    ##半妖の夜叉姫

    *


    「さぁともあれ酒です、翡翠。ほら珊瑚も」
    「えぇっ 酒?」
    「当たり前です。めでたいことがあれば酒。万病の薬でもありますから」
    「もう、法師さまは飲みたいだけでしょう?」
    「母上」
    「翡翠。父上の相手をしてやって」
     金烏と玉兎もいればよかったのだが、と弥勒は徳利かに口をつけた。
    「母上まで」
     翡翠は非難の声をあげたものの、苦笑を浮かべながらも肩に手を置いた母親がそう言うのだからそれ以上の悪口は飲み込んでしまう。母上は甘いんですよ、と苦し紛れの言葉も、「そうだね。だけど今日くらい許してやって」なんて言われてしまえばそれで終わり。
    「珊瑚、ほれ珊瑚。お前もだ」
    「私はいいよ」
    「いいからいいから」
    「あっ もう」
     引っ張らないで法師さま。
     珊瑚は言われるがままに弥勒の前に腰を下ろすと、押し付けられた盃にとくとくと音を立てて注がれる香り高い酒を鼻で味わった。
    「母上まで」
    「……いいんだ、翡翠」
    「いやぁ、これで私の夢はひとつ、叶いましたね」
    「そうだね、法師さま」
    「夢? どういうことです、父上 母上?」
    「まぁまぁいいから。とにかくお呑みなさい、翡翠」
    「はぁ」
     いささか強引にも見える両親の挙動に疑問を浮かべながらも、翡翠は受け取った酒に口をつける。
     珊瑚には内緒で琥珀に夜な夜な酒を分けてもらったり、出先で多少口にしたことはあれど、思えばこうして『家族』と酒を呑むのははじめてだ。金烏と玉兎とも呑んだことはあるが、少なくとも──心から許せるようになった父・弥勒とは 初めてだ。
     そして含んだ一口を嚥下したことを見届けた実父はひどく嬉しそうな笑みを浮かべていた。
    「……あんたと呑むの、楽しみにしてたんだよ」
    「え?」
    「……私の父は早くに死んでしまってな。私の面倒を見てくれた夢心さまもこよなく酒を愛する御仁であったし……まぁ、なんだ。こうして息子であるお前と酒を呑むことは、私の父も為し得なかった偉業です」
    「はぁ」
     既に酔いが回っているのか、上機嫌にぺらぺら口を開く父親の姿は翡翠にとって新鮮そのものであった。
     あの頃はこんな未来があるだなんて思ってもいませんでした。足掻きはしましたが、私もまたおやじやじいさまと同じような死に方をするものだと。思えば、あの日犬夜叉たちに出会ったことこそが運命に導きでやったかもしれません。蜘蛛糸ほど細いその一本が重なり合い、こんな未来を運んできてくれたのかと思うと。
    「ほら、手が止まっていますよ翡翠」
    「父上が早すぎるんです」
     そんなにぐいぐい呑まなくたって。
    「そうだよ法師さま。これからはいつだってこうして一緒に呑めるんだから」
    「えぇ、えぇ。酒の場ならば我が生涯の恋敵・飛来骨も忌避しますからね。珊瑚を独り占めです」
    「ちょっと。なんてこと言うのさ!」
    「……飛来骨、毒はよくないとは聞いていたけれど……」
     酒も?
     と聞けば、珊瑚は「あはは」と視線を逸らした。
    「色々あったんだよ、昔」
    「恋敵というのは?」
    「……それも、昔に色々と……」
     珊瑚は少しばかり頬を染めて視線を逸らした。
    「まぁまぁ翡翠。積もる話はいくらでもある。お前に聞かせたい話も……聞かせるべき言葉も。お前が聞かねばならぬ話もたくさんある。ならば、それは今日(こんにち)だけでは到底足りません」
    「そうやってまたはぐらかして」
     翡翠は唇を尖らせた。
     しかし彼は知っている。父親であるこの弥勒という法師を相手にして口で打ち勝つことは不可能であるということを。翡翠と変わらぬ年頃には既に口八丁手八丁、あの手この手で財ある者たちから金品を巻き上げていたのだから勝ち目はこの先もありはしない。
    「翡翠。父上はお前に意地悪してる訳じゃないんだ」
    「……それは 分かってる」
    「…………いつか、琥珀の話もしてやらねばなりませんな」
    「叔父上の?」
    「そう。私の話も、父上の話も。お前が退治屋を継ぐならきっと……四魂の玉のことだって、知らなきゃいけないから」
    「しこんの たま」
     あれも、これも、それも、どれも。
     こうして酒を飲み交わす時間はこれからいくらでもあるのだから。
    「そうですねぇ。ではまず、私と珊瑚と馴れ初めの話からお前に聞かせて……あぁっ いけない、いけません珊瑚! 飛来骨を持ち出すんじゃありません!」
     冗談ですから!
    「そっちがその気なら、こっちだって法師さまのあんな話やこんな話、いくらでも翡翠に吹き込むよ!」
    「一体どんな話です、珊瑚!」
    「水神さまに鼻の下伸ばした話とか……」
    「そっ それは……」
    「十五の娘に結婚を迫られた話とか……」
    「違います、小春は決してそんな相手では!」
    「いくらでもあるんだからね、法師さま!」
     あぁでもないこうでもない。
     幼稚な言い合いを眼の前で繰り広げはじめた両親の姿に翡翠は思わず頬を綻ばせる。
    「ははっ」
    「!」
    「なんだ、父上も母上も。おんなじ顔してるじゃないですか」
     怒ってるのに照れたような顔をして。
     久しぶりに向けられた屈託のない愛息子の笑顔に、弥勒と珊瑚はお互いの顔を見合わせしばしあってから──小さく微笑んだ。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429