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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    殺生丸と両親

    ##犬夜叉

    *


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、慈悲の心などいずれ識れること。それが五十年先か、百年先か。それとも二百年、三百年先となるか──それだけの違いでしょう」
    「はは、確かにお前の言う通りだ。……いつか、その名の意味を知ってくれれば父は幸せだ」
    「…………例え痛みを伴うとしても、この子はきっと」
     泣き疲れた様子で目の縁を赤くしてすぅすぅと寝息を立てる子どもはこうしていれば可愛らしくもあるが、つい数刻前まで鬼の頭(かしら)で蹴鞠をしていたのだ。
    「今日はなにをしていたんだ?」
    「……蹴鞠を。鬼の首を取り、蹴鞠をしようとしたら……」
    「あぁ、成る程」
     あちらこちら傷だらけなのはその鬼と戦ったからであろう。
     まだ幼い殺生丸はしかし、己の持つ致死毒の作用を理解し西国の鬼の首すら取れるほどの力を持つ。故に、その首を以ってして蹴鞠をしようとしたのだが──断られたどころか、恐れられ、泣き喚かれ、要するに拒絶され──相手を殺してしまったのだ。
    「ただ友だちが欲しかっただけだろうに。かわいそうな殺生丸」
    「咎めたのか?」
    「まさか」
     これもまた、力ある大妖怪の血を引くのであれば知らねばならぬこと。
     いかな物の怪であろうと、人間であろうと、力無き者たちからすれば見た目こそ童であれど殺生丸の恐るべき力を一度(ひとたび)目にすれば憧憬は畏怖へと姿を変える。魔性すら他者に抱かせる美貌の子どもなれど、本質は溢れる力を持て余す、火牛よりも恐ろしき人のかたちをした妖犬。
     気まぐれで、いつ感情のままに毒爪を振り回すか予測不可能な子どもらしさは幼気(いたいけ)な愛らしさではなく戦慄を呼び起こす。
    「まぁ、これも試練やと思うしかないか」
    「闘牙さまはなさらなかったのか?」
    「なにをだ?」
    「鬼の首で蹴鞠を」
    「……するはずないだろう」
     鬼の首を取って回る遊びには興じたが、それで蹴鞠をしようとまでは考えなかったぞ。
    「ならば殺生丸は賢い子だ。父上と同じく鬼の首を取るに飽き足らず、蹴鞠をするなんて父の上を行ったではないか」
     母はそれだけで満足だ、ああ可愛い可愛い殺生丸よ。
     はっはっはと朗らかに笑う父と母に囲まれ、上等な着物を血と泥で汚したままの未だ慈悲知らぬ童は気が済むまでに惰眠を貪った。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429