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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    POIPOI 33

    妖怪ろくろ回し

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    殺りん

    ##犬夜叉

    *


    「りんは……きっと死んじゃうね」
     十年先か、二十年先か、五十年先か、それとも明日か。
     それは誰にも分からない。いかな殺生丸といえども、天に座すあの全智を持つとすら見える彼の母親であれど、誰一人としてそれは分からない。更に言えば、死すはりんではなく殺生丸やもしれぬ。
     命とはそのようなものだ。
    「……」
    「でもね、桔梗さまがそうだったみたいに……もしかしたら、生まれ変わってまた会えるかもしれないね」
    「……」
    「そしたら殺生丸さま、りんを見つけてくれますか?」
    「断る」
     殺生丸は即答した。
     何を血迷ったことを言っているのかとも言いたげな視線を少女にやった妖怪はしかし、膝の上で困惑した表情を浮かべたりんの髪の毛に長い指を差し入れた。指であっても通らぬほど強張った髪に彼は少しばかり目を細める。
    「殺生丸さま……」
     あのかごめという女は。
     桔梗という名の、犬夜叉などという半妖に心を奪われた巫女の生まれ変わりであるというのは事実だろう。だが、間違いなくあの女は『別人』だ。最初こそ似た匂いを纏わせてはいたが、桔梗の多くを知らぬ殺生丸ですら彼女らの言動は互いにかけ離れてた場所にいたことはすぐに分かった。
     半妖どもの色恋沙汰などに興味は微塵もないが、明白なことはある。
    「お前が 万に一つ、生まれ変わったとしても……それはお前自身ではない」
    「……そう、なのかな」
     五百年後ではなく、死した直後に世のどこかで生まれ変わりが息づいたとしても。
     異なる世において──同じ顔をして、同じ声で殺生丸の名を呼んだとしても。
     それは間違いなく今、殺生丸の膝の上で寂しそうな表情を作る少女自身ではない。鏡に映された別の誰かでしかないのだ。桔梗とかごめが全く異なる人間であることと同じように、例えその生まれ変わりという縁(えにし)によって運命が紡がれていたとしても。
    「私にはお前しかおらぬ」
    「でも……」
    「死した後のことなど考えるな」
    「……だけど りんは死んじゃうよ」
    「そうだ。私もいずれ死ぬ」
     いつの日か。
     いつの日にか命は終わりを迎える。
     地に植えた花々が散り果てていくように、血に飢えた獣たちが飢餓に苦しみながら果てていくように。
     枯れない花など存在せぬように、不死の獣などおらぬように。
     刹那の時しか生きられぬ人間であるりんも、永遠にも近い悠久を生きるであろう殺生丸も、全ての終わりに待つのは変わらぬ死だ。殺生丸はりんの小さな頭を抱えるように両腕で包み込み、耳元に口元を寄せた。
    「殺生丸、さま」
    「待っていろ」
    「待つ……?」
    「お前が先に死したならば私が死ぬまで。私が先に死ぬのであれば……その命、存分に生きた後に我が元へ来い」
     それから共に川を渡ればいい。
     生まれ変わりだなんて得体の知れぬものに興味などない。在るのは今こうして息を吐き、心の臓を鳴らし、肌を触れ合わせる命の限り。
    「……りん、待ちます。待つのは得意だから……ずっと、ずっと殺生丸さまを待ってるね」
    「私が先に死ねば、お前を待つ」
    「でもりん、楓さまよりもうんと長生きするつもりだよ。おばあちゃんになるまで待っててくれる?」
    「当たり前だ。……私にとっては五十年も百年も大した長さではない」
    「やったぁ。殺生丸さまがそう言ってくれるならりん、安心できます」
     決して避けられぬ死を待つことを怖れることなどない。
     誰にも口外することはない、たったひとつ。二人だけの約束を交わした人間と妖怪は頬を寄せ合い、はらはらと舞い始めた雪空に視線を向けた。

     また、夜が明ける。
     死は近づいていく。

     それでも怖くはないよ、と再び告げたりんは殺生丸の着物にしがみつき、高い体温を味わった。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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