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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    琥珀と殺生丸(妄想)

    ##半妖の夜叉姫




    「なぜ私の邪魔をする」
    「……どうしても、です」
    「返事になっておらぬ」
    「…………」
     琥珀は息を吸った。
     尊大な物言いは変わらない。人間にとっての十と余年は幼子が立派な戦士になるには十分すぎる時間だが、妖怪にとってはそれこそ矢よりも疾く消え去っていくだけの刹那。人にとっての永遠さえ、殺生丸にとってはただひとときでしかない。
     故にそんな瞬きの合間に性格が変わることなんてない。
    「なぜだ 琥珀」
    「……確かにせつなは殺生丸さまのご息女ですが……退治屋の仲間です。退治屋の仲間は家族も同じ。彼女がどう思おうが……生まれがどうであろうが、もう せつなはおれたち退治屋の家族です」
    「……」
    「家族に 家族を殺させやしません」
    「…………」
    「おれは奈落の手にかかり、自分の父と退治屋の仲間を殺しました」
    「……貴様」
    「抗えなかったなどと言い訳はしません。家族だけでなく……多くの罪なき人びとを この手で。姉上すら……りんをも殺そうとしたのは事実だ」
    「だからなんだと言う」
    「どんな理由であれ、おれはせつなに家族を殺させるつもりなどありません。例えそれが、殺生丸さまの御心だったとしても」
     そこにどのような大義があるか、どのような理由があるか。いかな事情があろうか。
     琥珀はその全てを関係のない些細な羽虫のようなもの、と切り捨てた。命があれば何度でもぶつかり合うことができる。命さえあれば憎しみあいながらも妖怪であればこそ、何十何百と年月を重ねた先に手を取り合うことができるかもしれない。それをたった刹那の激情に任せ永遠に自ら断ち切ることなど、到底許容できるものではなかった。
    「正気であれば分かるはずだ」
    「確かに、殺生丸さまのお考えこそが解決への最適解やもしれません。けれど おれは……それでも、殺生丸さまを阻むとしても……『家族』を守ります」
     血の繋がりなんてものはない。
     赤子の頃から知っている、だなんて言わない。
     退治屋の里には親の顔を知らぬ者も多い。その中でせつなは確かに『家族』の一員であったはずだ。彼女が抱く不眠への恐怖と苛立ちを共有してやることはできなかった。半妖であるということは薄々感づいてはいたが、だからといってそれを指摘することもなくば──だからといって、顧みることもなかった。
     けれど、それでも琥珀にとっては血の繋がらぬ家族だったのだ。
     そんな彼女に親を殺させる親など、許してはおけない。
    「琥珀」
    「……殺生丸さま。おれは 引きません」
    「……ならばお前が家族になればよかろう」
    「!」
     血の繋がりなど、不要。
     殺生丸はその最愛の娘によって傷つけられ血に塗れた身体を広げ、真剣な瞳を琥珀に返した。
    「それほどまでにあれを家族と言うのなら それでいい」
    「殺生丸、さま」
    「……お前がそばにいろ」
     それだけでいい。
     それだけ想われているのであれば、いずれはせつなも気づくはず。
     ならば、最早そこに血の繋がりを持つ父の存在など必要ない。人と半妖という異なる時の流れを抱いていても解り合えることができる。その事実は殺生丸自身が身を以て知っているのだから。
     なればこそ。
     関わりを避け続けた『父親』ひとり欠けたところで、あの娘は孤独にはなるまい。
     幸いもう一人の娘もまた、彼女を育てた父親がいるのだというのだ。親子という関係に血の繋がりがないのなら、それは血を分けた父親すら必要ないということの裏返し。
    「……死地へ向かうおつもりですか、お一人で」
    「……」
    「そのようなお身体で向かわれれば、例え倒したとしても……」
     結果は自ずと見えている。
     必死の形相をする琥珀の前でしかし、殺生丸は驚いたほどに冷静であった。それどころか口元には懐かしげな笑みが浮かぶ。
     いまこのたび初めて父・闘牙王の心を解したからだ。あの時の父は──己の生死よりも大切な、守るものがあると信じていたからこそ。怖気(おじけ)など物ともせず、自身が辿るであろう命運に向かってまっすぐ まっすぐに走っていった。
     それを止めなかったのは 殺生丸だ。
     止めようともせず、共することもせず、ただただ力のみを欲していた愚か者は 紛れもなく あの日の殺生丸。
    「貴様は精々生き延びろ」
    「……はい。もとよりそのつもりです」
    「……」
    「殺生丸さま」
    「……琥珀」
    「言ったはずです。おれの答えはもう 決まっていると」
     このまま死出の旅へと家族の父親を向かわせることなどできやしない。
     あの深手はせつなが負わせたものであるならば尚更のこと。「おれがお共します」という弱い人間の言葉はそれでも力強く、殺生丸はそれを無視し踵を返すことができなくなる。
     恐ろしいほどの執念にも近い琥珀の覇気が足元を釘付けにするのだ。
    「お前は 自分の言葉の意味が分かっているのか?」
    「分かっています。おれはもう……死ぬつもりなんてありません。生きて殺生丸さまと共に、家族のもとに帰ります」

     馬鹿なことを。

     あんな小僧がこうまで大口を叩くようになったとは。
     殺生丸はどこか諦めたように、けれどどこか微塵ほどは嬉しそうに、「好きにしろ」と変わらぬ答えを小さな人間へと投げつけた。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429