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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    殺生丸一家(妄想)

    ##半妖の夜叉姫

    *



    「サラダ頼んでいい? みんなで分けよう」
    「……」
    「……」
    「えっと……」
     沈黙を貫き通す妹と父、そして惑う母。
     とわはまたやっちゃった、と自分を叱咤するように「もぉ」と声を絞り出した。
    「言い方悪かった、ごめん。野菜みんなで分けるのに注文してもいい?」
    「なんでもいい」
    「好きにしろ」
    「はぁい」
     と。
     サラダなんて言葉、戦国時代にはなかったっけ。
     せっかく現代に来たんだから一度くらいはファミレスに行きたい、というとわの提案に賛成してくれたのは母・りんだ。どうやらこの短い期間でもすぐに分かったのだが、実父・殺生丸は母がイエスと言えばイエス。ノーと言えばノー。冷たい印象とは裏腹にそういう性格のようだった。
     だからこうして安っぽいチェーン店に来たはいいが。
    「いつも食べるのはミートドリアだけど、お肉も美味しいんだよねぇ」
    「どりあ?」
    「ご飯にお肉のソースがかかってるんだ。スパゲッティも美味しいよ」
    「すぱげってぃ?」
    「えっと……お蕎麦みたいな……。ラーメン、って言っても戦国時代じゃそれもまだないだろうしなぁ」
    「これは? ごはんだよね」
    「こっちは和定食。ママたちはこっちの方が食べ慣れてるかも」
    「ふぅん。でもりん、こんなお魚食べたことないよ」
     あの時代の食事は今と比べればとても薄味、ひっくり返せば戦国時代の舌では現代の食事なんて味が濃すぎるのだろうが。案の定、とわの斜向かいに座る殺生丸は入店した時からしかめっ面だ。
     せつなも決していい表情をしているとも言えず、その原因はこの狭い店内に響き渡る客の話し声とあちらこちらから漂う料理のにおいであることもすぐに分かった。ここで育ったとわにとってはなんてこともないが、せつなや完全な妖怪である殺生丸は彼女よりも音や臭いにひどく敏感だ。
    「……ごめん。もっと広いお店にすればよかった」
    「別に構わん。普段とわが来る店なのだろう?」
     と、助け舟を出してくれたのは意外にもせつなだ。
    「そうそう。殺生丸さま、すぐにお顔に出ちゃうもんね」
    「……まだ何も言っていない」
    「もう、邪見さまみたいなこと言わないで。殺生丸さまはどれにする?」
    「やっぱうまいなぁ、ママは」
    「まったくだ」
    「え?」
     パパの扱い方。
     とわとせつなは口を揃え、言葉こそ違えど同じ意味を述べた。
     人づてに聞く殺生丸という妖怪は非常に付き合いづらく、何を考えているかも分かりにくい、そもそも自由気ままの傍若無人。誰かのために動くことはなく、全ての行動は自分のため。りんちゃんと出会う前の殺生丸なんてほんとすごかったのよ、とかごめが面白そうに殺生丸を揺さぶったのも記憶に新しい。
    「りんが食べたいものでいい」
    「……いいの?」
     りんは恥ずかしそうにメニューで口元を隠した。
     文字は読めないが、色とりどりの写真をさっきからずっと興味津々に見つめていることをとわもせつなも勘付いていた。サラダ、ととわが指差した野菜の盛り合わせだってりんが食べたこともない見たこともない取り合わせ。お肉と言われても彼女が知っているのはせいぜい猪だとか、鹿だとか。真っ白なご飯の御膳だって、お味噌汁と漬物以外は知らないものばかり。
     そのままぺらりとページを捲れば見たこともない七色の飲み物。この茶色い塊は? 上に乗っている白いふわふわは?
    「どうせ食い切れんだろう」
    「でも……」
    「食べれなかったら私も食べるしさ。ママの食べたいもの片っ端から注文しようよ! せつなは?」
    「……前に食べた氷菓、あれはないのか」
    「あっ かき氷? この季節にはないんじゃないかなぁ。シャーベットならあるし、これもひんやりしてて美味しいよ」
    「ならそれでいい」
     シーザーサラダにガーリックトースト。スパゲッティ・ペペロンチーノにねぎとろ御膳。たっぷりにんにくのステーキプレートとガトー・ショコラ。メロンクリームソーダにホットコーヒー。
     調子に乗ったとわがあれやこれやと本当にりんがきになると言ったものを注文したはいいものの、殺生丸は強烈なにんにくの臭いに今まで見たこともないような顔で全身から拒絶反応を示す。せつなもまた窓際ギリギリまで身体を寄せて逃げ、皿の上が全てきれいに片付けられる頃にはとわの妹と戦国有数の大妖怪の血を継ぐ父親はぐったりとした様子でソファにもたれかかり力尽きていた。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429