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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    せつなと犬夜叉

    ##半妖の夜叉姫

    *


    「殺生丸はよ、分かってたんだぜ」
    「……」
    「すぐちょっかいかけてきやがるし、おれを何かと半妖呼ばわりしてくるし……なに聞いたって答えねぇし。……でも……おれには分かるぜ」
    「……」
     せつなは答えない。
    「おれのおふくろはさ、死んだんだ。ずっと小さい頃に。……おやじもおれが赤ん坊の頃死んだ。殺生丸からしたら人間の女とその子どものために自分の父親が死んじまったもんなんだ」
     だからってあれやこれやと因縁をつけられ続けるのも困った話だが。
     しかし犬夜叉もまた、今こうして可愛い可愛い愛娘と共に在る中とあっては、殺生丸が彼の『愛娘』にしたことを納得できずとも理解はできる。とにもかくにも言葉というものに重点を置かない異母兄は全てを行動で示す。それが分かりにくい、と言われ、時に冷酷であるという印象を──あながち間違ってはいないが──相手に抱かせる。
    「父は子を守らぬのか。崖から蹴落とすのが愛情か」
    「おれならそんなこたぁしねぇ。……でも……おれが知ってる半妖たちはみんな、おれも含めて……妖怪の父親なんてすぐ死んじまうか、一緒にいられねぇほうが普通だ」
    「!」
     地念児の父親もそう。たいそう美しい妖怪が父親であったと山姥が如き老いた母親は言っていたが、その妖怪の姿を犬夜叉らは見たことがない。死んだ、とも生きている、とも聞いていないからではあるが、少なくともあの巨体の心やさしき半妖は人間の母親と今も二人で暮らしているはずだ。
    「人間の女に手を出した妖怪ってのは一族から追放されるだけならまだいい、それを理由に殺されることだってあるんだ」
     百鬼蝙蝠たちのような。
     二百のうち五十の年月を封印されて過ごした犬夜叉であるが、これまで見聞きして来た半妖の生き様は己のそれと大して変わらない。
     少なくとも、妖怪の親から庇護されて生きている半妖はめっきり少ない。
    「だが、殺生丸は……」
    「あいつは殺しても死なねぇよ。……まぁ……今は それでいいかもしんねぇけど」
    「?」
    「琥珀だって歳とるぜ。あと五十年もしてみろ、よぼよぼの爺さんか骨になってる」
    「…………お頭が……?」
    「当然だ。あいつは人間だからな。楓のばばあだって、おれはばばあがお前よりも小さいガキだった頃から知ってるぜ。……おれたち半妖は人間と同じ時間を生きられねぇ。だからいつか……人間のみんなからは置いて逝かれる。退治屋の連中が死んじまう頃になったってお前ととわはきっと『そのまま』だ。……もろはも、おれも」
    「私は……」
     半妖であるということ。
     それは時折妖力の全てを喪い人間と同じ、か弱き生き物と成り果てること。
     然して人間よりも強い膂力と生命力を持ち、退治屋として戦いを生業にするにはうってつけ。
     それくらいしか考えたことがなかった、と。
     せつなは俯き、村から姿を消した記憶にない父親の姿を思い描いた。血の繋がりがあろうとも他人でしかない、その男のことを。
    「おれも殺生丸のことは気に食わねぇし、あいつ自身のことなんてどうでもいい。……でも忘れんなよせつな。お前のおやじは……ちゃんと、お前のことを考えてる」
     崖から突き落としたのは弱い娘など必要ない、なんて意味ではない。
     娘に流れる己と、その父の血を信じていたからこそ。だからこそ妖兄・殺生丸は半妖の娘を人の世に放り出した。いつか近い未来か遠い未来か──どうであれ、そばにいて守ることができなくなると『知って』いたから、だ。
     退治屋でせっかく家族のように扱ってもらえる環境に今は身を置いてはいるが、そんな甘やかな刻もいずれ終わる。せつながこれから生きるであろう人間にとっては永遠に近い時間の中ではまさに刹那の出来事にしかならないのだと。
     口数は少ない上にだからといって多くを考えている兄ではないが、犬夜叉には手に取るように殺生丸の考えが分かった。
    「いずれ……私はひとりになると?」
    「かもしれねえ、ってだけだ。でも……半妖の娘に『強く生きてほしい』って気持ちは……おれもあいつも変わらねえよ」
    「……だが、だからといって殺生丸の……父のしたことを受け入れたわけじゃない」
    「おう。それでいいぜ」
    「…………でも……」
     憎み切ることだってできない。
     犬夜叉に言われなくともそれはせつなにも痛いほどに分かっていた。
     人間たちと時の流れが違う半妖はしかし、完全な妖怪たちと同じ時を生きれども同じ道を歩むは難い。一滴でも人間の血がその身に流れていれば妖怪どもはすぐにそれを見抜くし、好き好んで半妖などに生まれたつもりがなくとも当人は其れを理由に輪から弾かれる。
    「……人間の親は死んじまう。かごめだって……百年もしたらもういねぇに決まってる」
     今はあんなにも元気で、昔と変わらず走り回って……時に弓を握る人間の女もまた、椿の花のように命は儚い。いずれ楓のように腰は曲がり、髪は白く減り、声は割れ、いつしか土へと還るのみ。半妖である犬夜叉よりもずぅっとずぅっと早く。
     人間たちに溶け合うことができたとしても、それを繰り返すのみ。
     半妖とはそういう生き物だ。
    「憎めたら……よかったのに」
     ぎゅう、とせつなは手に力を込めた。
     どんな形であれその愛を知ってしまった以上、最早刀を向けることもできず。
     喉の奥をうっと鳴らして嗚咽を漏らし始めた姪っ子の肩を犬夜叉は優しく抱いてやった。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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