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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    とわとかごめ

    ##半妖の夜叉姫

    *


    「とわちゃん聖ガブリエルなの? すごいじゃない、草太やるぅ!」
     かごめは大喜びで腕に力こぶを作る真似事をした。
     どんな運命のいたずらかは知らないが、こうしてもう二度と会うことはないだろう家族たちのことを他人伝いであれ耳にできたのは嬉しいことこの上ない。
    「でもまだ、全然通ってなくて。馴染む前にこっちに飛んで来ちゃったというか、戻って来ちゃったっていうか……」
    「そっかそっか。でも大丈夫よきっと。おじいちゃん、欠席の理由考えるの得意だから」
    「例えば?」
    「えっと……」
     水虫が爆発した。朝起きたら目から血を流していた。静電気がひどすぎて触ったもの全てから火花が出た。
     ありとあらゆる病気をでっちあげた後にもかごめの祖母は彼女が中学を休む理由をずっとずっと考え続けてくれていた。なれば、孫が中学をいつまでやもわからない欠席する理由を作り上げるなんて簡単なことだろう。
    「やだ、そういう理由で私休んでることになってるの?」
    「きっとそうよ。でもよかった。みんな元気にしてるみたいだし……」
     十年と余年。
     最後に見た弟・草太はぶかぶかの学ランを着た中学生だったというのに、聞けば、あの萌ちゃんと結婚までした上にかわいらしい娘までいるというではないか。マンションの上層に部屋があって、とわが欲しいと言った筋トレ用品だって買ってくれる、理想のパパ。
     髪が銀灰色であることだって気にしない。
     人よりちょっと丈夫で力持ちでも気にしない。
     ただ、それを内緒にしておくよう約束しただけで──彼はとわにとって、とてもいい『パパ』だったのだと言う。
     喧嘩に明け暮れてもまずはとわが無事かを気にかけてくれて、理由なんていいよ、とまで。幼い頃に姉・かごめが連れてきた犬夜叉との短い間ながらの交流は間違いなく大人になった草太の心にも根ざしていたのだ。
    「……大ママがね、かごめ叔母さんの服、まだ捨てられないって 言ってた」
    「ママが……?」
    「いつか帰ってきたとしてももうそんな歳じゃないのにね、って。……でも私、スカートとか履きたくないし……きっと芽衣が着てくれるよ」
    「……うん、そうね。ママってば……」
     芽衣ちゃんってあたしの姪っ子になるのよね。会ってみたいな、とかごめは少しばかりの寂寥感を滲ませて笑った。
    「振袖も。成人式で着る予定だったって見せてくれたよ」
    「……うん」
    「あれもきっと私は着られないから、芽衣が着てくれるといいな」
    「……うん」
    「やっぱり……寂しい?」
    「……うん」
     かごめは膝を抱いた。
     もう二度と戻れぬことは覚悟していた。それでもこの戦国時代で犬夜叉と共に生きることを選んだからそれを悔いたりはしない。そう自分に言い聞かせてきたし、今でも犬夜叉と共に在ることを選んだのは間違いじゃなかった、と胸を張れる。
     けれどこうして時間という大きな隔たりを挟んだ家族たちのことを聞くと──少しだけ、心は揺れる。
    「でもさ、大ママってすごいんだよ」
    「え?」
    「もろはのこと。見ただけでかごめ叔母さんの娘だ! って分かっちゃったんだもん」
    「そうなの?」
    「うん。もろは、あんな感じだしお母さんもそっくりなのかと思ったら……かごめ叔母さんはもろはみたいに暴れないし。大ママは流石だなぁって」
    「あ……あたしも……もろはくらいの年頃には……結構やんちゃ、だったから……」
    「え?」
     そうだったの? と聞けば、かごめはあはは、と笑いながらこくりと頷いた。
    「中三の頃よ、戦国時代(ここ)に来たの。最初は犬夜叉とも喧嘩ばっかり、しょっちゅう怒って現代に帰ったりもしてたし……」
     もろはとまではいかずとも、現代でもそりゃあ自由に振舞ってたくさん家族を困らせた。
     真夜中に帰ってお風呂に入ったり、朝一番から台所をめちゃくちゃにして黒焦げの卵焼きを作ったり。ママは嬉しそうだったけど、お重持たせてくれたり。自転車もすぐ壊しちゃうし救急箱もパンパンにして持っていくし……と。
     もろはのリュック、あんな感じのをあたしも持ってて、いつも持てないくらいにいっぱい詰めて。
    「そうなんだ。なんだか意外」
    「そお? 今でもあたし、落ち着きないし珊瑚ちゃんに頼ってばっかりだし……もっと、ママみたいな大人になりたかったな」
    「私から見たらかごめ叔母さん、もろはのお母さんだよ。もろはのことすっごく大事にしてるってちゃんと伝わってる」
    「……そっか。ありがとう、とわちゃん」
     でもね、とわちゃん。
     かごめは弟に育てられたという姪の頭を優しく撫でた。殺生丸の娘だと言われたら頷けるかもしれないが、この底知れぬ人懐こさや誰に対しても分け隔てなく接するおおらかさは現代で育つ中で得たものやもしれない。
    「私も……パパと、うまくやれるかな」
    「……そうね。殺生丸、草太とは随分と違うタイプだから……」
    「……うん」
    「でもね、とわちゃん。これだけは覚えておいて」
    「え?」
    「殺生丸だって……お義兄さんだって、とわちゃんとせつなちゃんのこと、嫌ってなんかいないのよ。ただちょっと、素直じゃないだけで。強く生きてほしいから、あぁやってるだけ」
    「……そう、なのかな」
    「そうよ。だって殺生丸のお父さん、とっても強かったんだもの。おかげであちこちで因縁つけられちゃって」
    「ほんと?」
     そうよぉ、とかごめは過去を懐かしむように目を細めた。
     大陸から妖怪が海を渡ってくるわ、猫どもと終わりなき闘争を繰り返したり。そのせいで犬夜叉もあたしも振り回されたけど、殺生丸も一緒。
    「一番はあれね、お父さんの遺した刀を巡って大騒ぎ。犬夜叉と殺生丸はそっちのけで喧嘩し始めるし……あっ、蓬莱島もそうだったかな。なんか揉め事に巻き込まれたときって、大抵お父さん絡みだったりしたのよねぇ」
    「えぇ、そんなんだったの?」
    「そ。だからとわちゃんももしかしたらあっちこっちで殺生丸の娘め〜! って言われるかもよ」
    「それは……もう言われちゃった、かも」
     殺生丸の娘め、夜叉姫どもめ、とか あれやこれや。
     そんなこととわは知ったこっちゃないと思っても外野は次から次へととわとせつなを事あるごとに『殺生丸の娘』であることを理由に襲いかかってきた。
    「じゃあもう分かるわよね。どうして殺生丸が強くなってほしいのか」
    「……また因縁つけられる、ってこと?」
    「きっと。絶対よ。だって犬夜叉、この間もお父さんに昔やられた! って妖怪に喧嘩売られてたもの。とわちゃんもどんどん言われるわよぉ」
     楽しそうな声音ではあるが、どこか悲しそうな。
     避けられぬ未来を憂うようにかごめは慣れ親しんだ現代の制服に身を包んだとわの身体を抱きしめ、「大丈夫よ、きっと」と優しく囁いた。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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