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    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

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    妖怪ろくろ回し

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    翡翠とせつな

    ##半妖の夜叉姫

    *


     いやふおーん、と言うものらしい。
     もろはが貸してくれた──もとい、彼女がとわの実家から拝借してきた、この小さなやらかいでんでん虫を背負った小石は。
    「これは?」
    「使い方は……確か、」
     翡翠はせつなの手元を覗き込んだ。
     半妖だ、と教えられたところで関係は変わらない。ちょっとばかり退治屋仲間よりも力が強かったり動きが俊敏だったり打たれ強かったり、夜分眠らずとも平気だったり食事を摂らずともふらついたりなんかしない。
     否、記憶を手繰れば思い当たる節は多々ある、が。
     しかしこれまで共に肩を並べて戦ってきたせつなが半妖であると知れたところで、それらの疑問が解消されただけに過ぎない。『これまで』の関係が、『これから』の関係が変わることもない。
    「不思議なからくりだな」
    「片方を耳に入れろ」
    「これを?」
    「そうだ。もろはがよく使っていたが……これでいいはずだ」
    「ふぅん……」
     小さな箱を叩けば、なんとこの蝸牛から音が出る仕組みらしい。
     しかしずっと使うためにはとわの実家で更に大きな箱で存分に繋ぐ必要があるので、今せつなが手にしている小さな箱はあと少ししか使えないのだとか。説明を受けてもさっぱり理解はできなかったが、ともあれ、もろはは「せつなたちも使ってみろよ、すげぇぞ」と笑顔で押し付けてきたのだ。
    「箱の横を押して……それから、選んで……」
    「すごい。光る箱なのか。どういう仕組みなんだ?」
    「それは分からぬ。忍者が使う道具でもないらしい」
     とわが暮らしていた世界はせつなの知るそれとは大きく異なっていたが、『忍者』という存在についての見解は概ね一致していた。
     故に、彼女が持つ多くのものはてっきり忍者道具の一種かと思っていたがそうではないらしいということも分かった。この光る箱も同じ。漢字や仮名や、その他に見たことのない──南蛮のものらしい──文字がたくさん刻まれ、驚いたことに指を滑らせればそれは順繰りに回っていくのだ。
     すわいぷさせて、たっぷして、消すときはほーむぼたんね。使わないときは停止ぼたんを押してすりーぷにして……
     と、とわの呪文がせつなの脳裏に蘇る。
    「お」
    「……こうか。聞こえるか?」
    「あぁ。なんだこれは?」
     翡翠が首をかしげる横でせつなもまた音を発する小石の片方を左耳に入れた。骨を震わせるような感覚と共に耳朶を叩いてくるのは知らない音ばかり。ばいおりんという楽器の音色でもない。もろはの聞いていた雑音が混ざり合った音たちでもなく、流れるようななだらかな音階が二人の耳に流れ込んだ。
     やわらかく、やさしく、ここちよい。
     子守唄ではなさそうだが、もろはが聴きながら踊り狂っていたそれでもないが、演者の文字は読めないがとわがよく話してくれたあいどるの名前だろう。
    「とわが住んでいた世では有名だそうだ」
    「うん? こんな摩訶不思議な音がか」
    「……理解できぬが、事実なのだろう。他にも色々あるぞ」
     たっぷ、とは箱を指で叩くこと。
     すわいぷ、とは箱に指を横方向へ滑らせること。
     教えられた通りに指を動かすと、箱が光ると同時に次々違う音楽が耳のかたつむりから耳へと入ってくる。何を唄っているのかもさっぱり分からないが、なんとなく全て同じ人間の歌声だろうということは察した。これがじゅりあん、という者だろうか?
    「せつな、こういうのが趣味なのか?」
    「いや……」
    「……」
    「でも、」
    「でも?」
     そして翡翠は見逃さなかった。
     寡黙で表情変化も乏しく、戦(いくさ)においては誰にも負けぬ尋常ならざる乙女が──そっと、口の端を持ち上げたことを。
     甘ったるい鳥肌を誘うような音楽のどこがいいのかは分からないが、そんなことはどうでもいい。いまこの瞬間、翡翠の向かい側で光る箱を弄りながら少女が浮かべた笑顔を得られた喜びを胸に、彼は遠い異国の地で育ったというせつなの姉に感謝の念を送った。
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    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

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