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    鷹梁先生とミナト少年の話

    潮吹きしないと出られない部屋
     ミナトが壁にデカデカと表示された露骨な文面に戸惑っていると、突然右手の壁から大きな音が響いた。誰かが蹴っているような物音。次いで慣れ親しんだ声が二つ聞こえて、ミナトは壁に走り寄った。鷹梁先生も後に続く。
    「大和先生!?」
    「ミナト?そっちも閉じ込められてんのか?」
     返事をしたのは幼馴染の方だった。どうやらアレクは大和先生と一緒らしい。閉じこめられてる、ということは自分達と同じ状況なのだろうか。
    「うん、鷹梁先生と一緒」
    「!先生もいんのか」
     鷹梁先生、と聞いてあからさまにトーンが上がったアレクの声にミナトの口元が緩む。自分も人のことは言えないだろうけど。
     ただ、ミナトはチラリと後ろを見る。自分の少し後ろで壁を──きっとアレクのことを注視している鷹梁先生。その肩越しに、消えも薄れもしない文字が嫌でも目に入る。
     急に口が乾いて、ミナトは無理矢理唾を飲み込んだ。隣の部屋に大和先生とアレクもいて。でも果たしてそれは良いことなんだろうか?
    「あの、さ。アレク。こっちの部屋、『潮吹きしないと出られない部屋』って書いてあるんだけど……」
     ミナトは恐る恐る口を開いた。きっとそうじゃないといいな、と祈りつつ。しかしさっきの荒れ様から、たぶんそうなんだろうという確信があった。
    「……ッ、知らねぇよ!!」
     ああ、耳を赤くして怒鳴る幼馴染の顔が見えそうだ。ごめん、と壁越しに謝る。
     でも、とミナトは思案する。この部屋にいるのは大和先生じゃなくて鷹梁先生だ。そしてアレクと一緒にいるのも鷹梁先生じゃなく大和先生で。それでこの部屋から出ようとしたら、自分は誰と……。
    「うわッ」
     答えの分かりきった問答を中断させたのは、幼馴染の短い悲鳴だった。間髪入れずにマットレスが弾む音、そしてギシリとベッドが軋む音がした。
     少し遠ざかった幼馴染の激しい声。それを縫うように聞こえるのはよく似た、でもいくの軋む音が重なっているのに気付ける程度には、この壁は薄いみたいだ。
     ──めくるめく思考の中肩を叩かれて、ミナトは文字通り飛び上がった。誰が、なんて分かりきってる。だけど振り返るのにはひどく勇気が要った。
    「ミナトくん」
     自分とよく似た顔。でも少し背が高くて、眼鏡の奥の瞳は自分より浅い色をしている。
     だからだろうか?いつも病院で見るのと変わらない、優しい笑顔のはずなのに、背中がゾワリとしたのは。
    「あのっ」
    「ベッドに上がって、仰向けに寝てくれる?」
     大和先生助けて
    らか低くて、もっと落ち着いた声。二人の声と、ベッド そんな少年の祈りは、背中に添えられた手の感触に掻き消えた。

      ◆

     ミナトがおずおずとベッドの真ん中に腰を降ろすと、鷹梁先生もベッドに乗り上げてきた。ベッドが沈み込んだ拍子に自分の足が鷹梁先生の腿に触れて、ミナトはパッと足を引っ込めた。心臓がバクバクして、今にも胸から飛び出そうだ。
    「大丈夫」
     それに気付いた鷹梁先生がゆるゆると目を細める。淡い水色の瞳は黒い瞳孔が良く目立って、見つめられると落ち着かない気分になる。
    「気持ちいいだけだから」
    「え?」
    「大和先生のこと考えてたらいいよ」
    「えっ、いや」
     ミナトの腰の横に手が置かれた。シュ、と白衣の裾が擦れる音がして、下半身が白衣のカーテンにに覆われてしまう。
    「それともアレクかな?」
    「っ」
     幼馴染の名前を出されてドキリとする。アレクは鷹梁先生の恋人で、でもおれとも色々してる。先生達はそのことを知ってて、特に大和先生はあんまり良く思ってないけど、鷹梁先生はどうなんだろう。
     ミナトがそんなことに気を取られていると、シュルリという音と共に首元が涼しくなった。ハッと鷹梁先生の手を見れば、いつの間にやら赤いネクタイが握られている。
     ──脱がされる。慌てたミナトはなんとか言葉を捻り出そうと手を右往左往させた。しょうがないのは分かってるけど、でもやっぱり、大和先生じゃないと嫌だ。
    「た、鷹梁先生が、自分以外としたって聞いたら、アレク怒りますよ」
     咄嗟に出た言葉は、けれど事実だ。アレクは独占欲がとても強い。だから鷹梁先生と仲が良い人は大体あんまり好きじゃなくて、特におれの大和先生のことは大嫌いだ。だから今も、ずっと壁の向こうで喧嘩してる。
     ミナトの言葉に、鷹梁先生は動きを止めた。視線を左上に彷徨わせて、うーんと首をひねる。
    「まあ、確かに知ったらすっごい拗そうだけど……」
     眉を八の字にした鷹梁先生はさも困り顔だが、どことなく楽しげな色が口元に滲み出ている。楽しんでいるのはこの状況なのか、それとも拗ねるアレクの予想図だろうか。
    「でも、仕方ないよ。出られなかったらミナトくんも困るだろ?」
     それにまあ、君とならアレクも許してくれるさ。
     掴まれた手首に、少年は自分の切り札が脆くも崩れ去ったのを悟った。ジワジワと近づく瞳に、溢れたのは最後の悪あがきだ。
    「や、大和先生、は……」
     レンズに付いたホコリが見て取れる距離で、鷹梁先生はニコリと微笑んだ。
    「大和には後で謝っとくよ」
     ──もうダメだ。少年が全てを諦めたその瞬間、両手首がキュッと絞まった。
    「はいできた」
    「へ……」
     見れば両手が拘束されている。自分のネクタイだ。……いつの間に?
    「えっ」
     トン、と胸の中央を押されて背中がベッドに倒れ込む。シーツの冷たさを感じる間もなく、鷹梁先生の指がスルスルとボタンを外していく。普段意識したことのない、自分よりいくらか白い手は、思っていたよりも大きくて逞しい。
     少年の濃い緑の髪と、前を開けられてなんの役にも立たなくなったシャツの裾が無防備にシーツにばら撒かれている。一拍遅れた脳みそが急激に羞恥心を運んできて、ミナトは不自由な手をくねらせた。背中を丸めて胸の前に手を置いて、少しでも体を隠せるように。
     しかし大人の手はそんな抵抗はお見通しとばかりに少年の肌を這う。
    「やっ」
     指先でヘソをくすぐられて、予想外の刺激に思わず下げた腕の隙間。ピンク色の突起を正確に捉えた手はそれをキュッと摘み上げた。
    「アッ」
     少年の上擦った声は、ベッドしかない部屋によく響いた。途端、ずっと壁の向こうから聞こえていた諍いの声がピタリと止む。
     聞かれた。慌ててミナトは口を抑えるも、すでに後の祭りだ。
    「君もここ好きなんだ」
     こんなことをしているのに、鷹梁先生は世間話をするような口調だ。少年の羞恥心なんて素知らぬ顔で、固くなり始めた突起を指先で転がす。
     裾野をスリスリと指の腹でなぞられたかと思えば、先端の微かな窪みを爪の先で探られる。ジンジンするもどかしさに身をよじった
    「」

    隣から喘ぎ声。先走りが垂れる。
    「向こうも始めたみたいだな。アレクくんも気持ちよさそうだよ」
    一拍。スッと真顔になる先生
    「妬いちゃうな」
     さっきとは違う。低い声。
    ビクッ
    震える太腿。見やれば少年の円い目。いつもの笑顔を浮かべる先生。
     
    「なんでもないよ。……こっちに集中しな」

    隣の喘ぎ声が先生の声に聞こえる。先生もこんなふうに喘いだりするんだろうか。あのカッコいい先生が。
    脳裏にする前の記憶が浮かぶ。人好きのする、でもどこか怖いような、瞳の奥の猛禽類じみた光。
    この人の前、先生も乱れるのだろうか。肌を上気させて、開きっぱなしの口から涎が溢れて、今の自分のように為すすべなく──
     ゾワ、と背中に走った震えは唐突だった。ゾワ、ゾワワ。余りにも刺激的な妄想は未熟な体を突き抜けた。
     震えから逃げるように腰が持ち上がる。恥骨の奥がキューっとして、あ、と思う間もなく尿道を快感が迫り上がる。
    「あ、あっ、アぁッ……!」
     射精する少年。そんなに攻めてないのにいきなりだったので飛び散る精子。眼鏡にかかる。慌てて口で含む。
     射精が終わる。口に溜まった精液を手に吐き出す。ドロドロと粘度の濃い精液は10代のものだ。
     荒い息のまま目を開ける少年。飛び込んできたのは口の下に添えた手に液溜まりを作る先生。唇から白濁が糸を引き、レンズにも飛び散っている。
     舌が糸を切って、先生が笑みを浮かべる。さっきまでの笑顔とは違う。眉を寄せて口角をあげる、大人の笑み。
     
     早かったね。
     
    「アレクくんのこと考えてたの?それとも……」

     大和先生かな?
     顔を真っ赤にする少年。先生は片手で眼鏡を外す。
     潮吹きのために敏感な亀頭を責めようとする先生。びっくりして嫌がる少年。

    「いまさら暴れないの」
     スル、と目を何かが覆う。目隠しだ。
    「やッ、や、やだ」
    「怖くない怖くない。何回もしたことあるだろ?」
     亀頭を口に含まれる。敏感なところを責められて否応なしに復活する。でも潮吹きは……漏らしたみたいで恥ずかしいから嫌だ。大和先生以外の人に……。
     集中できない様子の少年。敏感すぎるのもあり、時間がかかるなと思う先生。無理矢理擦り続ければ出すだろうが、流石にそこまですると痛みもあるだろうし、何より後が怖い。
     仕方ない。右手を会陰に滑らせ、何かを期待するように口を開閉させる後孔に指を入れる。
    「あ!?」
    「こっちもないとできない?」
     気づかれてた?耳まで赤くなる。
    「大和先生の手だと思ってて」

     両方から責められる。強過ぎる刺激がなくなって、ひたすら気持ちいい。いつも先生にドロドロにされるときの快感。手が縋るものを求めて動く
     指は的確にいいところを責める。先生の手と同じ。なんで知ってるんだろう

     体が勝手に跳ねる。口がもう閉じられない。脳みそが蕩けて、自分が自分でなくなる。
     いつもは先生に縋りついてた。でも今は手は空を切る。それが怖い。
     
    「大丈夫、怖くないよ。いつもされてるみたいにしてたらいいんだよ」


     ディルドを取り出す先生。
     奥に入れられる。初々しい反応
    「大和先生のもこれくらいあるよ」
     
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