未完つかるい1昔の夢を見た。
かつて同年代の友人たちとショーをやったこと。新しい演出を思いつき、否定されたこと。いつしかひとりになっていたこと。
幼少の頃から今に至るまでを、走馬灯のように見た。これは夢だ。冷静な頭では、ちゃんと理解していた。しかし、自分の想像以上に嫌な思い出だったらしく、目が覚めた僕は全身冷や汗をかいており、息もあがっていた。
なんだか気分が悪い。
適当にシャワーを浴び、少し休憩をしたあとで、いつも通りの朝の準備を始めた。やや気が重いが、今日は放課後にショーの練習がある。夢を理由に休んでしまったら勿体無い。そう考え、いつもより少し早い時間だが家を出た。
*
学校につき、自分の教室に向かう途中、司くんを見つけた。なにやら教師と話し込んでいるようだが、別に注意を受けているというわけでは無さそうだった。そういえば彼は学級委員だった。何か仕事を任されているのかもしれない。大変そうだな、と心のなかで呟くと同時に、早く終わらないかな、と思っている自分がいることに気付く。何故?司くんが話し終わったところで、自分は何も用事はないのに。自分の気持ちを理解することが出来ず、頭を掻いた。深く考えても分からないので、はぁ、とため息をつき、自分の教室に入る。
心の中は、何かもやもやしたものが溜まっているような感じがした。
*
昼になり、クラスメイトたちは昼食を食べに移動を始める。
今日はあまり食欲がないし、今度やるショーについて考えようか。この前のショーで使った装置を上手く使い回せないかな。ああ、そうだ、あそこで使うのはどうだろう。
「__い、おい!聞こえていないのか!類!」
ふと、司くんの声が聞こえて振り返ると、教室の入り口から、司くんが呼んでいた。その姿を見ると同時に、僕は反射的に駆け寄っていた。
「司くん、どうしたの?」
「いや、そんなに慌てなくても良いんだが……昼食を一緒にどうだろうかと思ってな」
「あー……」
失敗した。今日は家から何も持ってきていないし、食欲がないからと教室に残っていたから、今から購買に行っても手遅れだろう。でも、司くんが誘ってくれたのに断るのはなんだかできなくて、黙り込んでしまった。
「類?」
「……あの……その、ええっと……」
何か言おうと口を開いても、そこから漏れるのは意味をなさない音ばかり。適当に嘘をつくことも、本当のことを言うこともできなかった。いつもは有能な働きをしてくれる脳が、すっかり動かなくなってしまったようだ。
「……類、別に無理矢理ではないから嫌なら嫌と言ってくれればいい。オレはただ少し話がしたかっただけだからな」
「……話?」
「ああ。ショーのことではないから、強制するつもりはない」
ショーのこと以外で、僕たちが何か話すことはあっただろうか。首を傾げると、司くんが気まずそうに目を反らした。
とにかく、この教室のような人の多い場所では話しにくいことなのだろう。目的が昼食ではなく会話だと分かれば話は早い。
「わかったよ。じゃあ、屋上に行こうか」
司くんがこくんと頷いたのを見てから、二人で屋上に向かった。この学校の屋上は居心地が良いが、何故かあまり人が寄り付かない。だから、簡単に二人きりになりたいときにはうってつけなのだ。
外へと続く扉を開ければ、息をのむほど青い空が視界に入る。季節柄肌寒さを感じるが、世界を照らす太陽のおかげで少しはマシだと思えた。
適当なところに座り込み、司くんの話を聞く。内容は本当に他愛もないことで、最近見たテレビとか昨日の夕食のこととかだった。それは、僕の心を少しずつ解していくようで、いつの間にか僕は自然と笑っていた。司くんと話しているときは、いつもこうだ。ショーのときとは違う楽しさがあって、僕はそれが好きなのだ。
気付けば司くんは昼食を食べ終わり、僕らはしばらく並んで座っていた。風で揺れる木々の音と、遠くから聞こえる生徒たちの笑い声を聞きながら、ゆっくりと時間が過ぎていく。そろそろ戻ろうかという頃になって、司くんがぽつりと呟いた。
「……類、お前、悩み事があるんじゃないか?」
「どうしてそう思うの?」
「なんとなく、だ。……今日の類は、どこか上の空というか、いつもと違う気がして、それで気になったんだ」
そう言うと、司くんは困ったように眉を下げた。
僕はいつも通りのつもりだったのに、司くんには気付かれてしまったらしい。どう誤魔化そうか……と考えてみたけれど、すぐにやめる。きっと何を言っても無駄だ。人の体調不良には敏感な司くんだ。嘘を重ねる方がより疑われるだろう。それに、司くんに隠し事をするのは気が引けた。
「……司くんはすごいね。なんでもお見通しみたいだよ」
「そんなことはないぞ。類だって、いつもと様子が違えば誰でも気付く。……で、何があった?」