8/22 画家人魚バドエン本冒頭その部屋はおおよそ人間の暮らしていける環境であるとは思えないほど、そこかしこにゴミや脱ぎ捨てられた衣服が散乱し、切れかかった電球がチカチカと明滅を繰り返しているような酷いありさまだった。
例えある程度色々な事に大雑把で、多少はずぼらな人物であったとしてもきっと、この部屋に一歩足を踏み入れる事には躊躇うであろう。
部屋と呼ぶより獣の巣穴とでも形容すべき場所。
……そんな様相の部屋の隅、白髪交じりの髪を乱雑に括り、あちこちに絵の具が飛び散った、皺だらけのシャツを身にまとった老人がひとりでぽつんと座っていた。
年の割には若く見える、優しげな顔立ちには似つかわしくないほど厳めしい表情を浮かべて、老人は一心不乱に絵筆を握っている。
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