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    [准牧] 悪魔マンデル君と堕天使プレストン、これ↓の続き
    https://twitter.com/Ordet_er_frit_/status/1784883094635384865

    若干、肌が見えてますがおおむね健全。
    流血ちょっとあり。

    ##准牧准

    悪魔と堕天使(その2) プレストンは固まったままマンデルを見つめた。
     マンデルは部屋の奥、一番高い場所に設えられた椅子に腰かけていた。高い背もたれ、ゆったりしたひじ掛け、はめ込まれたルビーのような装飾が、室内の蝋燭の光にちらちらと光る。
    「お前だったのか……」
     なおも立ち尽くすプレストンを見つめながら、マンデルは片肘をつき、プレストンの言葉を待つように、無言でニヤリと笑った。
    「……地獄に生まれた新しい王というのは、お前だったのか……?」
     地獄に新しい王が生まれた―。その誕生は、天国の空をも揺らし、その事実を知らしめて行った。プレストンもその事実は知っていたが、だが、それが誰なのかは知らなかった。
     部屋に足を踏み入れ、回りを見回しながら、プレストンは小さく笑いながら首を振った。
    「なにが可笑しい」
     ゆっくりと長い脚を組みながらマンデルが眉を上げる。
    「いや、まさか、お前が……」
     プレストンが最後に会った時も、マンデルはかなり上級の悪魔だったが、まさかこの地の支配権を奪うまでになっていたとはプレストンも予想していなかった。
    「おめでとう、というべきかな」とプレストンが言う。
    「おめでとう?」
     マンデルはフンと鼻を鳴らした。
    「こんなの退屈なだけだ」
     この秩序に見放された地を統治することなど、はなから不可能だ。結果、たいていは有象無象をここから眺めるのみで、かえってやることもない。一介の悪魔として好きに飛び回っていた時の方がマシだったというわけだ。マンデルは、ただ味気ない毎日にスパイスを欲していた。
    「別に王になりたかったワケじゃない。あの傲慢な出来損ないが上にいるのが許せなかっただけだ」
     それより、と言いながらマンデルはすっと立ち上がった。
    「プレストン、お前、王の前でそんなみっともなく立ってるつもりか?」
     彼がそう言うと同時に、上から押さえつけられたかのようにプレストンはガクリと膝をついた。固い石の床に膝を打ち付け、プレストンの顔から笑みが消える。
     マンデルがゆっくりと降りてくる。一歩ごとに、カツンと固く鋭利な踵の音が響く。マンデルはプレストンの前に立つと、見下ろしてその背を軽く覗き込んだ。
    「今回は、天国から直で堕ちてきたらしいな」
     マンデルが楽し気に言う。
    「確か前回は、天国で罪を犯して人間界へ堕とされて、それでも天国のご慈悲で牧師なんぞという良い立場を与えられながら無垢な乙女たちに手を出してそのうちの一人が耐えきれず命を殺め、その兄弟に撃ち殺されて結局この地獄へ堕ちて来たんだったかな?」
     一息で言ってわざとらしく首を傾げるマンデルに、プレストンの頬が赤くなる。
    「だが、一体どんな手を使ったのか、此処に耐えきれなくなって、いつの間にか天国に戻ったらしいな。どうやったんだ? 天国の主の足に口づけでもしたのか?」
    「……」
    「……したのか?」
     無言で唇を噛むプレストンに、ははっと嘲るようにマンデルの口から笑い声が漏れる。
    「で、せっかくそこまでしたのに何故また堕ちてきた? この有様だと、随分派手にやらかしたんだろう?」
     プレストンの目は床を見つめたままだ。
    「いや、言わなくていい。お前のことだ、おおかた、また天国の女神たちに手を出したとか……」
    「ち、ちがう……!」
     プレストンがぐっと顔を上げ遮った。だがマンデルは上体を屈め、その耳元に囁いた。
    「図星だろう、プレストン? 俺ほどお前のことを知り尽くしてる奴はいないからな」
     触れてもいないのに耳を舐られるような感覚に、プレストンの体がぞくりと震えた。
    「まあ、お前にはあそこの神聖な空気は似合わんだろうが」
    「神聖?」
     顔を離したマンデルを、プレストンが見上げた。
     その顔からは屈辱感は消え、暗い笑みが浮かんでいた。
    「あそこは、そんなお綺麗な世界じゃない」
    「ふうん」マンデルが面白そうに笑う。
    「まあ、あそこがどんな場所でも俺にはどうでもいいが。どうせお前はまたすぐに音を上げて、恥もなにもなく逃げ帰……」
    「帰らない」
     プレストンの手がぐっと固く握られる。
    「もう二度と帰らない。だから……」
     その言葉は、いつになく固い意思を帯びていた。マンデルも何も言わずプレストンが続けるのを待った。
    「……しばらく此処にいさせてほしい」
    「好きにしろ。お前はもうこの地獄の住人だ。俺の許可などいらん」
    「違う」プレストンは割れた唇を舐めた。
    「ここに、お前の所に、いさせて欲しい」
     言ってしまったというように目をそらし、しばらくは、と小声で付け加える。
     これまで地獄に堕ちてきた時も、なにかとマンデルの視界に入っていた男だ。だがさすがに住処を共有したことなどない。だがマンデルにはわかっていた。堕ちてきたばかりの弱弱しい堕天使なぞ、この地獄の街に放りこまれたら、あっという間に飢えた悪魔たちの餌食になる。この小心者が王の庇護を乞うのも無理はない。
     マンデルがゆっくり歩きながらプレストンの後ろに回る。跪いたその背に手を伸ばし、薄汚れ、端が破れたローブの首元にマンデルがその細い指をかけると、破れ目が広がり、はらりと垂れた布の下からプレストンの柔い肌が露わになった。その肩が僅かに跳ねる。
    「なあ」
     マンデルがその首元を舌先で触れると、プレストンの喉が小さく上下した。
    「そんなに俺のもとが好きなのか?」
     顔を離し上体を起こし、マンデルは指先で背に触れる。そこから首筋を下りて、肩甲骨へ。そしてそこに走る傷跡をなぞる。
     もぎ取られた翼の跡。天国を追放された消えぬ証。
     その背には一つではなく、幾本もの傷跡が走っている。一つ一つなぞっていたマンデルの指が、一番上の真新しい傷口をなぞる。そこはまだ赤く腫れ、白い皮膚を割っている。
    「っあ……いっ……」
     痛みに思わずプレストンの上体が前に傾く。
     だが、マンデルの指先がじりじりと進むのと同時に、プレストンの体の表面は、彼の指が触れる所を除いて麻痺していった。代わりに、体の内側が沸々と熱をもつ。
     マンデルの冷たい指先が傷口の下の肉へ食い込む。だがそれが苦痛なのか悦なのか、プレストンにはもはやわからなかった。頭の中が腫れ、思考ができない。
     マンデルの指先の通ったあとに、赤い血が滲み出す。肩から腕へ伝い落ちた血がぽたりと黒く冷たい床に滴り落ちた。
    「まだお前にもこんな綺麗な赤い血が流れてるとは」ふっとマンデルが笑う。
     マンデルがプレストンの前に立つ。その指先は、プレストンの体から流れた鮮やかな赤に濡れていた。マンデルは小さく口を開け、そして見せつけるようにゆっくりとその指先を赤い舌で舐めた。
     凝視するプレストンの前でマンデルは冷たい笑みを浮かべて、ごくりと喉を上下させた。
    「お前のことは別に好きでもなんでもないが」
     マンデルが一歩踏み出すと、静まり返った空気にチリンと装飾の小さな音が響く。
    「だが、お前の味は嫌いじゃない」
     マンデルの手がプレストンの顎を優しく掴み、持ち上げる。
    「俺と一緒にいたい? 好きにすればいい。俺の腕の中に堕ちてきたのはお前だ」
     プレストンは悟った。
     もはや後戻りは出来ない。もう自分はこの悪魔から逃れることは出来ないのだと。
     天国の加護を失った体が打ち震える。だがそれは怖れからではなかった。
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    Replies from the creator

    Ordet_er_frit_

    DONEフォラクレのクリスマス話。ドイツの小さな街にて。
    なお、アンティ…が成功したIf設定です。
    Stille Nacht ~静かなる聖夜~ 雪混じりの冷たい寒風が、クレーバーを嘲笑うかのように吹き抜ける。
     耳が千切れそうな冷たさに、帽子を忘れたことを激しく後悔する。だがクリスマスイブには店も開いていない。
     クレーバーは鼻をすすった。ふと、人前で鼻をすするのはやめなさいと博士に言われたことを思い出す。
     だが、もうここに博士はいない。
     もう一度、派手に鼻をすすると、冷たい空気が脳天を突いた。馬鹿だった。
     だが冷たい空気と一緒に、甘く香ばしい香りが鼻をくすぐった。クンクンと探る。たぶん、これは広場の方だろう。あてもなくフラフラしていた足は、突如目的をもってサクサクと雪を踏みしめた。
     街の広場には、一応クリスマスツリーが立ち、クリスマスのデコレーションがされている。見回すと匂いの元はすぐ見つかった。広場の片隅の小さな移動屋台。暖かい明かりの元、大きな銅鍋の中で、ローストアーモンドがかき混ぜられている。クレーバーは引き寄せられるようにそちらへ歩いていった。店員が、コーン型にした包み紙に、砂糖をたっぷり絡めたアーモンドを入れて客に渡している。前のカップルが嬉しそうに受け取って離れていくと、店員がクレーバーへ視線を移した。
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