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    以前ツイッターにあげたフォラクレフォラ、その1。
    拾われるクレーバーくん🐕
    映画本編鑑賞前に書きました。

    ##フォラクレ

    フォラクレ① You found me 雨粒が窓枠を叩く単調な音。
     それに合わせるように、俺は単調に言った。
    「俺には語ることなんて何もない」
     彼はタバコに火をつけ、ゆっくりと息を吸った。
    「若いとはいえ何かあるだろう?」
    「何もない」俺は繰り返した。
    「ではたとえば、生まれたところは?」
    「中部の田舎町。なんの面白みもないしみったれた町」
     彼は何も言わない。
    「みんなお互いを全部知っているような小さな町だ。誰が誰とヤッてるかまで筒抜けさ」
     下卑たことを言ってみても彼は眉一つ動かさなかった。嫌な奴だ。
    「あそこは俺の居場所じゃなかった。それでこの町に来たわけ。以上」
     トン、トン、トン。小さな雨音が聞こえるほどの沈黙。
     そう、俺は自分の場所が欲しかった。大きな町に行けば見つかると思った。だがそんな希望はすぐ消えた。ここで俺を見てくれる人なんていない。この都会に来て初めて見た野良犬というやつは、驚くほど自分にそっくりだった。
    「そうか」そう言って彼は、タバコを口から外し、俺をじっと見た。頭の中を見透かされているようで、俺は落ち着かない気分になった。
    「そして私のところにとびこんで来た、と。文字通り」
    「あのあたりは稼げるから」
     研究所だかなんだか知らないが、あの辺を歩いてる連中は、面倒に巻き込まれるよりは、財布や小切手を出してさっさと去っていくのだ。
     だが彼は違った。突然現れた俺を推し量るようにじっと見つめ、そして言ったのだ。
    「君、私のところに来るか」
     丸メガネの奥の瞳になにやらぞわりとした。めんどくさい奴は御免だ。今回ばかりは俺のほうがさっさと去る番だった。
     少し行ったところで突然雨が降り出した。さっきまで雲一つなかったのに。しかも、あっという間に頭からつま先までびしょ濡れになるような大雨。つくづくついてないと舌打ちする。
     通りを渡ろうと立ち止まった所で、突然雨がやんだ。いや、雨はまだ降っている。
    「同じ方向だったようだな」穏やかな声が後ろから聞こえた。
     頭の上に差し出された黒い傘。小さく後ろを見やるとさっきの奴がいた。
    「用意がいいんだな」傘をちらっと見上げる。
    「万一のために」
     車が途切れた。彼が歩き出しながら俺の背を押した。別に、無視して違う方向に走ればよかったのだ。だけどなぜか俺は背に軽く添えられただけのその手から逃げられなかった。
     彼のアパートは特に豪華でも貧相でもなく、ありふれた部屋だった。入るとすぐにシャワーをすすめられ、俺はそれにしたがった。何日、いや何週間ぶりのシャワーくらいあびてから、おさらばしよう。
     そう思っていたのに、気付けばテーブルに彼と座っていた。
    「私はフォラーだ、君は?」「クレーバー」
     そして彼は聞いた。君のことを話してくれ、と──。
     彼はタバコを灰皿に置き、ポットからコーヒーを注いで俺の前に置いた。だが、湯気のたつカップに手を付ける気にはならなかった。まだ彼が何者かはわからない。
    「腹はへっているかね?」無言で顔をそむけたが、彼は立ち上がって奥へ消えた。逃げるなら今だと思ったのに、なぜか体は動かなかった。
     数分とたたず、よい匂いが漂ってきた。
    「食べたまえ。きみたちはこの食べ方が好きだろう?」
     椅子の上で膝を抱えて固まっている俺の目の前に置かれた皿の上には、ホットドッグが一つのっていた。だが屋台で売っているようなのとはどこか違う。もっと丸っこくて固そうなパンに、長いソーセージが大きくはみ出している。上にはたっぷりのマスタード。ケチャップはなし。だが、その匂いには勝てず、気が付くとソーセージの端にかぶりついていた。
     口に広がる肉汁と塩の味。こんなに美味しいものは初めてだった。
     思わず涙が出そうになった。ホットドッグを食って泣くなんて馬鹿みたいだ。
     そうだ、と言って彼が部屋を出た隙に、急いで手の甲で目と鼻を拭った。
     彼は手に小さなノートを持って戻ってきた。濃い緑色の硬い表紙がついた洒落たノートを俺の前に置く。
    「これを君にあげよう。日記でもつけてみるといい」
     思わず手が止まる。ほんとにコイツの考えていることがわからなかった。
     彼は指でノートの表紙をトントンと叩き、隣の椅子に座った。
    「われわれ科学者は実験の日誌をつけるんだが、これがなかなか良くてね。自分の考えを整理できるし、後から見るとその日の記憶が蘇る」
     自分の考えなんて大層なものはないし、覚えておきたいようなこともない。俺はそう言い捨てて最後の一口を放り込んだ。すると彼は微笑を浮かべたままスーツの内ポケットに手を入れ、万年筆を取り出してノートの上に静かに置いた。黒光りする高そうな万年筆だ。
    「これで書いてみるといい」
     彼は椅子から軽く腰を上げた。耳元で彼の低く少し掠れた声が囁く。
    「いいことを教えてあげよう。このノートにこのペンを滑らせる感触はとても──」
     彼が続けた言葉に、俺の顔は赤くなっていたと思う。
     一晩過ごして去るつもりが、一晩は一週間になり一カ月になり、そして──
     頬杖をついた指先に触れる顔には、あの頃はなかった皺と髭。薄茶に変色したページを閉じ、俺は擦り切れた緑色のカバーを軽く撫でて箱に放り込んだ。何冊ものノートが詰まった箱に。
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    Replies from the creator

    Ordet_er_frit_

    DONEフォラクレのクリスマス話。ドイツの小さな街にて。
    なお、アンティ…が成功したIf設定です。
    Stille Nacht ~静かなる聖夜~ 雪混じりの冷たい寒風が、クレーバーを嘲笑うかのように吹き抜ける。
     耳が千切れそうな冷たさに、帽子を忘れたことを激しく後悔する。だがクリスマスイブには店も開いていない。
     クレーバーは鼻をすすった。ふと、人前で鼻をすするのはやめなさいと博士に言われたことを思い出す。
     だが、もうここに博士はいない。
     もう一度、派手に鼻をすすると、冷たい空気が脳天を突いた。馬鹿だった。
     だが冷たい空気と一緒に、甘く香ばしい香りが鼻をくすぐった。クンクンと探る。たぶん、これは広場の方だろう。あてもなくフラフラしていた足は、突如目的をもってサクサクと雪を踏みしめた。
     街の広場には、一応クリスマスツリーが立ち、クリスマスのデコレーションがされている。見回すと匂いの元はすぐ見つかった。広場の片隅の小さな移動屋台。暖かい明かりの元、大きな銅鍋の中で、ローストアーモンドがかき混ぜられている。クレーバーは引き寄せられるようにそちらへ歩いていった。店員が、コーン型にした包み紙に、砂糖をたっぷり絡めたアーモンドを入れて客に渡している。前のカップルが嬉しそうに受け取って離れていくと、店員がクレーバーへ視線を移した。
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