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    Ordet_er_frit_

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    ドイツのお酒を飲むフォラクレフォラの二人。40度の蒸留酒を一気に飲み干すドイツ流に挑戦するクレーバー君。酔ったらすごく可愛いことになりそうだな、とおもいました。

    最後に、寝落ちクレーバー君を眺めながら一服するフォラーさん付き。

    ##フォラクレ

    フォラクレ⑤Schnapsidee「クレーバー、どうかしたのかね」
     テーブルの向かいでフォークとナイフの音が止まる。フォラーの声にクレーバーは顔を上げた。
    「君がステーキを3秒で平らげないなんて、体調でも悪いのかね」
     いくら俺でもステーキを3秒では無理だと笑った顔は、いつもより力がない。
    「ちょっと腹の調子が……」
    「どこかで何か変なものでも食べたのか?」
    「べつに野良犬みたいにゴミを漁ったりはしてないですよ」今は、とクレーバーは心の中で付け加えた。
    「たいしたことない。ちょっと食欲がないだけなんで」
     そう言いながらもフォークを皿に置いた彼を見て、フォラーは「いいものがある」と言って立ち上がった。
     しばらくして彼は茶色の瓶と小さなグラスを二つ持って戻ってきた。
    「薬ならいらない」
    「心配するな、これは薬じゃない。酒は飲めるかね」
    「ええ、まあ。ビールとかは」
     フォラーは瓶を開け、ショットグラス二つに注いだ。
    「これはドイツの酒だが、胃腸によく効く」
     そんな酒があるのか、とクレーバーはグラスを受けとった。だが口元に持っていったところで、強いアルコールの匂いに、思わず顔を引いた。フォラーはニヤリと笑い、指先でつまんだグラスを軽く上げた。
    「なお、これは一気に飲み干すのがルールだ」
    「一気に?」思わずクレーバーは聞き返した。
    「そうだ。そしてドイツ人はルールを重んじる」フォラーが厳かに返す。
     クレーバーは観念してグラスに口をつけ、息を止め、一気に口に流し込んだ。
     液体が流れ込んだとたん、口内が焼けるように熱くなりクレーバーは思わず目を剥いた。だが、まさかフォラーの前でグラスに吐き出すわけにもいかない。舌先がひりつく数秒ののち、クレーバーはゴクリと音を立てて一気に飲み下した。流れ落ちる液体をなぞるように喉が熱くなり、思わず小さく口を開ける。
    「なかなか上出来だ」
     満足げにフォラーは笑い、自分もグラスの中身を一気に空にし、美味しそうに飲み下した。
    「どうだ、旨いだろう?」
     クレーバーはにわかには賛成しかねたが、さっきまで胃に石を詰め込まれていたかのようだった体はじんわりと温まっている。フォラーはすかさず、クレーバーの手元のグラスにもう一杯注いだ。
    「一杯だけなんていうのは駄目だ」
     自分のグラスにももう一杯注ぐ。
    「どうした? もう降参かね?」
     そう煽られては断れない。それに、不思議ともう一度やりたいような気持ちがしてきていた。クレーバーは挑むように片眉を上げると、上を向いて一気に煽った。
     さっきと同じように口と舌が熱くなる。だが、今回は少しばかり味わう余裕があった。苦味と、何かわからないがハーブの香りだ。薬みたいだ、とクレーバーは顔をしかめた。だが飲み込むと、苦味は消え爽快感に変わっていく。口の中に残った味は、子供の頃に古い雑貨屋で買ったリコリスのグミみたいだ。瓶のラベルを見てみたが、何が入っているのかは書かれていない。その時、ラベルに書かれている度数に気づいた。
    「40度? これは水とかで割ったりは?」
    「割ってもよいがこのまま飲むことが多いな」
     クレーバーは少し考え、ニヤッと笑った。
    「飲みやすくする方法を思いついた」
     冷蔵庫から瓶をとってくると、慣れた手つきで栓を開ける。
    「コーラで割るつもりか?」眉間に皺を寄せるフォラーをよそに、クレーバーは持ってきた普通のグラスに酒をほんの少し注ぎ、そこにコーラを足した。一口飲んで、クレーバーは勝ち誇ったように笑った。
    「思ったとおり、いい感じだ」
     コーラの甘味の上に被さるように、ハーブの香りと軽い苦味、酒らしいアルコール感が合わさる。フォラーに差し出すと彼は無言で受け取り、軽く口にした。
    「なるほど、悪くない」
     軽く眉を上げて言うフォラーに気をよくしたクレーバーは、さっきより多めに酒をつぎ、コーラを足した。ごくごくと飲むと軽く口の周りの泡を舐める。
    「俺の国と博士の国のミックスだ」
     首を小さく傾げながら無邪気に笑うクレーバーに、フォラーの顔にも笑みが浮かぶ。
    「確かにそうだな」
     しばらく二人は無言でグラスを傾けた。
     いつの間にか、クレーバーの胸につかえていた不快感は消え、そのかわりに頭が心地よい浮遊感に漂い始めていた。ゆらゆらと揺れる頭を支えるように軽く握った両手の間に顎を置く。クレーバーは、グラスを持つ手まで優雅なフォラーをじっと見つめた。フォラーも、白い頬をほんのりと赤く染めたこの若者の顔を眺めた。
    「ねえ、博士」ふいにクレーバーが口を開いた。
    「博士はなんで俺の事そんなに好きなんですか?」
     思いがけない問いにフォラーの手が止まった。だが、乙女のような目でそんなことを聞かれても怯むようなフォラーではない。彼も片肘をテーブルにつき、手でゆっくり顎を撫でながら「さあねえ」と言った。
    「やっぱり顔? それともこのスタイル? 昔モデルにスカウトされたこともあるんだ、実は」
     フォラーは笑ってから目を細め、そして言った。
    「まったく、随分な、Schnapsideeだな」
    「しゅなっぷ……なんだって?」クレーバーが聞き返す。フォラーはグラスを手に取った。
    「Schnapsはこういう強い酒だ。Ideeは考え。つまり、馬鹿げた考えということだ」
     クレーバーは、へぇと呟いてわかったのかわからなかったのか、相変わらず口元を緩ませながらフォラーの琥珀色の瞳を見つめた。

     夕食の皿を片付けてフォラーが戻ってくると、クレーバーはテーブルにくたりと突っ伏していた。フォラーは一瞬不安になったが、近づいて見ると穏やかな寝息を立てている。やれやれと思いながら傍らの椅子に座り、ポケットからタバコとライターを出した。火をつけてゆっくりと吸う。
     長い腕を片方だらりとテーブルの上に伸ばし、もう片方の手の甲に頬を預けて目を閉じる彼は、自分よりも大きな図体をした大の大人なのに、なぜか少年のように見えた。その顎の細い顔を見つめながら、フォラーはふっと息を吐いた。酔いがまわっていたとはいえ、自分を好いているというその前提に疑問を持たず純朴な瞳で問いかけてきた彼の顔を思い出す。
     なぜそんなに好きなのか、か。
     確かに綺麗な顔だ。その金髪と碧眼に我らドイツ人と同じアーリア人の血が流れている気がしたからだろうか。
     テーブルに残っていた酒瓶をグラスに傾け、一口飲む。彼を拾った時には荒れていた肌や髪も随分艶が出てきた。自分に気に入られようと、それなりに身だしなみにも気を配るようになったらしいことくらい気づいている。随分と懐いたものだ。灰皿からタバコを取り、深く吸って、ゆっくりと吐く。煙が届いたのか、クレーバーの鼻がぴくりと小さく動くが、またそのまま静かな寝息に戻った。
     子供を欲しいと思ったことなどなかった。それは今でも変わらない。だが、自分はこの青年を息子のように思っているのだろうか。それとも、何かまったく別の―。
     だがフォラーは浮かび上がってきたその考えを打ち消すように頭を振った。
     自分も酔いがまわっているらしい。まったく呆れたSchnapsideeだ。
     そう思いながら、彼は、すっかり短くなっていたタバコを灰皿に押し付けた。
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    Ordet_er_frit_

    DONEフォラクレのクリスマス話。ドイツの小さな街にて。
    なお、アンティ…が成功したIf設定です。
    Stille Nacht ~静かなる聖夜~ 雪混じりの冷たい寒風が、クレーバーを嘲笑うかのように吹き抜ける。
     耳が千切れそうな冷たさに、帽子を忘れたことを激しく後悔する。だがクリスマスイブには店も開いていない。
     クレーバーは鼻をすすった。ふと、人前で鼻をすするのはやめなさいと博士に言われたことを思い出す。
     だが、もうここに博士はいない。
     もう一度、派手に鼻をすすると、冷たい空気が脳天を突いた。馬鹿だった。
     だが冷たい空気と一緒に、甘く香ばしい香りが鼻をくすぐった。クンクンと探る。たぶん、これは広場の方だろう。あてもなくフラフラしていた足は、突如目的をもってサクサクと雪を踏みしめた。
     街の広場には、一応クリスマスツリーが立ち、クリスマスのデコレーションがされている。見回すと匂いの元はすぐ見つかった。広場の片隅の小さな移動屋台。暖かい明かりの元、大きな銅鍋の中で、ローストアーモンドがかき混ぜられている。クレーバーは引き寄せられるようにそちらへ歩いていった。店員が、コーン型にした包み紙に、砂糖をたっぷり絡めたアーモンドを入れて客に渡している。前のカップルが嬉しそうに受け取って離れていくと、店員がクレーバーへ視線を移した。
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