ノズチア「ね、僕とも遊んでみる?」って冗談めかして聞いたら、ノーズは滅多に見せない驚いた顔をした。
「何の冗談だ、それは」
「え、ひどくない? 冗談でこんなこと誘うワケ無いっしょ」
っていうかさ、まず常識的に考えて欲しいんだけど、普通男が男と寝るなんてそうそう無いと思うんだよね。だってそうでしょ? まず、男相手に抱きたくなるほど興奮する男がいないじゃん。
けどノーズは、多分違う。男も女も抱けるんだと思う。ソシアルクラブのVIP室でノーズに甘やかされる奴はその日によって違うけど、男も女も呼び付けられれば喜んで入って行く。何時間後かに出て来る時には、揃いも揃って浮かれた夢心地って顔してる。
それに、ノーズは僕がふざけて膝に乗っても怒らない。革張りの馬鹿みたいに高そうなソファでくつろいでる時も、寮のベッドの上で憎たらしいほど長い脚を伸ばしてる時も。
「ね、いいでしょ? アソぼ……?」
向かい合わせで腰を下して、その胸元に身体を預けると、僕らの目線はちょうどぴったりになる。真正面から覗き込む赤い眼は、まるでステージのムービングライトみたいに強烈っしょ。
その眼が、好き。低い声がすき。大きな手がすき。優しいとこも、居場所をくれるとこも、こんな僕を心配してくれるとこも。全部好き。けどそんなこと……僕みたいな半端な奴が言えるワケないっしょ。
助けてもらったあの夜から、僕はコイツの世話になりっぱなし。怪我を看てもらって、飯を食わせてもらって、敵から隠して守ってもらって。
でも、僕は? 僕はノーズに何を返せてる? 「お互いに利用し合うだけだ。気にするな」ってノーズは言うけど、じゃあ僕は一体何の役に立ってんの?
ぶっちゃけ、何の役にも立ってない。それどころか負担にしかなってないって、さすがに分かってるっしょ。
「チアキ。俺はくだらん遊びに付き合ってやれるほど暇じゃない」
「え……?」
「悪いが、お前の遊びに付き合ってやるつもりは無いと言った」
くだらないってなんだよ。じゃあなんて誘えば良かったワケ?
僕を押し退けて、部屋を出て行こうとするお前に、「置いて行かないで」とすら言えない僕が。こんな身体で、本音を隠さなきゃお前に手を伸ばすことすら許されない僕が。なんて言ったら、抱き締めてくれるって言うんだよ。
「遊んであげよっか?」なんて遊び慣れてるフリくらいしないと、口が裂けたってこんなこと言えない。だって本当は、女子とだってこんな事……したことないのに。
「……ゴメン」
全部ぶちまけちゃえたらいいのに。泣いて声を上げて「本当は違う!」って吐き出せたら良いのに。
「ゴメン」
情けない僕には、謝ることしかできない。それだって、振り向かない背中に届いたかどうだか、分からないけど。