しかし、半人前の身体というのは不思議なものだ。
この身体ではあまり食事が必要ないのか、入れ替わって半日経った現在までに口にしたものは喉を湿らすためのわずかな水のみ。未だトイレに行ってすらいない。……僕はその方が助かるけど。
彼の人となりを知らない以上、外を出歩いて下手に混乱を招かないようにと病欠させてもらった。彼は僕の身体で行ってしまったが。
彼の出席率に傷をつけてしまったことに罪悪感を感じつつもほっとしていた。
思えばクラスすら知らない。前に聞いたけれど、結局答えを聞きそびれていた。
ソファに座り、リモコンの電源ボタンを押す。
平日の昼番組は退屈なもので付けても面白いものはないが、この空間に一人でいる自分を多少は癒した。
彼の書斎へ長い三つ編みを揺らしながら足を運ぶ。暇なら……と彼が提案してくれた過ごし方をするために。
棚に並ぶ本はあまり見ないようなラインナップで、なんとなく好きな著者の名前を探す。左から右へ、棚の段ごとに目をすべらす。……あった。
同じ段に固められたその本は、今まで読んだことがあるものもあれば、まだ読んでいないものもある。す、と黒い指を伸ばしたが――やめた。
これから先、貸し借りのネタがなくなってしまうんじゃないか、なんて考えて。
それに、せっかくなら彼の読んだであろう別の本を読んでみるのもいいかもしれない。
タイトルで気になったものを2冊ほど取り、書斎を後にした。
テレビは賑やかに芳春を迎えたが、その喧騒は読書の邪魔になる。リモコンの電源ボタンを押すと液晶は黒黒と芳春を見つめた。それに薄らぼんやりと反射した姿もまた黒く、質素とも言える壁の白さに浮き出る。もしこの部屋の壁がもっと黒かったら、輪郭さえもわからなかっただろう。
この身体では。
――无執輝剥
彼が本来のこの身体の持ち主だ。