ホウキ生きてるホウキが大量にアウラのところにあるのを見たクライス
マリーが大量に作って、すぐ動かなくならないようにローテーションで当番制にしていたら長生きしたかわりに動かなくなるタイミングがほぼ同じだったらしい
捨てるのもしのびなくて備品として寄付したのだった
細かい枝を使ってるから室内掃きにも向いてるわよ、とアウラ
半ば押し付けられるようにクライスはアウラからホウキを受け取ると「仕方がないので引き取ってあげます」とむず痒そうに言いクライスは去っていった
一方、マリーは落ち込んでいた
平たく言えばペットロスだ
わっせかわっせか懸命に働いていたホウキたちがいなくなり、アトリエは活気がなくなった上にホコリまで積もる始末
マリーは心情的にも視覚的にもどんよりした中で突っ伏していた
「ううー、"ブラシ"……"クリーン"……"タイル"、"ジェーン"、"ジョン"……」
最後はいいものが思いつかず、結局雑になってしまった名付けだが、それでもマリーは愛着をもって呼んでいた
今でも目を閉じれば愛らしく綺麗なアトリエを駆け回る姿が浮かぶようだ
コンコン、とノックが響くと躊躇いがちに扉が開いた
「マリー、大丈夫?」
シアはここのところ頻繁にアトリエに顔を覗かせていた
心配をさせて悪いなあとは思うが、そんなにすぐには立ち直れない
当時、一人……いや、一本ずつ動かなくなっていくのに立ち会ったマリーはだんだんと元気がなくなっていった
それにいち早く気づいたのがシアだ
しょうがないわよ、寿命があるんだもの、とそっと手を取って肩を貸してくれたのだった
扉から顔だけ覗かせたシアはコホコホと咳き込む
「ちょっと、ホコリっぽいわよ。体に悪いわ」
「そんなこと言ったって、あたしもうホウキ見れないんだもん〜〜!」
マリーが駆け寄るとシアは頭をよしよしと撫でた
「はいはい。ちょっと外の空気吸いましょ」
「うわっ……なんですかこれは」
暗いアトリエに足を踏み入れる
「汚いですねえ……」
散らばった参考書や半端に使用した中和剤をポタポタと零した跡がのこり、混沌としていた
「まったく……あの人は生きてるホウキがないとこんな片付けもできないんですか」
と憎々しげに口を開くものの、ホウキを失ったあとのマリーの様子を想像するとそれ以上罵倒の言葉がどうしても浮かばなかった
依頼を装って様子を見に来たクライスは家主の不在を知ると、体で隠すように持っていたホウキをしっかりと前に持ち直した
「……ふん」
「……え!?え!?あれー!?」
あれから気分転換―ヤケクソとも言う―にと街に買い物に繰り出していたマリーは帰るなり大声を上げた
「あら……」
シアも驚いた様子でアトリエに入る
床はピカピカ、参考書は整頓され中和剤の瓶もきっちりと整列されていた
「マリー、誰か雇ったの?」
「ううん!妖精さ……じゃなくてハウスキーパーはまだお願いしてない!」
「じゃあどうして……」
首を捻っても答えは出ず、マリーは振り切るようにかぶりを振った
「きっとあの子たちがあたしに元気でいて欲しいから綺麗にしてくれたんだわ
……そう思っとく!」
天使の輪っかと羽の生えたホウキたちを思い浮かべ、マリーはシアに笑顔を向けた