ハイド・アンド・シーク 鉛色の初冬の空の下、パトロールが終わり事務所に戻ると何やら賑わっていた。
(何かあったのか?)
そう思いながら入ると
「あ~! やったやった! 懐かしか~」
とSK達が集まって話していた。疑問に思った俺は近くに居た常闇君に
「何が懐かしいの?」
と聞くと驚きながら
「ホークス……! お帰りなさい」
「うん、ただいま」
と返事をしているとさっきまで盛り上がっていたSK達も
「お帰り~」
と俺が帰ってきた事に気付き集まってくる。
「それで、何が懐かしかったんですか?」
と聞くと常闇君が
「幼い頃にしていた遊びについて話していたんです」
と答えてくれる。
「へぇ~常闇君は何して遊んでたの?」
と興味本位に聞くとSK達が
「珍しかこともあるんやなあ~」
と驚きながら俺の事をまじまじと見てくる。
「えっ? どうしたんです?」
「いえ、まさかホークスが興味を示すとは思わなかったので……」
「そうそう、いつもやったらそうなんか~って言うて終わりやなかと」
と言われ今度は俺が驚く番だった。
(確かに……何で気になったんだ?)
と考え込んでいると
「……俺が幼い頃に遊んでいたのはかくれんぼです」
と常闇君がさっきの質問に答えてくれる。それを聞いたSK達は
「かくれんぼか! 懐かしか~」
と言っているが俺は首を傾げながら
「かくれんぼ?」
と復唱していると
「……もしかしてご存じではないですか?」
と常闇君が驚きながら聞いてくる。
「うん、知らない」
と頷くと常闇君がハッとした表情をする。それを見てまた首を傾げそうになったがふと思い出す。
(そうか! 常闇君には俺の過去を話したことがある……!)
「えっと……! 別に俺の家庭事情とかじゃなくて単にやる機会がなかったっていうだけだから誤解しないでね!」
と慌てて訂正を入れると
「……そうでしたか。かくれんぼというのは鬼と子に分かれ決めれた領域内で子が隠れ、鬼はもういいかいと言い返事がきたら探し始め制限時間内に子を皆、見つける遊戯です。」
と気を取り直し淡々と説明してくれる常闇君に
「へぇー」
と言いながら頭の中で情報を整理する。すると
「えっ、そうやったと?」
と驚きの声を上げるSKが居た。
「はい、俺はこのようにして遊んでいましたが……何か間違っている所はありましたか?」
驚きながらも常闇君が聞くと
「俺達ん時はもうよかかいなんて掛け声なかったっちゃんね?」
「そうやなあ、決められた秒数数えてすぐに探しに行っとったばい」
と他のSK達も頷きながら返答している姿を見て
(地域の違いか、もしくは違う遊びなのか? 一度調べてみるか……)
と思いながら携帯を出して調べると、2種類の遊びがヒットした。そして内容を読みながら未だに議論を続けている常闇君達に声を掛ける。
「んー……どうやらスタンダードは制限時間を決めて数え終わったら鬼が探しに行くみたいだよ」
「そうなのですか」
と驚きながらこちらを見る常闇君に携帯の画面を見せながら
「うん、ちなみに常闇君の方は “もういいよ”っていう遊びみたいだけど、かくれんぼと違う点はさっき言ってた掛け声があるかどうかだけみたい」
と伝えるとそこにはたしかに“スタンダードかくれんぼ”と“もういいよ”の他にいくつかの隠れる遊びが載っていた。それを見たSK達は
「こげんあったんやなあ、あっこれ懐かしか」
「ケイドロか~やったな~」
なんて言いながらあれこれ懐かしいと話し合っている姿を見て思わず
「いいな……」
と溢してしまった。しまったと思った時にはもう遅く、その声を聞いた常闇君達が一斉に俺の方を向いて居た。常闇君が何か言おうとしているのを見て
「はい、じゃあ休憩はここまでにして午後も頑張りましょう!」
と言って所長室へと逃げ込み後ろ手で扉を閉める。そしてそのまま扉の前でしゃがみ込むとさっきの一言に後悔する。
(何であげんこと言うてしもうたんだ……! 確かにうらやましかとは思うたけど! でもあそこで言う事ではなかった!)
と思いながら頭を抱えていると、携帯からメールの受信音がする。それに驚いた後、深呼吸して気持ちを落ち着ける。そして
(取り敢えず、仕事に戻ろう……)
と切り替えてその日は仕事に戻った。
以上が1週間前の話である。そして今、俺の前で行われているコレは十中八九あの日、俺の言葉を聞いていたメンバーによって企画されたものだろうな……なんて思いながら目の前の男の子を見る。その子は
「ホークス! はよういこう!」
と言いながら俺に小さな手を差し出していた。その男の子に
「ちょっと待っててね」
と言ってから常闇君を見るとふっと優しく微笑みながら
「どうしましたか?」
と聞いてくる姿に
(ずるいなぁ……そんな顔されたら何も言えないじゃん……)
と思いながらも
「俺がいるからこのゲームは俺達が勝たせてもらうよ!」
と宣戦布告をすると目を見開いた後
「否、俺達が勝たせて頂く!」
と力強く答える常闇君にふっと笑ってから待ってくれていた男の子に
「じゃあ、行こうか!」
と言って男の子を抱きかかえて逃げる。
(さぁ、制限時間内に見つけられるかな? 俺のヒーロー)
ホークスがそんな事を思っているなんて知らない鬼である常闇は飛び去るホークスの後ろ姿を眺めながら
「黒影」
と己の半身である相棒を呼ぶ。
「アイヨッ!」
と元気良く返事をして出てきた黒影を撫でながら1週間前の事を思い出していた。
———1週間前———
「はい、じゃあ休憩はここまでにして午後も頑張りましょう!」
そう言って所長室へと逃げるホークスの後ろ姿をポカンとした顔で見送った後、先輩達と顔を見合わせる。そして
「えっ? 今んって聞き間違いやなかよね?」
という言葉に頷いていると
「ホークス、遊んだことナイノ?」
と黒影が顔をのぞかせる。
「そうみたいだ」
「じゃあさ! みんなで遊ぼうヨ!」
という提案に
「よかね! じゃあ、作戦たてよう!」
と乗り気の先輩達に
「だが、ホークスは忙しい身……時間が取れるかどうか……」
と伝えると
「それなら心配しぇんで、よかイベントがあるけん!」
と言って1枚の紙を見せてくる。それには“NO.2ヒーロー交流会!”と書いてあった。
「なるほど……! それなら人も自然と集まり、ホークスも参加できますね」
「うん、こんイベントは来週やるけんそれまでに決めよう!」
と皆で小さく『おー!』と言いながらその場を解散した。その時の先輩達の楽しそうな顔を思い出しフッと笑った後
「必ずホークスを見つけるぞ!」
「ウン!」
と気合を入れて他の鬼と共に数を数え始めた。
一方、空へと逃げたホークスは博多で一番大きい図書館前に男の子を下ろす。そして
「ここからは君1人で隠れられる?」
と聞くと笑顔で頷きながら
「うんっ! ありがとう!」
「いや、俺の方こそありがとう。これだけよろしくね」
と言って小さな紙きれを渡すと
「まかせんしゃい!」
と胸を張ってエッヘンとしてから走り去る男の子の後ろ姿を見送る。そして
(そろそろ俺も隠れるか……)
と羽根を広げた瞬間、放送が入る。
『こちらホークス事務所―! もう全員隠れたかな? 鬼が探しに行くよー! 制限時間は2時間! ホークス事務所から半径2.5kmん地点にそれぞれマークがあるけんそこん中で隠れんしゃいー! それじゃあ始めるばい! スタート!』
と開始の合図をした後、放送が切れる。
(やっぱり、あの日の言葉を聞いていた人が中心となって今回の“博多の街でNO.2とかくれんぼ!”っていう企画を作ったんだな……)
と思いながら一つ溜息をつくが、すぐにいいかと思いながら歩き出す。
(開始の合図が出されたから空を飛ぶと見つかる可能性が高い。なら歩いて目的地まで行くしかないか……図書館であの子を下ろして良かった)
と思いながら緩む頬をヒーロースーツで隠しながら目的地へと向かった。
開始の合図がしてから1時間が経過したころ、鬼側の常闇は次々と見つかる子の顔を確認しながら参加者リストにチェックをしていた。
「ツクヨミ〜また1人見つけた〜!」
鬼チームの1人がそう言いながら連れてきたのは開始時にホークスと共に公園を後にした男の子だった。
「あそこなら、みつからないとおもったのに……」
と少しシュンとした顔で話す男の子に声を掛ける。
「名前と個性を教えて貰ってもいいか?」
「うんっ! 僕は九条蓮來、個性は水を少しだけ出せるの!」
と言いながら手のひらから水を出す。
「そうか、すごい個性だな」
そう言いながら頭を撫でると嬉しそうに笑っている。
「えへへー! あっ、そうだ! ツクヨミにプレゼントがあるの! はいコレ!」
と言って小さな紙切れを渡される。
「これは誰から?」
と聞くも
「みればわかるっていってた!」
と言ってさっさと集合場所へと行ってしまう。その後ろ姿を見送った後、受け取った紙切れを開くと、そこには見知った字で一言
『見つけてくれる人は君がいいな』
と書いてあった。それを横から見ていた黒影は
「フミカゲ! コノ字、ホークスジャナイ」
「あぁ、そうだな。必ず俺達で見つけるぞ、黒影!」
「アイヨッ!」
と言いながら黒の堕天使で飛ぶ。そして公園の周りで見つけた参加者達を集合場所へと連れて行き、また探しに行く何度かを繰り返していると
『残り30分!』
と放送が入る。
「フミカゲ、まだ見つかってナイヨ……ホークス」
「あぁ、ここは他の者に任せて俺達はホークスを探しに行こう……」
と言って集合場所に居た男性に声を掛ける。
「すまないが、ここをお願いしてもいいだろうか?」
「あぁ、もちろんだ! ホークスは頼んだぞ!」
「感謝する、それでは行ってくる!」
と言ってその場を離れた———
そのころホークスは常闇と夜間飛行をした際に訪れた思い出の鉄塔に居た。
(あっ、また1人見つかった。後は俺を含めて5人くらいか……)
「このまま逃げ切りたいなぁ~」
なんて呟きながら周囲に飛ばしていた剛翼を回収していると
「此処に居ましたか……」
「見つケタ~」
という声と共にトンッと降り立つ音がする。
「ありゃ、見つかっちゃったか~」
そう言いながら後ろを見ると
「えぇ、まさか此処に居たとは思いませんでしたが……」
と言いながら額の汗を拭う常闇君に一瞬ドキッとしながら
「うん、俺も見つかるとは思わなかった。何でここに居るって思ったの?」
と聞くと
「ここは俺にとって大切な場所だったので、もしかしたらと思い……」
と言いながら目を逸らす常闇君の反応を見て
(君にとっても大切な場所になってたんだ……嬉しいな……)
と思いながら緩む頬をコスチュームで隠していると
『残り5分ー!』
とアナウンスが流れる。
「(もうそんなに時間が経ってたのか……)楽しい時間はあっという間に過ぎていくなぁ~……」
なんて思いながら夕焼け空を見ていると
「フミカゲ! 聞イタ」
「あぁ、今のは空耳等ではないよな?」
「ウンッ!」
と嬉しそうに頷く黒影とそんな黒影を撫でている常闇君の反応に首を傾げながら
「そんなに嬉しそうな顔をしてどうしたの?」
と聞くと黒影が笑顔で
「ホークスがかくれんぼを楽しめたことが嬉シイノ!」
と答えてくれる。それを聞いた俺は目を見開きながら
「そんなに顔に出てた?」
と聞くと常闇君が首を振りながら
「今、楽しい時間はあっという間に過ぎていくと仰っていたので」
と言われてようやく気付く。
「俺もしかして……口に出してた?」
「えぇ」
と頷く常闇君を見て
「あー……そっか口に出してたかー……」
(恥ずかしか〜)
と思いながら項垂れると頭上でクスッと笑う声がする。
「……常闇君今笑ったでしょ?」
と言いながら睨むように顔を上げると
「貴方のそのような表情は珍しくてつい」
と言いながら手で口を抑えながら笑っている常闇君に
「俺だって照れるし拗ねるよ……」
と言いながら顔を背けると
「ホークス、また時間を見つけて遊びましょう」
といきなり言われ思わず
「また、遊んでくれるの?」
と聞くと、常闇君は当たり前だというかのように
「勿論です。またこうして遊びましょう」
と言ってくれる。それを見て胸が温かくなるのを感じながら
「そっか……うん、また遊ぼう」
(そして……また俺を見つけてよ)
と思いながら常闇君を見つめていると常闇君は目を見開いて固まってしまった。
「常闇君? どうし───」
たの?と続くはずの言葉は
『あとはホークスだけばいー!鬼ん人達は最後まで頑張れー!』
というアナウンスによってかき消され、常闇君がハッとしてから
「そろそろ俺達も戻りましょう」
と手を差し伸べられる。
「(さっきの表情が気になるけど……)そうだね、戻ろっか!」
と言って手を取り立ち上がる。そして、羽根を広げた際にふと思い出す。
「常闇君」
「どうかしましたか?」
「このゲームまだ終わってないよ」
と言うと少し考えてからハッとして
「ホークス」
「うん」
「見つけました」
「ミッケ!」
と言いながら黒影と一緒に笑顔で告げる常闇君に
「うん、見つかっちゃった! 見つけてくれてありがとう」
と微笑んでから
「それじゃあ皆が待っているから行こうか!」
と2人で集合場所へと飛び立つ。俺らが飛び立った後の鉄塔には1枚の朱い羽根と黒い羽根が残っていた───