君と/貴方と「5分!5分待って!!」
そんな風に慌てながら目の前の情報を整理しようと頭を抱えている最愛の人を見て微笑み此処までのことの流れを思い出す。
事の始まりは俺の事務所に入った一本の電話だった。
「所長!電話です!」
そう言いながら受話器を渡してくるサイドキックに相手は誰だと聞くと出てみれば分かります!と笑顔で返されたので受話器を受け取り電話を代わる。
「もしもし、お電話代わりました。ツクヨミ事務所の所長ツクヨミです。」
「あっ、ツクヨミ?ホークス事務所サイドキック一同ばい。」
その声を聴いて目を丸くし答える。
「先輩方、お久しぶりです。」
「久しぶり、元気やった?」
「はい、先輩方はお変わりないですか?」
「うん、こっちもみんな元気ばい!」
という声が聴こえた後電話の後ろの方で『俺達もツクヨミと話したかけん代わって!』とガヤガヤし始めそれを鎮める声がしブーイングが起きている声を聴いて相変わらずだなと微笑む。
「良かったです、それで今回の要件はチームアップですか?」
「ううん、今回は違うったい。ツクヨミじゃなく常闇君に用があって連絡したんや。」
「俺にですか?」
「うん、12月28日こっちに来るー?」
「12月28日ですか?大丈夫ですが…」
と言いながらメモをとる。
「本当!?そん日ホークスん誕生日で本人にサプライズと称してある事ばしたかっちゃけどそればやるには常闇君が必要不可欠なんばい!」
「サプライズ…ですか?」
メモを取る手を止めその後の話を聞く。
「…はい、はい、分かりました。それでは当日よろしくお願いします」
失礼しますと言い、電話を切る。
「12月28日か…」
そう呟き、サイドキックに12月28日は休暇を取ることを伝えようと所長室を出た。
一方ホークス事務所では歓喜の声で溢れていた。そんな中窓から帰ってきた所長であるホークスは事務所の雰囲気に疑問をもち最年長のサイドキックに
「何かいいことでもあったんですか?」
と聞くと、歓喜の声が一瞬で止み各々仕事へと戻る。ホークスに捕まったサイドキックは
「いやなんでんなかばい。それよりホークス、12月28日にチームアップん依頼入った。」
と淡々とホークスのパトロール中にきた依頼内容を伝えていく。
「了解でーす、じゃあ12月28日はチームアップの予定があるって覚えておきます。」
と返しながらカレンダーにメモをして気付く。この日は…いや、仕事あるし会えないよな…と思い頭の中に浮かび上がった子を隅へと追いやり仕事に戻った。
──そして、迎えた12月28日──
俺は1年ぶりに博多の地へと足を踏み入れた。駅から出ると俺が博多を離れたあの日から風景が変わっておらず『帰ってきたんだな』と思いながら歩き始める。道中
「ツクヨミお帰り!」
と街の人達に声を掛けられ
「只今戻った」
と返すと一人の女子高生が
「ツクヨミが帰ってきたことSNSにあげったっちゃよか?」
「今回はホークスに内緒で帰ってきた故、秘密にしてくれるとありがたい」
と言いながら人差し指を口の前に持っていき『シー』というポーズをとると顔を赤らめながらも
「分かった!街んみんなにも伝えとくね!」
と走りながら街の中心地へと向かっていく後ろ姿を見送り、約束の時間までどうするか…と考えていると黒影から
「フミカゲ!ホークスノプレゼント買イニ行キタイ!」
と言われ、そういえば誕生日プレゼントは買っていなかったな…と思い
「そうだな、じゃあ見に行くか」
とホークスへのプレゼントを探しに中心街へと向かうのだった。
「はぁぁぁ…疲れましたね、エンデヴァーさん」
そう言いながら目の前で机に突っ伏している男を見て答える。
「だらしないぞ、ホークス」
声を掛けると情けない声を出しながら
「仕方ないじゃないですか〜今回俺と相性の悪いパワー型だったんですから」
なんて言ってくるので、溜息をつき
「後は俺がやっておくからお前は此処に向かえ」
と言い住所を書いた紙を渡すとパチパチと瞬きをしてから
「えっ?なんです?それ?」
と言いながら紙を受け取り中を確認するホークス。
「そこでお前を待ってる奴が居る、早く行け」
「誰が待ってるんですか?」
「お前がよく知ってる奴だ」
と言えば少し考えた後、『まさか…』と呟き羽根を広げて向かおうとするホークスの後ろ姿に向けて声を掛ける。
「今回のチームアップ承諾は助かった。それから…誕生日おめでとう」
と言えば、驚いたのか目を見開いた後照れ臭そうにしながら
「ありがとうございます」
と言い飛び立っていく朱い羽根の鷹を見送る。
「ホークス、今日は幸せな日になるといいですね」
と後ろから俺と同じようにホークスを見ていた塚内に声を掛けられる。
「なるだろう、アイツの為に多くの者が動いたんだ。幸せな日になるに決まっている」
「それもそうか」
と言いながら笑う塚内に『さっさと終わらせて約束の場所に向かうぞ』と声を掛け引渡し作業へと戻るのだった。
一方、エンデヴァーに渡された紙に書いてある場所に着いたホークスは辺りを見渡し待ち人を探していた。しかし、指定の場所には誰もおらずエンデヴァーさんが間違えたのか?と思っていると上空から人が跳んできた。
「え?待ち人ってミルコさんなんですか?」
「あぁ!んじゃ、早速行くぞ!」
「どこに行くんですか?」
「行けばわかる!」
と言ってミルコさんは跳ぶ準備をし始めたので俺は羽根を広げて先に飛んで空で待ってようとしたらミルコさんは俺の腰を掴み俵担ぎのように俺を肩に乗せそのまま跳ぶ。
「ミルコさん俺飛べるんで下ろしてください」
「場所説明するより私が運んだ方が早い(速い)からこのまま行くぞ!」
「えっ、ちょっ…」
「後、これ付けておけ!」
と言って俺の話も聞かずにミルコさんが渡してきた物を受け取るとそれは手ぬぐいでで、なんで手ぬぐいなんか?と思って固まっていると
「早く着けろ!それとも着け方が分からねぇのか?仕方ねぇな、着けてやる!」
と言って1回降ろされたと思ったら手ぬぐいを取られ目隠しをされる。
「よし!いいな!じゃあそれ取るなよ!」
「いや、なんでですか見えないんで取りますよ!」
と取ろうとしたら手を掴まれそのまま両手をミルコさんのハンカチで結ばれる。
「ちょっとミルコさん!」
「それ取ったら、お前の大事な奴にチームアップ申し込んでお前の元に行けねぇようにするからな!」
「なんで常闇君のところまで被害がいくんですか!?」
「お前が言う事聞かねぇからだろ?どうする?」
と聞かれ、俺は諦めてされるがままにした。そんな俺を見てミルコさんは『よしっ!じゃあ行くぞ!』と言い跳んで何処かへ向かう。何処に向かうのかを何回も聞いたが一向に教えて貰えず挙句の果て黙ってねぇと口の中切るぞなんて言われてしまったので黙っていると、急にミルコさんが何処かに着地をしたようだった。そして、そのまま歩いているようだった。
「ミルコさん、目的地に着いたんですか?」
「いや、まだだ」
「え?でも…」
歩いてますよね?と言おうとした時女性の声がする。
「お待ちしておりました、お部屋にご案内致します。」
「あぁ、よろしく頼む!」
「え?部屋?案内?ミルコさんどういう事です?」
「お前はまだ黙ってろ」
「いや…状況把握したいんですけど…」
「後からわかる!」
と会話をしていると案内していたであろう女性の声が聞こえる。
「こちらのお部屋になります。」
「分かった!このままの状態で頼む!」
「かしこまりました。」
と言う会話に疑問符を浮かべていると急に降ろされ椅子に座らせられる。
「ミルコさん、俺コレ外して欲しいんですけど…」
「まだ無理だな!」
と言われ、何故か問おうとすると横から
「失礼します。」
という声が聞こえ、何故かヒーロースーツを脱がされる。
「えっ?何を…!」
と言いながら剛翼を広げて羽根を飛ばそうとした瞬間
「ホークス、貴方に危害は加えないので警戒を解いてください」
「えっ?」
俺は幻聴かと思いながらも、声のした方を向き声の主の名前を呼ぶ。
「と…ツクヨミ居るの?」
「はい、居ますよ」
愛しき人のヒーロー名を呼ぶとすぐに返事がし、手を握られる。その手の形は間違いなく常闇君のもので俺は警戒を解き、飛ばそうとした羽根を元に戻した。
「なんで君が此処に?」
「その理由は後でお話致します、今は協力してください」
と言われ常闇君からのお願いという事で渋々頷く。そんな俺達のやり取りを見たからか
「じゃあ、私は退室するぞ!」
とミルコさんが言い常闇君は俺の手を握ったままの状態で御礼を言う。
「今回はご協力してくださった事、感謝します」
「私から買って出た事だから大丈夫だ!そんな事より早く用意しないと他の奴待たせるぞ」
「はい、ありがとうございました」
と常闇君が言った後、扉の閉まる音がした。
「ミルコさん帰ったの?」
「いえ、一度退室しただけです。またすぐお会いできますよ」
「そっか」
「はい、取り敢えず今は準備しましょう。ホークス衣服を替えるので両手を上に上げてください」
「両手を上に上げればいいの?」
「はい、その後は俺が用意するので」
「分かった」
と言って常闇君の指示に従う。着替えさせてもらっている間、常闇君は何度もきつくはないかと確認を取って大丈夫だと答えるやり取りを何回か繰り返していると
「ホークス、お疲れ様です。後は俺ではなく係の方にお願いしているのでその方の指示に従ってくださいね。俺も準備して参ります」
「…分かった。ツクヨミ、後で話せる?」
常闇君も準備してくるとの一言に疑問を抱き、何の?と聞こうとしたのに俺の口から発された言葉は全然違った。その事に驚き訂正しようと口を開いた瞬間
「勿論です、ではまた後で」
という言葉を残して常闇君は退室していった。その後、俺が呆然としている間に準備が終わったようで係の人から声を掛けられる。
「お疲れ様です。全てのご用意が整いました。この後お連れ様がいらっしゃるまで目隠しをされたままお待ちくださいませ。」
「えっ、コレまだ外しちゃダメなんですか?」
「はい、お連れ様がいらっしゃるまで取らずにお待ちください。」
と言われ溜息をつく。すると扉が開く音がし俺の前まで歩いてくる。
「あれ?珍しいですね、貴方から俺のところに来るなんて…何かあったんですか?会長」
と剛翼が拾った音を頼りに入室した人物の名を呼ぶと
「さすがの感知能力ね、ホークス」
と返ってくる。
「まぁ、目隠しされた状態でも感知できるようにと訓練されてきたんで」
と厭味ったらしく言うとまた別の人物が入室してくる。
「会長、そろそろお時間なので先に会場に向かってください」
「目良さんまで、本当に珍しいですね。何かあったんですか?」
なんて言いながら声のしたほうに顔を向ける。
「うん、今日は大役を任されてね」
「大役?」
首を傾げると目良さんは
「あと少しでわかるよ、ホークスおめでとう」
「ありがとうございます」
と返すと俺と目良さんの会話を黙って聞いていた会長が口を開く。
「私は先に行ってるわ」
「分かりました」
と目良さんの返事が聞こえた後、扉が閉まる音がする。
「あの人、何しに来たんですか?」
「君を祝いに来たんだよ」
「の割にはおめでとうの一言がなかったんですけど」
「後でもらえると思うよ」
という言葉が聞こえた後、コンコンと扉のノック音がし
「準備が整いました、会場までよろしくお願いします」
「分かりました。ホークス行きますよ」
と言われ何処に?と聞く前に目隠しを取られる。何時間ぶりの光を見た為眩しさに目を細めていると手を差し伸べられる。その手を掴み目良さんの先導の元、会場へと向かった。
ようやく光に目が慣れてきて辺りを見渡すと教会の中に居て、視線を下にずらし自分の恰好を見てみると白のタキシードを着ていた。訳が分からない俺は目良さんに聞く。
「ねぇ、目良さん。これどういう事?」
「どういう事とは?」
「なんで俺、教会に居るの?それでもってなんでタキシードなんて着てるの?」
「その理由は…」
と言いながら目良さんは一つの扉の前で立ち止まる。そして扉の横に居たこの教会の人であろう女性に会釈をしている目良さんの次の言葉を待つ。会釈をした後扉がゆっくりと開かれる。
「彼に聞いてください」
と目良さんは真っ直ぐ前を見て答える。目良さんの見ている方向に誰が居るんだろうと視線を向けると其処にはサイドキック達とエンデヴァーさん、ミルコさん、雄英高校元1-Aの子達、塚内さん、会長そして、その間のレッドカーペットの先には白いタキシードに身を包み左胸に赤い薔薇を差した俺の愛しき人──常闇踏陰が居た。呆然としている俺に
「行きますよ」
と声を掛けてくれた目良さんはゆっくりと歩き始める。俺は訳も分からないまま目良さんの歩幅に合わせて歩く。そして常闇君の前まで着くと目良さんは常闇君に会釈をして最前列に着席する。いまだに状況を呑み込めていない俺は呆然としたまま常闇君から差し伸べられた手を取る。すると
「なんて顔をしているのですか」
なんて嘴を抑えながら笑う常闇君。その仕草を見て何も言えずにいると落ち着いたのか、嘴から手を離し俺の左手を取る。そして
「俺の生涯をかけて貴方を愛す事を誓おう」
と跪きながら俺の薬指にキスを落とした後
「返事は?」
と聞かれ俺は真っ赤に染まった顔を羽根で隠し冒頭の言葉を述べる。
「5分!5分待って!!」
それを聞いていたエンデヴァーさんとサイドキック達、会長と目良さんは呆れ、雄英の子達はブーイング、ミルコさんは大爆笑をしていた。目の前の常闇君はと言うと黒影と共に嘴を押えながら笑っていた。
「落ち着きました?」
そう言いながら、珈琲を渡してくれる常闇君に『ありがとう』と返し受け取る。あの後きっちり5分かけて状況把握した俺はようやく、『末永くよろしくお願いします』の一言を返し式が終わった。今は教会の近くのホテルで常闇君と初夜をゆっくり過ごしていた。
「でも、まさか貴方から5分待って欲しい等という言葉が出て来るとは思わなかったな」
と思い出したのか嘴を抑え笑う常闇君にムッとした表情を向け
「だって君が来とーなんて知らんし…式もあげるなんて聞いてなか…」
なんて言うと、常闇君から説明を受ける。常闇君の事務所にホークス事務所のサイドキックから『ホークスの誕生日にこっち来れん?』と連絡が入り予定を調節すればと返事をすると『ホークスん誕生日に2人ん結婚式ばあげたかっちゃけど…』と言われたらしい。サイドキック達は常闇君と俺が付き合っているのを知っていて今までずっと一緒に居たから結婚もするのだろうと予測をしたのだが、去年常闇君が独立してから遠距離恋愛になり、遠距離恋愛の最大の壁である浮気をしないかの不安解消を取り除くには結婚がいいのではと思ったらしい。
常闇君は元々その気だったので、『ホークスの誕生日に皆さんからお祝いしていただけるならホークスも幸せだろう』と話を秘密裏に進めていたそうだ。
「そうだったんだ…」
と言いながら嬉しそうな顔をするホークスを見て『あぁ今日、式を挙げられてよかった。』と思いホークスの名を呼ぶ。
「どうしたの?」
そう言いながら首を傾げるホークスに俺は
「ホークス…いや、鷹見啓悟さん改めてこれからよろしくお願いします」
と伝えると、ホークスは驚きながら
「改めてどうしたの?」
と聞かれたので
「今日、俺があの教会で言った言葉は『ホークス』に向けてのものだったので、『鷹見啓悟』さんにも改めて伝えようと思いまして…嫌でしたか?」
と聞くとホークス…いや啓悟さんは下を向き黙って首を横に振る。
「いや、嬉しいよ。君と一緒に居られることも君から名前を呼ばれる事も…俺の名前は公安に拾われたあの日に捨てた物だったのに君が拾って沢山の愛を詰めて俺の元へと届けてくれた。本当にありがとう」
そう、あの日に捨てたのに君は…君だけが拾い上げ、ホークスでは無いただの鷹見啓悟を選んでくれた。それが俺にとって何よりも嬉しかったんだ。どんな親が着けた名前でも俺にとっては大切なものだったから。
「本当にありがとう」
と言いながら涙を流すと常闇君は、
「俺の方こそありがとうございます。あなたが産まれた日に俺を選んでくれた事とても嬉しいです。遅くなりましたが、啓悟さんお誕生日おめでとうございます。これからも末永くよろしくお願いします」
と言われ、俺は頬に伝った涙をそのままに伝える。
「ありがとう、こちらこそよろしく踏陰」
と言いながら2人で笑い合いこれから先の幸せな未来を築いていく約束を交わすのであった。