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    kumohare72ki

    ついったに上げようとしてチキったものをここに投げます。

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    kumohare72ki

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    『紺君と楓ちゃん』シリーズ、おまけとして書いてた紺君の弟・碧君による祝辞風紺君の過去です。消えたと思ってたら出てきました。何で!?
    もったいないのでここに投げて供養。いろいろ設定変わったなぁと思いながら読んで下さい。

    狐に嫁入り その後 やあやあ本日はお日柄もよく――なんて挨拶は僕の柄じゃないんでね。とにもかくにも、皆さんよくぞお集まりくださいました。新郎の弟として御礼申し上げます。しっかし皆さんよく来てくださいましたねぇ。狐と人間の式だってのに。僕ならご免だな。いくら身内だからって――ああ、はいはい。真面目にやるよ。やればいいんだろう?
     えー、それではこちら、似合わない羽織袴でかちこちになっているの今日という日の主役であり新郎であり我らが村の長でありこの山の次の神である僕の兄です。ご存じだろう? 説明なんかいらないじゃないか。わかったわかった。そんなに睨むなよ、兄さん。
     はいはい、新郎のお隣をご覧ください。僕と兄の父であり先々代山の神を殺した猟師の孫です。兄さん、考え直せば? 今なら僕ら、喜んでそいつを食べるけど――よせよせ、睨むなって。冗談じゃないか。家長であり村の長であり次の山の神である兄が選んだ花嫁サンです。僕の義姉でもあります。どうぞ皆さん、食べるならバレないところでバレにくい部分から――痛い! やめろよ兄さん! はいはい、雪のような白無垢がお似合いですね。どうぞ兄さん色に染まってください。
     さぁて皆さんお待ちかね、二人の馴れ初めを話すとしましょうか。怖気が走るね、まったく。兄さんが話せばいいのに。はあ? ちゃんと司会をやれ? 嫌だよ、僕の人間嫌いは知ってるだろ――ってわかったよ、やるから尻尾を燃やそうとするなよ。
     二人の馴れ初めはぁ、皆さんも記憶に新しい、先々代山の神である僕らの父が、猟師に撃ち殺されたことに始まります。長子である兄は、猟師に復讐せんがために数十年、憎き猟師を付け狙いました。
     父を慕っていたのは僕ら家族だけじゃない。村の狐だけじゃない。山に生きるものすべてが父を慕っていた。復讐するのは当然だよねぇ? だからといって、父を殺した猟師を、自慢の牙や爪で殺したんじゃあ芸がない。何より、そんな程度の苦しみじゃあ、僕らの溜飲が下りない。だから兄は、あいつにも僕らにとっての父と同じくらい大事なものができるまで待つことにしました。猟師の大事なものを惨たらしく壊して――もしくは殺して――やるために、兄はそれはそれは執念深く猟師の生活を見守った。
     見守らなきゃよかったね、兄さん。僕はそう思うよ。
     待つこと十年。憎き猟師に初めての孫が生まれました。遠くへ嫁いだ娘じゃありません。同居している息子の嫁が産んだ、玉のような女の子。それが今僕らの目の前にいる花嫁です。猟師のじじいどころか、家中の人間どもが彼女を見て目をとろけさせたそうだよ。おぞましいね。
     家族総出で喜ばれたこの女の子の誕生を、兄もとても喜びました。ああこれで父の敵が討てると、爪と牙を研いでその日を迎える準備を始めました。しかし困ったことに、あの猟師に復讐をせんとする獣は我々が考えるよりも多く存在したのです。
     どいつもこいつも、あの猟師に恨みを晴らさんがために彼女を狙う。始まったのは復讐を賭けた奪い合い。兄は自分のため、僕らのため、山の子らのため、彼女を守りました。獣から、霊魂から、物の怪から、何も知らずにのうのうと生きてる人間のガキを守ってやった。赤ん坊の頃は楽だったでしょう。動ける範囲なんて僕らの鼻先から尻尾の先までだもの。集まる獣も物の怪も、尻尾一振りで追い払える。大変なのはその後、歩けるまでに育ってから。他人と言葉を交わせるようになってから。好き勝手にちょろちょろ動くようになってから。
     兄は苦労しつつ、影ながら彼女を守り、生活を見つめ続けた。その結果、どうなったか? ああいやだ、どうしてお前たちみんな目を輝かせているんだ。父さんを殺した人間の孫だぞ。いいよ、わかったよ。ちゃんと話してやるさ。
     兄は、仇の孫である女の子――楓ちゃんに恋をしてしまいましたとさ。
     何たる茶番! 昔話にだってもう少しましな展開が用意されてるってのに。こら、そこ! 拍手をするな、口笛も吹くな! 兄さんも照れるんじゃない! まったく、まともな狐は僕だけか? 情けない! 続きを早く? 母さんまでそんなことを言い出すなんて、もう泣きそうだよ。
     あーあ。とっと終わらせよう、こんなくっだらない話。
     恋をしたきっかけ? 興味ないから知らないよ。痛っ!兄さん、術より先に口を出してほしいな。なに? 原稿に書いてる? そんなもの僕が読むと――痛っ! わかったってば、痛いなぁ。えー、なになに? 原稿によると、兄は楓ちゃんの純粋で、それでいて自分の不利益に敏感で、だけど押しに弱いところに惹かれたようです。僕なら惹かれるどころか引いちゃうけどね。おっと、これ以上自慢の尻尾を焦がされちゃたまらない。沈黙は金なりってね。

    (以下空白)

     ともあれこの場の狐は僕を除いた全員が、二人が夫婦つがいとなることを認めます。まあ精々苦労するがいいさ。寿命の差や考えの違いなんかにね。ケケケ!
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    kumohare72ki

    MOURNING『紺君と楓ちゃん』シリーズ、おまけとして書いてた紺君の弟・碧君による祝辞風紺君の過去です。消えたと思ってたら出てきました。何で!?
    もったいないのでここに投げて供養。いろいろ設定変わったなぁと思いながら読んで下さい。
    狐に嫁入り その後 やあやあ本日はお日柄もよく――なんて挨拶は僕の柄じゃないんでね。とにもかくにも、皆さんよくぞお集まりくださいました。新郎の弟として御礼申し上げます。しっかし皆さんよく来てくださいましたねぇ。狐と人間の式だってのに。僕ならご免だな。いくら身内だからって――ああ、はいはい。真面目にやるよ。やればいいんだろう?
     えー、それではこちら、似合わない羽織袴でかちこちになっているの今日という日の主役であり新郎であり我らが村の長でありこの山の次の神である僕の兄です。ご存じだろう? 説明なんかいらないじゃないか。わかったわかった。そんなに睨むなよ、兄さん。
     はいはい、新郎のお隣をご覧ください。僕と兄の父であり先々代山の神を殺した猟師の孫です。兄さん、考え直せば? 今なら僕ら、喜んでそいつを食べるけど――よせよせ、睨むなって。冗談じゃないか。家長であり村の長であり次の山の神である兄が選んだ花嫁サンです。僕の義姉でもあります。どうぞ皆さん、食べるならバレないところでバレにくい部分から――痛い! やめろよ兄さん! はいはい、雪のような白無垢がお似合いですね。どうぞ兄さん色に染まってください。
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