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    P/N利き小説企画

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    PN利き小説 エントリー作品⑨
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    PN利き小説 エントリー作品⑨夜明けにはまだ少し早い時刻。
    薄暗い寝室で控えめに時を告げるアラームの電子音が、男の意識を覚醒させた。
    隣にいる恋人の眠りを妨げないよう、ネコ科動物のようなしなやかな動きでするりとベッドから起き上がる。
    ものの10分足らずで身支度を整えた男は、日課のジョギングをこなすべく家をあとにした。

    現在、男とニールが居を構えるセーフハウスはロンドン郊外の閑静な住宅地にある。
    近辺の住人はすでにリタイアしている世代が比較的多いようで、余暇を過ごす人々が醸し出す穏やかな時の流れは二人にとっても心地よいものだった。
    休日の明け方、まだ人の少ない静かな街並みを男はひとり駆けてゆく。
    10月にもなると朝晩の冷え込みは吐く息を白くするほどだが、外気の寒さに反して体が温まってくる感覚を男は楽しんでいた。血液が、酸素が体の隅々まで送り届けられ、細胞レベルで覚醒していくようだ。
    1時間ほどかけた丁寧なジョギングの終点はセーフハウスにほど近い広めの公園で、パンプアップした体を適度に休ませてから帰路につくのが男の常だった。
    ときどきはひいきのベーカリーへ寄って、その日の朝食を買い求めることもある。
    ニールからは「食事に関して君の選択には全幅の信頼を置いているよ」とのお墨付きを得ている男だが、共に暮らしていれば相手の好みも自然と把握するもので、今日はティンブレッドとニールの好きなクロワッサン、午後のデザートに新作のクイニーアマンを買って帰ることにした。
    日も昇り明るくなった街では、人々がいつもと変わらぬ日常を送る。
    音楽を聴きながら肩を揺らして歩く若者、颯爽と闊歩するスーツスタイルの女性、スピードを出して走ってゆく自転車、愛犬を連れて朝の散歩を楽しむ老夫婦……それはかつて男が仲間たちと命がけで守った世界であり、自身もまた世界を構成する一部だった。

    ジョギングを終えて戻ってきた男を静かな家が迎え入れる。どうやらニールはまだ寝ているようだ。
    運動後の栄養補給にプロテインバーを牛乳で流し込むと、軽くシャワーを浴びて汗を落とす。
    ひと息ついたところで寝室のほうから目覚まし時計の鳴る音が聞こえた。
    数秒ほど鳴り続けていた音はぷつりと止まったようだが、未だ起きてくる気配はない。
    ベッドから離れがたい恋人の現状を想像して男は思わず笑みを浮かべる。仕方ない、なにしろ二度寝は彼の得意技なのだ。
    ニールが起きてくるのを待つ間、男はいつものごとく朝食づくりに取り掛かることにした。
    ありあわせの野菜でサラダを作り、サンドウィッチ用の具材を用意する。
    ベーコンエッグを焼き始めたところで、今日も賑やかな寝癖のニールが大きなあくびをしながらキッチンに姿を現した。
    「ふわ~~~……おはよう。いいにおいだねえ」
    「おはよう、ねぼすけくん。もうすぐベーコンエッグが焼けるぞ」
    「もうおなかぺこぺこだよ~」
    まだ眠気の抜けきらない口調で顔を洗いにいくのを見届け、男はてきぱきと朝食の支度をテーブルに整える。
    サラダとベーコンエッグを盛りつけ、ニールの皿にはクロワッサンのサンド、自分の皿にはティンブレッドのサンドを。
    「オレンジジュース飲むけど、君は?」
    「ああ、頼む」
    二人分のジュースを手にしたニールが席につけば、そこには幸福という名の食卓があった。
    「さすがに寝すぎて体が痛いや」
    「明日の朝のジョギングに君も付き合うか?」
    「うん、それは遠慮しておこうかな」
    「良質な睡眠には適度な運動も必要だぞ」
    「”適度な運動”ならしてるはず。君と、ベッドの上で」
    「じゃあスクワットと腕立て伏せも追加するか」
    「え~!体力おばけの君を基準に考えてもらっちゃ困るよ」
    クロワッサンの薄皮をポロポロこぼしながら笑うニールは今日も可愛い。
    「ね、残ったパンでブレッドプディングを作ってくれる?」
    「目ざといな。なら明日のティータイムのお供はそれで決まりだ」
    「やった!君の作るプディングはブランデーが効いてて美味いよね」
    「君の反応を見ながら改良を重ねるうちに自然とそうなったな」
    「そうなんだ。僕って愛されてる」
    軽口に照れをにじませてうっすらと頬を染める様子に、男の笑みも自然と深くなる。
    そして共に暮らす日々のなかで育まれていく愛を、自らも実感するのだった。


    エントリー作品⑨「目覚まし時計は二度鳴る」





    ーーー
    2022/11/17追記 作者コメント
    まだ作品数も少ない身で恐縮ですが、主ニル大好きの一心で参加させていただきました。文体を書き分けるようなスキルがないので、過去作と全く同じテイストかと思います。テーマの「2」は二度寝、二人分のジュース、そして目覚まし時計のアラームです。目覚まし時計は具体的な数字を出さずにテーマを入れられるかな?と少し工夫したつもりです。二人暮らしで起きる時間が違えば目覚ましも2回鳴るよねっていう…現実には一人暮らしでも遅刻回避にアラーム複数設定することはよくありますが、フィクションの表現として寛大にご覧いただけますと幸いです。テネ2周年記念に素敵な企画をありがとうございました!



    ーーー
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    INFOPN利き小説 エントリー作品⑧
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    PN利き小説 エントリー作品⑧「二時間だけのバカンス」 ふたりはまた喧嘩をした。
     彼らが一般に喧嘩と呼ばれる状況に陥ることは珍しい。逆行した先の別の時間軸のことはさておき、ふたりが現在と呼ぶ時点において彼もニールも十分大人であり、また言い争いを通してじゃれ合うような性分をお互いに持っていないからだ。
     必要であれば武器を手に戦う彼らは、だからこそ日常における問題は言語コミュニケーションを用いて解決することを良しとしている。共にいられる時間に限りがあるとわかっているため、多少のすれ違いや意見の相違があってもできるだけ速やかに話し合い、相手の考えを聞き、受け入れ、自分の主張を変える準備がある。例えばベッドに引きずり込んでしまうこととか、唇で唇を塞いでしまうこともコミュニケーションの手段ではあるし、ときにはそういった武器とは異なる意味での暴力的な方法を用いることがマナーになることも理解しているが、ふたりは敢えて言葉を介すことで、お互いの気持ちを定性的に把握したいと思っていた。
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