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    P/N利き小説企画

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    PN利き小説 エントリー作品④
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    PN利き小説 エントリー作品④「Just the two of us」 穏やかな水面をかき分け船は進む。汗ばむ陽気の中、頬を撫でる潮風や、冷たい水飛沫が心地良い。適度な揺れにまどろんでいると、向かいに座る恋人が男の名を呼んだ。
    「ねえ、あれ何だろ」
     手すりに寄りかかったニールが指差す先には、観覧車のようなものが見える。
    「海辺の遊園地か?」
    「いいね。今から行ってみようよ」
     久しぶりに冒険するのも悪くない。風に煽られ自由に舞うニールの髪を整えつつ、男は二つ返事で了承した。
     男とニールは今、シドニーで二度目のハネムーンを過ごしている最中だ。
     
     別段一度目に不満があったわけではない。ただ単純に互いの希望が合わず、それならいっそ二回行けば良いじゃないかという結論に至ったのである。話し合いが白熱するあまり大喧嘩へ発展しかけたのも、今となっては良い思い出だ。
    「………不気味な顔だな」
    「そう?僕は結構好きかも」
     遊園地は船を降りてすぐ近くにあった。巨大な口を開けた月のキャラクターのゲートをくぐり、園内へ入る。個性的な怪物に食われているようで、妙に気分が落ち着かない。じきに日が暮れる時間帯だからなのか、周囲の客はまばらだった。
     どちらともなく腕を組み、広い園内を歩いてみる。途中メリーゴーランドやジェットコースターに乗ったり、休憩がてらショーを見て回った。どれも大掛かりで派手なアトラクションではなかったが、恋人と過ごすには申し分ない場所だった。
    「観覧車にも乗らない?」
    「勿論」
    「今度は頂上で止まらないといいけど」
    「……懐かしいな。あれからもう二年経つのか」
    「覚えてる?結局二時間も中に閉じ込められたの」
     ニールは声をあげて笑い、懐かしそうに目を細めた。
    「手前のゴンドラに乗ってた兄弟が泣き出しちゃってさ、二人して必死にあやしたっけ」
    「あの時ほど表情筋を駆使した日はなかった」
    「そうそう。君の素晴らしい変顔のおかげですぐに泣き止んでくれたよね」
     当時の様子を再現しようと、ニールが器用に顔のパーツを動かす。その姿に男も釣られ、腹を抱えながら吹き出した。しばらくやり取りを続けていると、傍らで小さな笑い声が混じり始める。
    「お、お客さま。準備が出来ましたので、赤いゴンドラへどうぞ」
     おそらく会話の一部始終を見られていたのだろう。帽子のつばを抑えた園内スタッフが、肩を震わせながら乗車口に立っていた。
     
    「もう気まずくて降りられないよ」
    「どうせユーモアなカップル程度にしか思われてないさ」
    「まぁ君がそう言うなら……良いかな」
     二人を乗せた赤いゴンドラはゆっくり上昇を続けている。窓から美しい海とオペラハウスが一望でき、思わず景色に魅入っていた。やがて空は黄昏時へと移ろい、車内に赤い夕陽が差し込んでくる。
    「綺麗だね」
    「ああ。ずっと見ていたい」
    「このまま二周しちゃう?」
     ニールが上目遣いで問いかけた。返事をする代わりに、目の前で揺れる薄い唇へ口付ける。狭い空間はあっという間に互いの吐息で満ち溢れた。
    「……ニール」
     名前を呼べば凪いだ瞳に男が映る。たった今この瞬間だけは、世界に二人きりでいるみたいだと思った。




    ーーー
    11/17追記 作者コメント
    なるべく映画本編に出てくるセリフやモチーフを入れるよう意識しました。



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    INFOPN利き小説 エントリー作品⑧
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    PN利き小説 エントリー作品⑧「二時間だけのバカンス」 ふたりはまた喧嘩をした。
     彼らが一般に喧嘩と呼ばれる状況に陥ることは珍しい。逆行した先の別の時間軸のことはさておき、ふたりが現在と呼ぶ時点において彼もニールも十分大人であり、また言い争いを通してじゃれ合うような性分をお互いに持っていないからだ。
     必要であれば武器を手に戦う彼らは、だからこそ日常における問題は言語コミュニケーションを用いて解決することを良しとしている。共にいられる時間に限りがあるとわかっているため、多少のすれ違いや意見の相違があってもできるだけ速やかに話し合い、相手の考えを聞き、受け入れ、自分の主張を変える準備がある。例えばベッドに引きずり込んでしまうこととか、唇で唇を塞いでしまうこともコミュニケーションの手段ではあるし、ときにはそういった武器とは異なる意味での暴力的な方法を用いることがマナーになることも理解しているが、ふたりは敢えて言葉を介すことで、お互いの気持ちを定性的に把握したいと思っていた。
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