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    P/N利き小説企画

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    PN利き小説 エントリー作品⑥ 
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    PN利き小説 エントリー作品⑥「熱帯の夜」 男とニールは熱帯のとあるカジノにいた。陽はとうに暮れていたが、外気はまだじっとりと蒸し暑い。夜が更けても涼を求める人々が、街を賑わせている。一方、限られた人間しか利用できない高級ホテルはしっかりと冷房が効いていて、常夏の国にいることを忘れてしまいそうだった。
     男はシルバーの、ニールは黒のタキシードを身に纏っていた。周囲には華々しく着飾った人々が、それぞれに優雅な賭け事を楽しんでいる。男はそんな中でも見劣ることなく、誰もが見蕩れてしまいそうな程のゴージャスさで、ニールもうっかりと任務を忘れてしまいそうだった。金さえあれば金持ち達に混じって遊びたいところだが、どれだけめかし込んでいても、そこはしがない諜報員。ルーレットテーブルの前で二人は、緊張を押し殺していた。
     そのテーブルについているのは、二人の他には穏やかな表情の老紳士。周囲にはSPと思しき屈強な男たちが取り囲んでいる。彼こそがこの辺りを牛耳る組織のボス。優しげな外見とは裏腹に、金のためなら何でもすると噂される男だ。
    「さあ、始めようか」
     老紳士が、ゆったりとそう言った。もの柔らかな口調とは裏腹に、有無を言わせぬ圧力を感じさせるのは、流石だ。男はニールと視線をあわせ、カウンターチェアに座った。
     命を賭けたルーレットだった。老紳士は、とある王国の王子を人質に取り、金を要求していた。男とニールは救出のためにこの国まで来たが、どういうわけかこのルーレットで決着をつける羽目になったのだ。男が勝てば、王子と二人の命は助かるが、負ければそのどちらもこの熱帯の国に消える。
     段取りはシンプル。二人は事前にカジノのディーラーを買収していた。男がベットした数字に白い球がインする仕組みだ。
    「インサイドベットのストレートアップ。一回切りの勝負だ」
     つまり一つの数字に一回だけ賭けられる、という意味。噂に寄れば老紳士は根っからのギャンブル好きらしい。男は一枚だけ用意された赤いチップを手に、熟考する振りをする。鋭い瞳が、ディーラーを見る。睫毛の長い、若いディーラーだ。ちらりとあげた視線が男と絡まる。もちろんこれは作戦だ。だが若いディーラーが男に恋をしてしまわないかと心配で、ニールは胸の奥をチリリと焦がした。
     昨夜二人は、この熱帯のホテルで、まさしく熱い夜を過ごした。その記憶を辿っていると、男の柔らかい唇からちろりと舌先が覗いた。そしてゆっくりと自身の上唇を舐める。昨夜その唇と舌でされたことを思い出し、ニールはこんな場面にも関わらず、小さく熱い溜息を漏らした。
     男の小指の先が、唇をなぞる。そして南洋の黒真珠のような瞳がニールを盗み見た。これは誘いの仕草だ。ニールにはピンときた。
     ああ、そうだね。昨夜はとてもホットだった。今夜も早く仕事を終わらせて、また熱い夜を過ごそう。
     そんなことを考えながら小さく口角をあげ、ニールも唇を舐めてみせた。すると男はテーブル真ん中の上部、黒に2の文字が書かれた場所にチップを置いた。老紳士はそれを見てから、赤の21にチップを置く。
    「ノーモアベット」
     ディーラーの澄んだ声が響く。慣れた手つきで白い球を投げ入れると、ルーレットの外周を回りはじめる。白い球はウィールのまわりを滑らかに何周かすると、小さな音を立てながらフレットで跳ね、数字の2が書かれたスポットにからりと転がり落ちた。
     おお、周囲から感嘆の声があがる。根回ししていたとは言え、失敗の可能性もゼロではなかった。さすがのニールも深く息を吐いた。
    「なかなか、やるな」
     老紳士はそう言うと、ジャケットの内ポケットから鍵を出して男に渡した。
    「Aホテルのスイートだ」
     男は鍵を受け取ると、すっくと席を立ってルーレットテーブルを後にする。ニールも慌てて男に続いた。まだ賑わいを見せる煌びやかな高級ホテルから外へ出ると、湿った熱気が纏わりつく。男は無言のまま、足早に駐車場まで向かう。そして乗ってきた車の前でようやく足を止め、ボンネットに両手を突いて、はーっ、と大きな息を吐いた。
    「上手くいったね」
    「……生きた心地がしなかった」
    「え?」
     キョトンとするニールを、男は振り返る。
    「なんだ、通じてなかったのか……あのディーラーは根回しした男とは違う」
    「え? ってことは……」
     男は車の後部に回り込みトランクを開けた。そこには、ディーラーの制服を着た男が両手両脚を縛られ猿轡を噛まされて気絶していた。
    「バレてたんだよ。俺たちの計画が」
    「で、でも、君、当てたじゃないか」
    「当てた、んじゃない。当たったんだ。偶然に」
     よく見ると、男の額に汗がじわりと浮かんでいる。
    「君の合図、今夜もヤろうぜって意味じゃなかったの?」
    「……ハハ」
     男は力なく笑ってニールの珍しく整えられた髪を撫でた。
    「違う。マズい、負けたら死ぬ、という意味だった。でもお前が笑ったから、勝てる気がして勝負に出た」
    「な、なんだよ……」
     ニールは、駐車場にへなへなと座り込む。実際、腰が抜けていた。
    「その割に君が賭けた数字、迷いが無かったじゃないか」
    「ああ、昨夜泊まった部屋の番号にした。どうせ死ぬなら、お前と最期に過ごした場所にしようと」
    「は、ははは……」
    「勝ててよかった。お前のおかげだ」
     差し出された男の手を握って、ニールはよろめきながら立ちあがった。男に腰を支えられたついでに抱きついて、キスをする。
    「僕のおかげかは分からないけど、とりあえず今夜は部屋を替えて、最期に過ごした場所の記録を更新しよう」
    「そうだな……だがその前に」
     男はポケットからホテルの鍵を出して見せた。
    「そうだった。仕事を終わらせなくちゃ」
     二人は車に乗り込んで、熱帯の夜へと走り出した。



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    11/17追記 作者コメント
    わかりにくくしようと思ったのですがそんな技量もなく、いつも通りになりました。



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    INFOPN利き小説 エントリー作品⑧
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    PN利き小説 エントリー作品⑧「二時間だけのバカンス」 ふたりはまた喧嘩をした。
     彼らが一般に喧嘩と呼ばれる状況に陥ることは珍しい。逆行した先の別の時間軸のことはさておき、ふたりが現在と呼ぶ時点において彼もニールも十分大人であり、また言い争いを通してじゃれ合うような性分をお互いに持っていないからだ。
     必要であれば武器を手に戦う彼らは、だからこそ日常における問題は言語コミュニケーションを用いて解決することを良しとしている。共にいられる時間に限りがあるとわかっているため、多少のすれ違いや意見の相違があってもできるだけ速やかに話し合い、相手の考えを聞き、受け入れ、自分の主張を変える準備がある。例えばベッドに引きずり込んでしまうこととか、唇で唇を塞いでしまうこともコミュニケーションの手段ではあるし、ときにはそういった武器とは異なる意味での暴力的な方法を用いることがマナーになることも理解しているが、ふたりは敢えて言葉を介すことで、お互いの気持ちを定性的に把握したいと思っていた。
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