「ゔ〜......!ふぇ〜ん......!」
「おっと、どうしたのルカ。怖い夢でも見た?」
「ゔ〜アイクだっこ〜......!」
「よしよし大丈夫だからね」
昔、悪夢を見て泣くルカをよくあやしていた。お昼寝の時も夜の時間も。ぐずぐず泣きながらアイクに抱きつくルカは、毎回アイクの温かい体温と優しい声に安心して二度目の眠りに落ちていく。
アイクは可愛い弟が頼りにしてくれる喜びを感じ、ルカは優しい兄の事を安心できる存在として大切に思っていた。
そんな二人も成長し、そのうちルカは悪夢を見なくなった。今日はこんないい夢だったと報告できるくらいに。
そんな中、今度はアイクが眠れない日々を過ごすようになる。高校生になり新しい環境に難しくなる授業、両親のいない家で兄弟たちの世話をし、出来ない事だらけなのにやりたい事は沢山ある。皆の協力の元、日が経つにつれ少しずつ出来る事が増え軌道に乗り始めた日々の最中。張り続けていた糸がプツンと切れたらしい。眠気が来て布団に入るも数時間で目が覚めたり、悪夢で飛び起きる日々。分かってはいるが、寝なくちゃ、明日も学校が、と考え込んでしまい悪循環に陥っていく。二週間も経つ頃にはアイクの目元にはクマがくっきりと浮き出ていた。
「アイク大丈夫?」
「やはり私も実家に帰っ「そこまでしなくていいって!ちょっと気を張っていたのが切れちゃっただけだと思うから、そのうち眠れるよ」
心配性な兄を落ち着かせ、他の兄弟にも笑顔を向ける。その力無い笑顔に末っ子ルカは何か決心した顔をした。
「えっ?ちょっと、ルカ!?一緒に寝るって、突然どうしたの??」
「へへー!オレに任せてよ!」
寝支度を終えたアイクを捕まえ彼を寝室へ連れて行く。ベッドに寝るよう指示し、自身も隣にくっつくように寝転んだ。
「小さい時、こうしてくれただろ?今度はオレがしてあげる!」
ぎゅーっと抱きついてくるルカ。
「オレね、アイクにこうやってしてもらうの好きだったんだよね。何でかわかんないけど暗くて怖い〜!って思った時、アイクがいつもこうしてくれたら暖かくて、怖いのパーってどっか行っちゃって、大丈夫になったの!だから今度はオレがアイクの暗くて怖いのやっつけてあげる!」
「よしよし。大丈夫だからね!」なんてあの時の自分と同じように頭も撫でてきて、アイクは恥ずかしさと嬉しさで小さなルカの身体に顔を埋めた。「ふははっ!アイクくすぐったいよー!」という無邪気な声にアイクも自然に笑みが溢れた。
声を潜めたルカが言う。
「アイク、オレいつも楽しい夢いっぱい見るから、アイクもオレの夢の中に連れていってあげる。とっても楽しいし、アイクがいればもっと楽しいよ!」
手を握られ輝く瞳に見つめられる。
「一緒に遊ぼう!」
「......夢の中でも?」
「そう!夢の中でも!」
小さくても明るいルカの声にアイクも乗っかりたくなった。
「いいね、遊ぼう!何して遊ぶ?」
「んー......えっとねー......」
話しているうちに瞼が重くなってきた。眠そうなルカと目が合って、ふにゃりとした笑顔の後、手で目元を覆われる。
兄弟が逆転してしまったな、別にそこまでしなくても、でもあったかい、と頭の中で思考が浮かんでは消えていく。
アイクも目が開かなくなった頃、ルカの手がパタリと落ちて、スースー寝息が聞こえてきた。
ルカ寝ちゃったな、
僕も今なら眠れそう、
この子と一緒なら大丈夫、
きっと、
気付けば雲の上にいた。少し先には遊園地のような、カラフルなおもちゃ箱のような、可愛くて楽しそうな世界が見える。
「アイク!」
名前を呼ばれ手を引かれる。見ればルカがいた。
「あそぼ!!」
「......! うん!」