弟が生まれた。名前はルカ。
俺の初めての弟。
今まで俺には兄が三人いて、俺が一番年下だった。俺が弟だったのに今日から俺は、お兄ちゃん。
お兄ちゃんってどうすればいいんだ?
「可愛いな」
「ほっぺがプニプニだ」
「あっ!あくびした!」
兄達はルカを代わる代わる抱っこし、笑顔を見せている。俺はそれを少しだけ離れた所で立って見ていた。ルカを抱っこしたシュウが言う。
「ミスタも抱っこする?」
今まで俺に向いていたものが全部ルカに注がれている。やっと向いたものもルカを通して。今思えばバカな事を言ったと思う。でも思った事が口をついて出てしまった。
「......俺とルカ、どっちが大事?」
一瞬静まり返った部屋。アイクが突然立ち上がり、俺を強く抱きしめた。泣き出したルカをシュウがあやし、ヴォックスは俺の頭に手を乗せた。
「どちらが大事か......例えばそうだな、ミスタは私とアイク、どちらが大事?」
「......!!」
聞いてしまった事に大きな後悔が押し寄せる。答えなんて決まってる。どちらも、みんな大事な事なんて。
ヴォックスは俺の頭を撫でて言った。
「すまない。意地悪な聞き方をしてしまったね。そしてお前に寂しい思いもさせてしまった。ごめんな」
「っご、ごめんなさい、ご、ごめ、っゔ〜〜〜っ......!」
ああ、俺、寂しかったんだ。
気付いたらもっと悲しくなって、それを分かっているかのようにアイクが俺の涙を拭い、ごめんねミスタ、大好きだよ、と頬擦りしてくる。今だけは俺もルカと一緒だ。俺は小さな子どものようにアイクにしがみついた。アイクも笑って抱っこしてくれる。
「おれっ、お兄ちゃんなんかできない……!」
「大丈夫。出来るよ」
「どうやって……?」
「うーん、そうだなぁ……」
ヴォックスがルカに自分の指を握らせながら言った。
「まずは触ってごらん。優しくね」
ヴォックスを真似て、指を差し出す。ルカはまだ涙を溢しながらも俺の指に気付き、ぎゅっと握った。思わず手を引っ込めようとしたら逃がすものかというように力を込められる。
「ちからつよっ!?」
「ははは!そうだろう。こんな小さな身体なのにすごい力を持っているんだ」
アイクが俺の背中を撫でながら言う。
「ルカに話しかけてごらんよ」
「えっ、何話せばいい!?」
「ルカとどうやって過ごしたい?何をしてあげたい?」
「うーん......むずい……」
「例えばそうだな……今までしてもらって嬉しかった事をこの子にもしてあげればいいんじゃないかな」
兄達を見て考える。
「……いっぱい遊んでもらって嬉しかった。おやつ分けてもらって嬉しかった。ぎゅってしてもらって嬉しかった……」
「うんうん、そっか。じゃあルカにもいっぱいそれしようね、してあげるねってお話ししてみたらどうかな?」
「えっと、いっぱい遊ぼうね!おやつも分け......ゔ......〜っおやつもあげる!!ぎゅーっていっぱいしてあげる!!」
涙の止まったルカがじっと俺を見た。
「あ、ぅあ〜〜!」
「あ!ルカが返事してくれてるよ!」
「伝わってんのかな......?」
「きっと伝わってるよ。もしかしたらお菓子くれって言ってるのかも」
「えー!!お前まだ食べれないだろ!」
「う〜?」
それを見たヴォックスが大笑いする。
「はっはっは!まあ、おやつは無理せずみんなが満足する分作ってやるからな!」
「さぁミスタ。君も抱っこしてみて」
シュウにルカを差し出されるも、受け取る勇気が出ない。どうやって持つの?俺でいいの?もし落としでもしたら……そうこう考えているうちにルカの目に涙が溜まっていく。
「!! ルカ泣きそう!!やっぱムリ!!俺じゃ『ミスタ』」
顔を上げると兄達が俺に微笑んでいた。
「大丈夫、ミスタなら出来るよ」
アイクが背中を撫でてくれる。
「まずは笑って」
シュウがにっこり笑って見せる。
「私たちもいるからね。一つずつやっていこう」
ヴォックスに抱っこの方法を教えてもらい、そーっとルカを受け取る。
見つめ合う俺達。
シュウに小さく(笑顔だよ!)と囁かれ、慌ててぎこちなく笑ってみせた。ルカがしばらく俺の顔を見て「あー、あーっ」と声を発する。俺の髪をきゅっと掴んだ。
「あぅーーっ!」
ルカが笑った。それはもうニコッ!という効果音が聞こえてきそうな程、満面の笑みで。
そして俺は見事にその笑顔に心臓を撃ち抜かれた。
「か............ かわいい!!!!」
思わずルカのお腹に顔を埋めれば、きゃっきゃっ!とルカがさらに笑って俺は幸せな気持ちでいっぱいになった。
再び見つめ合う俺達。
今度は自然に笑うことが出来た。
「ルカ、大好き。これからいっぱい遊ぼうね」