予定のない休日。シュウとルカはリビングで日向ぼっこをしていた。
「平和だねぇ」
「へいわだねぇ」
「「……」」
「…………っひまーーーー!!!!」
「ええ……暇かぁ」
「すっごい暇!!ねぇ!面白いことしようよ!」
突然叫んだルカに驚きながらもシュウは彼の突然の提案に耳を傾ける。
「例えば?」
「うーん……みんなを驚かせる!」
「それって面白いの?」
「ただ驚かせるだけじゃないぜ!みんながPOGになるよう驚かせるんだ!」
「ふーんPOGねぇ……例えば?」
「えー……うーん……何かある?」
「ええ!?僕に聞くの?うーん、まあそうだなあ……」
二人でウンウン考える。シュウが携帯で見つけた記事をルカに見せた。
「こういうのはどう?」
「それ最高!」
「ほんと?」
「ほんとほんと!絶対POGになるって! じゃあアイクには〜……」
エンジンが掛かった二人は次々案を出し合い、イタズラの準備を進めていく。準備が終わる頃にはその日の暇つぶしどころではなくなっていたが、二人で作戦を実行する日を密かに楽しみにした。
ついに作戦実行の日が来た。まずはヴォックス。実家に帰ってきた日の、更に携帯の側を離れた隙を狙う。
「トイレに行った今のうちに!」
パシャ、パシャ、パシャ、パシャ……
ヴォックスの携帯を手に取り二人で大量の自撮りを撮っていく。モデルさながら色んなポーズに表情も変え、バリエーションをつけていく。写真フォルダの一覧が埋まったあたりでトイレの流水音が聞こえてきた。
「! ヴォックスが戻ってくる!」
「にげろー!」
二人で慌てて壁の向こうに隠れると、何も知らないヴォックスが鼻歌を歌いながらリビングへ戻ってきた。ソファーに座り携帯を手に取る。
「ん?なぜカメラが起動しているんだ?……なんだこの写真、あっはっはっはっは!!!!」
大きな笑い声の後、ヴォックスがソファーから立ち上がる音がする。こちらに足音が近付いてきて、バレたかと思ったがヴォックスは一向に出てこなかった。不思議に思い二人で顔を覗かせた瞬間。
カシャッ
「「!!」」
「あっはっは!ひっかかったな」
向けられた携帯とシャッター音。兄のしたり顔にルカが飛び出した。
「オレ達がヴォックスを驚かせたかったのに!!」
「とても驚かされたよ。こんなに沢山の可愛い写真、いつの間に撮ったんだい?」
飛び出したルカを難なく受け止め、抱き上げるヴォックス。急な浮遊感にルカは笑いながら悲鳴を上げ、もう一回やって!と最後は別の遊びになっていた。
次のターゲットはアイク。
部屋に漂うソースの匂い。今日の晩ご飯はたこ焼きで、シュウとルカは早くからせっせと沢山のたこ焼きを作っていた。
「お腹空いたよ〜」
「めっちゃいい匂い!」
アイクとミスタが二階から降りてきた。シュウは事前によそっておいたたこ焼きをそれぞれ二人の前に置く。お店で使うような皿にソースやマヨネーズもかけたたこ焼きが綺麗に並んでいた。
「「いただきまーす!」」
二人が声を揃え食べ始める。しかしすぐにアイクが声を上げた。
「ん!?何これ甘い!?どういう事!?!?」
アイクがたこ焼きだと思っていた物は、ホットケーキ生地にチョコソース、ホワイトチョコでマヨネーズ……中にはイチゴやバナナが入っている、スイーツたこ焼きだったのだ。
「やったー!!引っかかった!」
「んはは!びっくりした?」
「びっくりしたよ!というか君達仕組んでたの!?」
「そうだよ〜」
「ドッキリだいせいこう〜!」
「もー!」
なんて言いながらアイクも笑っていた。
最後のターゲットはミスタ。
休日の昼下がりに皆でおやつタイムを楽しんでいた。そんな中、ルカがわざとらしく声を上げる。
「わぁ〜!」
「うわ!?おま、何やってんだよ!?」
バシャーッとコップの中身が机に撒き散らされた。向かいの席にいるミスタが驚いて立ち上がれば、シュウがすかさず声を掛ける。
「ミスタ!ティッシュ取って!」
「わ、わかった!......って、えっ?は!?何だよこれ!?!?」
ミスタがティッシュを引き出せば、出るわ出るわ大量のティッシュが。何故かティッシュが全て繋がっているのだ。混乱を極めたミスタは出てくるままティッシュを引っ張り続け、最後の一枚が出切ったところでようやくティッシュの洪水が終わった。
ティッシュの山を前に放心するミスタと、向かいでシュウとルカはハイタッチをする。
「引っかかった〜!」
「ドッキリ大成功〜!」
「は......?どっきり……?お、お前らー!!」
怒るミスタに二人は「逃げろー!」と声を上げる。しかし振り返ったその先にアイクがにっこり笑顔を浮かべていた。
「君達、何しているのかな?」
ビクーッとルカが飛び上がり、シュウがすかさず弁明した。
「か、家計にはノーダメージ!!僕達のお小遣いから出したし!ちゃんと片付けるし!」
「!! 片付けする!!」
ルカが繋がったティッシュを勢いよく引きちぎり、溢れたジュースを拭いて見せれば、ミスタの冷めた目とアイクの嘆きが響き渡った。
「お前ら必死すぎんだろ……」
「そ……そういう問題じゃなーい!!」
ドッキリ大作戦も無事に成功を収め、平和な日常が戻ってきた。そんな中、ルカとシュウは残りの三人に呼ばれてリビングのテーブルに着いていた。目の前にはどこにでもあるお菓子の箱がいくつか置かれている。
「な、なにこれ……?」
ルカが恐る恐る問い掛ければ、アイクがニコニコと綺麗な笑顔で答える。
「面白い事してもらったからお返しだよ」「んは、じゃあ今回は僕達がイタズラされる側って事だね」
「えー!なになに!?…………んぶっ!?」
面白そうな話に速攻ルカが飛びつき、素早くお菓子箱を開ける。紙吹雪が飛び出し顔にクリーンヒットしたのだ。
「だっはっは!!引っかかったー!!」
顔中が紙吹雪だらけのルカをミスタが盛大に笑う。続いてシュウも箱を開けるとバネ付きの紙がいくつも飛び出した。これでもかと詰められたバネは四方八方に飛び散り、シュウの周りはバネだらけになる。
「わ!ちょっ……んはは!すごいいっぱい入ってる!」
「え、えへ、ちょっと詰め過ぎちゃったかも……」
頬を掻いて言うアイクを見ながら、ヴォックスは二人に続きを促した。
「さあ、残りは何が待っているだろうね?」
それぞれ残ったうちの一つを手に取り、二人同時に開ける。しかし先程とは違い開けても何も飛び出して来ず、静かにお菓子が入っているだけだ。
「あれ?何もないよ?」
ルカが残りを次々開けていく。しかし出てくるのは、いつも見るお菓子の個包装とビニールばかり。クスクス笑うミスタとアイクを見てルカが更にお菓子の包みを開けようとした時、シュウが叫んだ。
「!! 逆だ!!逆になってる!!」
「おぉ、ついに気付いた!」
「さすがシュウ〜!」
喜ぶミスタとアイクに、ルカも開けたお菓子を再度見返す。そして理解した。
「!! お菓子の中身が入れ替わってる!!」
「「せいか〜い!」」
同じメーカーの味違い。中の個包装が入れ替わっていたのだ。
「POG!全然分かんなかった!」
「へへ〜!だろ〜?」
「これなんかどうやって蓋閉めたの?」
「これはねー……」
こんなイタズラなら悪くないなとヴォックスは楽し気な弟達を見て小さく笑う。
「ドッキリ大成功、だな。さぁお前達、おやつの時間にしようじゃないか」
「わーい!」「食べる!」と弟達は大急ぎでおやつの準備を始める。最後は皆でおやつの時間を楽しんだ。