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    dankeimotorute

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    ※陵南戦の3Pについて

    神さま一度だけ(木暮) 入った。ボールが手から離れた瞬間に確信した。たぶん今、自分は教科書に載せても恥ずかしくないフォームで跳んでいる。あのボールは美しい円弧を描き、静かにネットを揺らすだろう。呆けた顔で着地したとき、木暮はある文章を思い出した。

     一流のシューターは、ボールを放った瞬間にゴールに入るかどうかを理解する。本で読んだ一節を、中学時代の木暮はフカシだと思っていた。当時の木暮にとって、絶対に入ると思ったシュートが相手センターの両手にすっぽり収まることは日常茶飯事だった。シュートが入るかどうかなんて、逆立ちしても分かりそうにない。
     それがどうやら本当らしいと知ったのは、高校に入って三井という一流のシューターと知り合ってからだ。わかるぜ、と三井はこともなげに言ってみせた。彼が言うには、指のかかりや手首のしなり、腕の位置などから、直感的にシュートの軌道がわかるのだという。同い年の三井君にわかるなら、俺にもちょっとくらい感覚が身につくかもしれない。淡い期待を抱きながら木暮は練習を重ねた。
     ところが、木暮に理解できたのはシュートが入らないときの感覚だけだった。あ、落ちるな、と思ったとき、ボールは必ずリングに嫌われる。入るほうの感覚は、高く見積もっても五分の確率でしか的中しない。しかも、この感覚をつかむのにさえ2年と少しの時間を要した。ここから先は自分のような凡才にはわからない世界なんだ、と半ばあきらめながら、それでも祈るようにシュートを撃った。だから、もしかしたら祈りが通ったのかもしれない。

     ――果たして、確信は現実のものとなった。頭の中で描いたそのままの軌道をなぞって、木暮の放ったボールはゴールに収まった。思った通りにシュートが入ったのが、逆に信じられなかった。雄叫びをあげ、仲間にもみくちゃにされながら、頭はまだふわふわとしていた。確かにつかんだ、星が脳裏を駆けていく感覚が、木暮の脳を半分灼いたのかもしれない。もう半分の冷静な頭では、今まで見たこともなかった世界が一瞬だけ木暮の前にあらわれて、再び去ったのを理解していた。それでもいいと思った。たった一度の奇跡が叶ったのが今この瞬間であるならば、これ以上のことはなかった。
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    dankeimotorute

    MENU三暮webオンリーのサンプル兼尻たたきです。
    このあとに花火デートをする短編がくっつきます。
    全編はオンリー当日にpixivで展示します。
    百代の過客としても(三暮)1.兵どもが夢の跡

     生ぬるい夜だった。夏特有のまとわりつくような湿気をはらんだ風が首筋を撫でる。昼間ほどの暑さがないせいかどこか締まらない感じがする。気の抜けた炭酸水みたいだ、と三井は思った。あるいは、今の自分たちのようでもあった。劇的な勝利のあとに待っていたのは言い訳しようのない大敗だった。全国制覇をぶちあげて乗り込んだ割には、あまりにあっけない結末だ。トーナメントとは得てしてそういうものだと負けてから思い出した。この夏はなにもかもが上手く行きすぎたから、すっかり忘れていたのだ。いきなり引き戻された現実に気持ちだけが追いつかずに、意識はじめじめした空気の中を浮遊している。
     人気のない道路を歩く。アスファルトと靴底の擦れるぺたぺたという音と、遠くに聞こえる虫の鳴き声だけが聞こえる。ぽつぽつと立つ電柱に設置された街灯の頼りなさが不安を誘う。街灯を辿るように歩いていると、ガードレールの途切れたところに座る人影を見つけた。木暮だ。切れ目から下に伸びる階段に腰掛けて、頬杖をつきながら空を見ているようだった。
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