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    sineternalpenko

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    sineternalpenko

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    ドレス職人の夢女が主人公の、ハンジさん夢小説です。

    輝けるあなたへ朝早く起きた私は、まだ誰もいない作業場で針に糸を通す。薔薇をイメージした真赤なドレスは私が貴族のお客様からオーダーされたもので、今日の昼までには仕上げなければならない。本当はもっと早くに出来上がっていたのだけれど、急なデザインの変更を頼まれたのだ。お客様は今夜の夜会に着て行きたいと言う。なんとか間に合わせなければ。私は急ぎながら、でも乱れがないように慎重に針作業を進めて行った。

    「それでは届けに行ってきます」
    数時間後、私は完成したドレスを大きな鞄に丁寧に詰め、店を出る。13歳の時にこの仕立て屋で働き始めて、もうすぐ5年になる。ドレス作りで名を馳せる師匠がいるこの店で師匠に弟子入りして働きたい、と1人故郷を出てきた。ドレスを作る針子の仕事は大変なこともあったが、私は好きだった。最近では、師匠に腕を認められ、お客様から直接オーダーを聞いて、デザインを考える仕事から任されるようになった。様々な要望に応えるのは難しいけれど、やりがいも感じていた。

    今夜の夜会の会場は王家の側近の貴族のお屋敷で、大変豪華で、大規模なものだった。多くの来賓者が詰めかける会場で、私は緊張しながら、ドレスの依頼主であるメルヴィス家の令嬢がいらっしゃる控室へと急ぐ。
    「お嬢様、大変お待たせして申し訳ございません。ドレスをお持ちいたしました」
    私は鞄からドレスを丁寧に取り出し、お客様にお見せした。
    「まあ、なんて美しいんでしょう!私のイメージした通りだわ。刺繍も綺麗。あなた、本当にすごいわね。また次のドレスもあなたにお願いしたいわ」
    「ありがとうございます」
    私は深々と頭を下げつつ、安堵した。

    お客様にドレスを気に入っていただき、また注文したいというお言葉をもらう。それは、本当に嬉しいことで、その時の私は舞い上がっていたのだと思う。だから、そのふわふわした気持ちのまま控室を出て屋敷の廊下を歩き、それが大きな失敗を招いた。
    どんっ
    何かにぶつかったことに気づいて、はっとして横を見ると、先程ドレスをお届けした令嬢の父親であるメルヴィス家の当主がそこにいた。
    「おい、どこを見て歩いている!」
    「申し訳ありません」
    私は慌てて頭を下げる。メルヴィス卿は気性が荒い。気を付けるようにと、店の師匠にも言われていたというのに、不注意であった。
    「お前、どこの誰だ」
    「お嬢様に頼まれたドレスをお持ちした仕立て屋の者です」
    私は頭を下げたまま答えた。
    「あの放蕩娘が、遊んでばかりで、ドレスを何着買えば気が済むんだ!どうせ下品なドレスだろう。もうドレスなどいらん。家には出入りするな!!」
    出て行けとメルヴィス卿は持っていた杖で出口を指した。
    「しかしお嬢様に新しいドレスをと……」
    なぜ口答えなどしたのだろうか。ドレスを下品と言われた悔しさか、注文を失ったショックか、とにかくその時の私は黙ってやり過ごすことが出来なかった。
    「当主は私だ!」
    メルヴィス卿の怒りを買った私は、怒声と共に杖で足を強く打たれた。衝撃で私は床に倒れる。メルヴィス卿はさらに杖を振り上げ、それを私に向かって振り下ろす。
    腕は、手はやめて。針仕事が出来なくなる……。そう思いながらも怖くて私は目を閉じる。
    「やめないか!!」
    痛みと衝撃が走るはずだったが、代わりに、凛とした声が聞こえて私は目を開けた。メガネをかけたスーツ姿の人がメルヴィス卿の杖を掴んでいた。
    「私は調査兵団で分隊長をしているハンジ・ゾエだ。何があったか知らないけど、無抵抗な者に暴力を振るうのは良くないんじゃないか」
    ハンジと名乗った人がメルヴィス卿に言った声が響く。騒ぎに気づいて、夜会会場のホールから、こちらに何人か人が集まって来る。
    「調査兵団……この税金泥棒の変人集団めが」
    メルヴィス卿は、これ以上騒ぎを大きくしたく無かったのか、睨みつけて吐き捨てるように言っただけで、立ち去って行った。
    「大丈夫?怪我はない?」
    床に座りこんだまま動けないでいる私に向かって優しい声と共に手が伸ばされる。
    「大丈夫です。あの…ありがとうございました」
    私が手を掴むと、ぐっと引き上げられた。幸い、足に痛みはない。
    「君も夜会に出席するの?」
    「いえ、私はドレスの仕立て屋で、届け物に来ただけです。用事は済んだので、もう帰ります」
    「そうか。良ければ、屋敷の出口まで送るよ」
    背中に手が添えられた時、私は胸がどきりと鳴るのを感じた。
    「ハンジ……さん」
    「なに?」
    目が合うとハンジさんはこちらに微笑んでくれた。
    「えっと、ハンジさんは夜会に出席されるんですか?」
    何を聞いていいのか分からず、でも何か話しがしてみたくて、私は間抜けな質問をする。夜会に来たに決まっているというのに。
    「ああ、そうなんだ。調査兵団の仕事は主に壁外の調査だけど、資金調達だとか政治的な絡みもあってさ。君はドレスを作ってるのかい?」
    聞かれて頷くと、ハンジさんは
    「へえ、すごいね。きっと素敵なドレスなんだろう」
    と、近くを通ったドレス姿の貴婦人に目を向けた。貴婦人は美しい装飾の赤いドレスを着ていた。
    『どうせ下品なドレスなんだろう』
    先ほどメルヴィス卿に言われた言葉が甦る。きっと私が作った薔薇のドレスは陽の目を見ることはないだろう。
    「いえ……私なんて……」
    私は下を向いて小さく答えた。
    「あんな奴の言うことなんて気にしない方がいい」
    メルヴィス卿とのやり取りが聞こえていたのだろうか。ハンジさんは毅然として言った。その強さが、輝きが、私にはとても眩しく感じた。
    「あの……ハンジさんはドレスは着られないのですか?」
    「え、私?」
    驚いたようにハンジさんがこちらを見た。
    「今のお召し物も素敵ですけど、きっとドレスも似合うと思います」
    「そうかな、ドレスは滅多に着ないけど、そう言ってもらえるのは嬉しいよ」
    照れたように言ったハンジさん。助けてもらった時は格好良かったけれど、この時はとても可愛らしく見えた。

    話しながら歩いていると、あっという間に屋敷の出口に着いた。
    じゃあね、とハンジさんが手を振ろうとした時、
    「ハンジ」
    と呼ぶ声が聞こえた。
    ハンジさんを呼んだのは、背の高い男の人だった。
    「夜会がもう始まる。会場に戻るぞ」
    「ああ、エルヴィン、ごめん。今、行くよ」
    ハンジさんは答えると、私に、気をつけて帰るんだよと言って、会場に戻って行った。
    「ありがとうございました」
    私は深々と頭を下げて、屋敷を後にする……はずだった。でも出来なかった。もっとハンジさんを見ていたい。その強い気持ちに突き動かされて、私もまた会場へとそっと紛れ込む。メルヴィス卿にもう一度出会うのは怖かったが、それ以上にハンジさんに惹かれていた私は、このまま帰ったら後悔すると思った。
    夜会の会場となっている広いホールに入ると、人がとにかく大勢いて、幸い誰も私を気に留める人はいなかった。
    私はハンジさんを必死に探して目で追う。ハンジさんは、私のいる場所から少し離れたテーブルの近くで、先ほどのエルヴィン団長と、もう一人背の低い男の人、おそらくリヴァイ兵士長だろう。世の中にさほど詳しくない私でも、エルヴィン団長とリヴァイ兵士長ぐらいは知っていた。二人と一緒にワイングラスを手に談笑していた。
    主催の貴族の挨拶と乾杯が済むと、楽団による演奏と共にダンスが始まる。ハンジさんはしばらく何人かの貴族と代わる代わる話をしていたが、やがて、一人の令嬢がハンジさんの手を引く。ハンジさんは令嬢と共にホールの真ん中まで行くと、ダンスを踊り始めた。普段から、調査兵団の訓練で鍛えているのだろう。無駄のない動きとステップで踊るハンジさんは素晴らしくて、でも、令嬢とアイコンタクトを取りながら踊る様子に、私は急激な寂しさを感じた。
    きっとハンジさんは誰にでも優しくて、皆に人気なのだ。私を助けたことなんて、すぐに忘れてしまうだろう。私は唇を噛み締めながら、それでもハンジさんから目を離すことが出来なかった。
    それからハンジさんは、何人かの貴族と踊ったり談笑したりしていたが、夜会も終わりに差し掛かった頃、ふと、エルヴィン団長がハンジさんの手を引いた。ホールの真ん中に進み出た二人の姿は会場でも注目を引いていた。
    音楽が始まる。二人が踊り始める。
    「わあ……」
    私は思わず感嘆の声を上げる。周囲でも拍手が起きる。二人のダンスは、整ったダイナミックな動きで美しく、それでいて華やかさもあった。調査兵団は立体機動装置というものをつけて、木々を飛び回って動く。昔、新聞の記事か何かで見たことがあった。その立体機動の様子が想像出来るようだった。と、同時に私にはハンジさんに似合う紫色のドレスがはっきりと見えた。ああ、ドレスを作りたい。ハンジさんに着てもらいたい。私はその想いで頭がいっぱいになった。

    夜会から帰った私は店の師匠に頭を下げて、休暇を願い出た。どうしてもハンジさんにドレスを作りたかった。それを仕上げないことには、仕事にも手がつかない。そう思った。許された休暇期間で私は夢中でドレスを作った。夜会で踊るハンジさんを思い浮かべながら、一針一針縫っていき、イメージしたドレスを形作っていくのだ。作業に没頭した私は寝食も忘れ、まるで何かに取り憑かれたようだった。周囲に心配されるほどだったが、私はとにかく手を動かし続けた。
    普段なら何ヶ月もかかるドレスを、私はひと月ほどで完成に漕ぎ着けた。苦労の甲斐あって、ドレスは思い描いた通りの仕上がりとなった。早くハンジさんに渡したい。身に付けた姿を見てみたい。その一心で、私はドレスを手に、調査兵団の宿舎へと急いだ。

    アポも取らずに訪れた私は怪訝な目で見られた。憲兵に引き渡されそうになりながらも、食い下がって取り次ぎを頼みこみ、私はなんとかハンジさんに会うことが出来た。
    「君、ドレスを作ってきてくれたの?こんなに短い時間で?」
    私を見たハンジさんは、物凄く驚いた表情をした。
    「勝手なことをしてごめんなさい。あの時助けていただいたお礼をしたくて。私にはドレスを作ることしか出来ないので……」
    私は必死に説明しながら頭を下げて、ドレスが入った包みを差し出す。
    「そうか、わざわざすまないね。開けてもいいかな?」
    ハンジさんに聞かれて、私は頷く。
    「お気に召されないかもしれませんが……」
    「すごいじゃないか!!!これ、君が作ったの????」
    私の小さな声はハンジさんの大声にかき消された。
    「なんて繊細で綺麗な刺繍なんだ。全体のフォルムも美しい。今はたまに編み物をするくらいだけど、兵士になる前は刺繍も好きでしてたんだよ。だから、これがどれほどの技術か、よくわかる。君、最っ高だよ!」
    そんなに褒めてもらえるなんて、思いもしなかった私は、ただぽかんとしてしまい、ろくな反応を返すことすら出来なかった。
    「でもこんな素晴らしいドレス、私には勿体ないな……」
    しかし、ハンジさんの呟きが聞こえた瞬間、私は声を上げた。
    「ハンジさんのために作ったんです。どうか着てください。エルヴィン団長とのダンスが素晴らしくて、それを見てこのドレスを思いついたんです!」
    私の勢いに驚いたようにハハッと笑った後ハンジさんは、
    「君、見てたの?あれは物好きな貴族からのリクエストでね。エルヴィンとはもう踊らないよ」
    と言った。
    「それなら、今度はリヴァイ兵士長とでも。次の、あの屋敷での夜会には来られますか?」
    私の言葉にハンジさんはさらに笑った。
    「ハハッ、君も面白いこと言うね。そうだなぁ、その前に壁外調査があるけど、せっかくの君の傑作だ。次の夜会に着ていくことにしよう」
    ハンジさんの言葉が飛び上がるほど嬉しくて、私は文字通り飛び上がって喜んだ。
    「夢みたいなことです!」
    最高の望みが叶って、夢見心地でハンジさんの部屋を後にしようとして、ふと私は先ほどのハンジさんが口にした『壁外調査』という言葉を思いだす。
    「あの、壁外調査って……危険なんですよね?どうしても壁外に行かなきゃならないんですか?」
    私の言葉にハンジさんのほほ笑みが消え、険しい表情になる。
    「ああ、確かに危険だ。毎回何人もが巨人に食われるからね。でも、誰かがやらなきゃ、人類は永遠に壁の中で巨人の脅威に脅えて暮らさなきゃならない。エルヴィンの考案した長距離索敵陣形で死傷者も減ったんだ。分からないものを理解するため、皆が安心して暮らせるようにするため、私は壁外に行く」
    ハンジさんの強い意思と高潔さに、私はただただ圧倒された。命をかけて、世界をより良くしようとする人に、私が言えることなど何も無い。
    「……立派なことです。どうか、夜会でまたハンジさんにお会いできますように」
    私はそう言って、調査兵団の宿舎を後にした。

    それから約束の夜会までの間、私に出来ることは、休暇をもらった分を取り返すべく、懸命に働くことと、後はハンジさんの無事を祈ることくらいだった。街の人の噂で、壁外調査や調査兵団の話題が聞こえるたびに、耳をそばだてたが、私に知ることが出来る情報など僅かなものだった。
    不安を忘れたくて針仕事に集中し、次の依頼のドレスが仕上がる頃、ハンジさんが参加するはずの夜会の日がやってきた。
    私は、また仕立て屋の関係者として夜会会場の屋敷に入場し、そしてホールでハンジさんを待った。
    前回とは異なり、夜会の開始時間が近づいても、ハンジさんの姿を見つけることは出来なかった。エルヴィン団長やリヴァイ兵士長も見当たらない。調査兵団に何かあったのだろうか……。不安を胸に、私はそれでもハンジさんを探し続けた。
    その時だった。
    ホールの入口で、わっと歓声が上がる。
    そちらに目をやると、そこにハンジさんはいた。
    ハンジさんは、私の作った紫色のドレスに身を包み、会場へとゆっくりと入ってきた。
    「まあ、綺麗な人。誰かしら?」
    周囲の貴族たちが口々に言う。ハンジさんの周りには、貴族の男性や令嬢が集まり、私には近づくことすら出来ない。
    それでも、ハンジさんの美しさは、私にもはっきりと見えた。私の想像した通り、いや、それ以上にドレスはハンジさんに似合っていた。
    主催の貴族の乾杯と挨拶。そして、音楽が鳴り始める。多くの貴族がハンジさんに手を伸ばす。近くには、エルヴィン団長とリヴァイ兵士長の姿も見えた。ハンジさんは、誘いの手を取らないまま、1人でホールの真ん中に進み出た。
    「皆さん、ダンスのお誘いありがとう。でも、今日は特別に一緒に踊りたい人がいるんだ」
    ハンジさんは誰と踊るのだろうか。リヴァイ兵士長?貴族の令嬢?それとも、またエルヴィン団長かもしれない。誰でもいい。私のドレスを着て踊るハンジさんを目に焼き付けたかった。
    「紹介しよう。私の今日の素晴らしいドレスを作ってくれた人だ」
    ハンジさんが呼んでくれた私の名前を私は信じられない気持ちで聞いた。
    あまりに驚いて、動けないでいる私のそばまでハンジさんはやってきて、私の手を取った。
    「さあ、行こう。私がエスコートするから、心配ない」
    ハンジさんは私の耳元でそっと囁く。
    私は、手を引かれるままにホールの真ん中まで行き、そして見様見真似でステップを踏む。
    「そう、その調子。私と息を合わせて」
    間近で見るドレス姿のハンジさんは、本当に美しくて格好良くて、私は天にも昇る気持ちだった。
    「綺麗です、ハンジさん」
    私が必死でそれだけ伝えると、君のドレスのお陰だよ、とハンジさんは柔らかい笑みを返してくれた。
    人気者で、周囲の人に親しまれ、その実、世界を見ているハンジさん。そんなハンジさんを、ダンスを踊る間だけ、私が独り占めできた。踊っていた時間はわずかな時間だったと思う。でも、私にとっては忘れ得ぬ奇跡の時間だった。

    それから、時は流れ、王政が調査兵団により倒され、夜会が開かれる回数は減った。ドレスの注文も激減し、私は一時期職を失いかけた。それでも、私は出来る仕事を懸命にこなして、激動の日々を生き抜く。ドレスが流行しなくなっても、ハンジさんが私のドレスを忘れてしまったとしても、私の中ではあの日のハンジさんの輝きは永遠である。
    理想とする世界を作るため、きっとハンジさんは今日も進み続けているのだろう。そう信じながら、私は今日も針を動かし続けている。
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