……どうやら俺は、単に人間的にと言う意味だけではなく、千空ちゃんが好きらしい。
ある日、本当にふいに。
そのことに気がついてしまった。
文明復興まで、そういった非合理的な感情に振り回されている暇はない。
そう公言して憚らない相手に、よりによって。
彼のメンタルケアをすべき立場の自分が、恋をしてしまった。
……でも、脈がないわけではないと思う。
彼が恋愛を忌避しているのは、正確には、それに伴う無用なトラブルや感情的な揺らぎによる判断のブレを避けたいためだ。
その点、相手が自分ならば。
その辺りのサポートや自身の感情のコントロールは可能だ。
そう言った面では、むしろ合理的なのではないかと思う。
……そこまで考えて、はっとして首を振る。
なるほど、これは確かに脳のバグだ。
自分の都合の良い方向に、思考が誘導されている。
けれど。
きちんとコントロールさえ出来れば、悪くない考えかもしれない。
そう思い立って。
その日から、さりげなく好意をアピールしてみることにした。
具体的には、接触の機会を増やして。
なるべく会話する。触れる。
さりげない表情で訴える。
そんなことを、一週間も続けただろうか。
あまりにも……そう、あまりにも打てど響かないリアクションに、流石にメンタリストとしての技倆に少々自信を無くしてしまう。
じわじわとは、効いている気がするのだが。
……当たり前に、パパからめちゃくちゃ愛されて育ってきてるから、他人からの秋波にちょっと鈍いとこあるよね……好意は汲んでくれるのに、好意の種類がわからないって言うか。
そもそも、千空は搦め手には無縁の直球派である。それもあって、遠回しだと伝わりにくいのかもしれない。
……今夜は、二人で作業の予定だ。
思い切って、こちらから直球で仕掛けてみるか。そう思い立って苦笑する。
「 ……メンタリストの俺に、直球でアタックさせるとか、千空ちゃんくらいよ、ジーマーで」
本当に、バグとしか思えない。でも、その感情のゆらぎはとてもあたたかくて、やわらかくて。なんだか面映かった。
夜になって。
隣で作業する千空に、ふいに呼びかけた。
「 ……千空ちゃん」
「 あ"ぁ?」
声に、千空は怪訝そうに振り返る。
そこですかさず、少し身をかがめて、千空のくちびるに自分のそれを重ね合わせた。
……なにこれ、バイヤー……心臓、ゴイスーにドキドキしてる。表情に出てないかな。
顔見られたら恥ずすぎる。
「 俺、千空ちゃんが好き。……さんざんアピールしてるのに、千空ちゃん全然気づかないんだもん。どうやったら気づいてくれんの?」
千空は少し考えるようにして。
「 ……あ"〜、今気づいたわ」
だ、よ、ね〜〜〜。知ってた。ニブチン。
そう思っていると、ふいにもう一度くちびるがかさなった。
「 テメーが好きだって、今気づいたわ」
そう言ってニヤリとわらう。
やっぱり、千空ちゃんには勝てない。