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    kirche_is_dcst

    @kirche_is_dcst

    @kirche_is_dcst
    千ゲ生産業。左右相手完全固定。千左固定。カプ固定だけど主人公総攻めの民なので千は全宇宙抱けるとは思ってる。逆はアレルギーなので自衛。
    基本フェチ強めのラブイチャ。ワンクッション置いてるけど時々カオスなものも飛び出します。
    受けの先天性・後天性にょた、にょたゆり、パラレル、年齢操作やWパロもあり。みさくら、♡喘ぎ多め。たまにゲがかわいそうなことに。(要注意案件はキャプションに書いてます)
    最近小説AIと遊んでます。
    一時期特殊性癖チャレンジをしてた関係で触手とかなんか色々アレなやつもあります。

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    kirche_is_dcst

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    なぜか先に書き上がってしまったぺよんパロ浅霧パイセンルート。

    #Wパロ千ゲ(ぺよん)
    wParoChigae

     ……浅霧幻という名のその先輩は、記憶にある限り、いつも笑っている男だった。
    左サイドがセミロングの白髪、右サイドがベリーショートの黒髪という見た目も特徴的だったが、人当たりの良い、ペラペラの笑顔がなんだか印象的だった。
    先輩、と言っても実際は3歳上で、何でもマジックの修行のために海外に行っていて、二級留年したらしく、同級生なのに先輩と言う不思議なポジションにいた。
    本場で修行したというだけあって、手品の腕は超高校級。頭も切れるし、巧みな話術でいつも大勢のクラスメイトに囲まれていた。
     部活はもちろん奇術部に所属していたが、あまりに技術レベルが違いすぎるためか、部室にはいつも彼一人しかいなかった。
    日常での人望は、技術の格差の前に意味をなさなかったのだろう。
     何度か、帰り道の河原でマジックの練習をしているのを見かけたことがある。

     この道はここの河原を境目に、左手に小学校、右手に彼らの通う高校があった。
    それで、通りかかった子供や老人を相手に手品を披露していたようだった。
    ── ……彼は、本当にいつも、ただ笑っていた。

     そんな彼と何くれとなく話すようになったのは、春の終わりの頃だった。
    相変わらず、底の見えない胡散臭さはあったが、話してみると意外と気さくで面倒見の良い人物であることがわかった。
     彼は当初しきりに部活への勧誘をしてきていたが、家庭の事情を理由に断ると、千空ちゃんは良い子だね、などと笑って、それからぱったり勧誘をして来なくなった。

     どうせ、部活って言っても俺ひとりだから。気が向いたら遊びに来てね。
    そう言って、また笑った。

    夏休みも、合宿も、文化祭も。
    イベントごとに、なんだか気が付いたら同じグループに混ざっているので、自然、他の連中とも親しくなった。

     そんな先輩の様子がおかしくなったのは、彼についてのある噂が流れ始めた頃だった。
    『 世界的なマジシャンだった浅霧幻の父は、ステージでの機材不備で脱出マジックに失敗し、死亡した』。
    『 これについて、機材の管理が杜撰であったことが指摘され、一気にその名声は失墜した』。
    不幸なことに、彼はあらゆる意味で有名人だったため、噂は瞬く間に校内に広まって。
    それを耳にした先輩は、具合を悪くして早退し、そのまま学校に出て来なくなった。

    「 あ、やべー、明日使う資料学校に忘れたわ 」
     それから数日経ったある晩、ふと忘れ物に気づいて、時計を見る。……午後7時。
    今の時間なら、まだ守衛がいるはずだ。
    事情を話せば校内に入れてくれるだろう。
    そう思って、自転車を走らせた。
     構内に入ると、校庭の方に人の気配があって。
    怪訝に思って近寄ると、時ならぬ桜の木の下に、その人は立っていた。
    この時期の桜は、なにやら禍々しく感じられて、つい身構えてしまう。
    「 なんだ、千空ちゃん。……どうしたの、こんな時間に?」
    夜の闇に、白い花びらと、しろい輪郭が浮かび上がる。
    こちらを振り返った先輩は、やはり笑っていた。
    「 そりゃこっちの台詞だ。何やってんだこんな時間に?」
    「 うん?……時期外れの桜も見納めかなあと思って、お花見 」
    でも、最後に千空ちゃんに会えて良かった。
    そう言って、曖昧な、つかみどころのない笑みを浮かべる。
    わらっているのに、なんだか泣いている子供のように見えた。
    ざわりと落ち着かない気分になり、先輩の方に手を伸ばす。
     直後、ざあっと強い風が吹いて、枝をなぶり、花びらを散らした。
    吹き付ける花びらから庇うように、腕で顔を覆う。
    「 ……ばいばい 」
    乱暴な花吹雪に紛れて、そんな声がした気がした。声は、少し震えていた。
    風が収まって視線を戻すと、そのひとの姿は散らされた花びらに溶けるように、掻き消されていた。
    名を呼んでも、辺りを探しても、その存在の痕跡すら見つけられない。

    ─── ……浅霧幻は、そうして失踪した。

    当時の状況を話しても、荒唐無稽すぎて誰も相手にしなかった。
    夢でも見たんだろう、という常套句。
     結局、事件は家出として扱われた。
    けれどそんなはずはない。
    間違いなく、彼は目の前で消えたのだから。
    そして、何の痕跡も残さず、現実世界から姿を消したという状況について、彼、否、彼等だけは心当たりがあった。
     急ぎ、クロムに連絡を取ると、彼等はいつものテレビの前に向かった。
     ナビゲーターのウサに連絡を取ると、やはり案の定、新たなダンジョンの生成が確認された。
    「 ……決まりだな 」
    浅霧幻は、テレビの中にいる。
    これからそのダンジョンに挑み、暴き、たどり着けさえすれば、彼を現実世界に引き戻すことができる。
    なぜ最後などという言い方をしたのか。
    別れを告げながら、なぜあんな泣き出しそうな笑顔を自分に向けたのか。
    ……なぜ、姿を消したのか。
    訊きたいことは山ほどある。
    「 こちとらテメーのせいで異常者扱いだ。責任とって洗いざらい話してもらおうじゃねぇか」
    そう毒づいて、千空はダンジョンに足を踏み入れた。
    「 タイミングから、千空の言う通りだと思うウサ!今回の座標は登録したから、ウサはここからナビするウサ。オートマッピングに対応してるけど、深度が深いからかなりマップが複雑だと思うウサよ……気をつけるウサ!」
    そう言って見送られ、足を踏み入れたダンジョンは確かにとても広くて。
    各所に複雑なトリックやトラップが仕掛けられていた。
    なかなか思うように先に進めず、焦り始めた頃、ようやく最後とおぼしき扉の前にたどり着く。
    『 来ないで。……さわらないで。ほっといて』
    時折響く断片的な言葉を無視して、扉を開いた。
    ……目の前には、大人の姿の真っ黒い幻と、子供の姿の真っ白い幻。
    これまでの経験からするに、これが幻のシャドウなのだろうが、一人の人間から二体のシャドウが生成されるパターンは初めてだ。
    そのぶん、性能も分散されていればいいが、さて。

     手を翳すと、手のひらに青い炎を纏ったタロットカードが現れる。
    「我は汝、汝は我──汝、その双眸を見開きて、今こそ告げよ」
    そのカードを、炎ごとぱきんと握りつぶした。
    「 ペルソナ!!」
    ごう、と背後で竜巻のように風が逆巻く。
    風の中から、既に見慣れた黒い異形が現れた。
    「 行くぜ、伊弉諾。アイツらを倒せばいよいよ本体とご対面だ。……唆るじゃねぇか!」
    対峙するシャドウを前に、そう言って。
    千空は不敵に唇を歪める。
    対する二体のシャドウも、ふたりで顔を見合わせて。底の見えない笑みを浮かべた。

          ※ ※

     ……戦闘が終わり、対峙していたシャドウのうち、大人の姿を取っていた黒いシャドウがしゅうしゅうと煙をあげて縮み始めた。これも、初めてのパターンだ。
    息を呑んで見守っていると、煙の中から白いシャドウと全く同じサイズまで縮んだシャドウが現れた。
    「 ……おい、チビども。テメーらの本体はどこにいる?」
    問いかけると、顔を見合わせて。
    二人で何やら内緒話をしたあと、こちらに向き直った。
    「 ……ねぇ、おにいちゃんひょっとして千空ちゃん?」
    思いもかけない問いに、怪訝そうに眉を顰める。
    「 あ"ぁ?……それがどうした」
    それには答えず、二人はきゃっきゃと笑い合った。
    「 千空ちゃんだ」「 千空ちゃんだって」「 幻の、…………だ」「 どうする?」「 どうしよっか」。
    そんなふうに、どこかはしゃいでいるように見えた。……だが、これでは話が進まない。
    手にした本で二人の頭を順番一度ずつに叩いて、会話に割り込んだ。
    「 ……質問に答えやがれ。浅霧幻はどこだ」
    「 いた〜い!」「 ドイヒー!」
    そう言って二人は大袈裟に泣き真似を始める。……なるほど、やはりシャドウと本体、似ている部分はある。
    「 茶番に付き合ってる暇はねぇ。……答えろ」
    詰め寄ると、二人はきょとんとして。
    もう一度顔を見合わせた後、こちらを向いてにっこりわらった。
    「 幻のこと心配してくれるんだ?」
    「 探してくれるんだ?」
    「 じゃあいいよ、俺たちが」
    「 案内してあげる。千空ちゃんを、幻のところに連れて行ってあげるよ」
    ゲートは一人用だから、来るのは千空ちゃんだけだよ。
    そう言って、二人は怪訝そうな千空の肩に飛び乗った。
     ……ゲートから細い通路に入ると、内部にも無数の扉があった。
    扉の数は、閉ざされたココロの記憶や抑圧、秘密の数。
    扉を開くたび、ひとつ、またひとつと幻のカケラが流れ込んでくる。
    ……これを見せたくなくて、幻はテレビの中に逃げ込んだのに。
    結局、それを暴いてしまっている。正確には暴かされてしまっている。
     今まで、どのダンジョンでもそれは同じだったはずなのに。
    ひどく、苛立ちを覚えた。
     ……こんなんアイツが一番見せたくないやつだろうが。
    噂が立っただけで、姿を消したくなるような深い深い心の傷。それを、土足で暴きたいはずはなかった。
     それにしても、何枚扉あるんだ。
    心の壁厚いな……。
    そうひとりごちたところで、通路が突き当たった。目の前には、やたら頑丈そうな扉。
    今までのようにパスでは開かないところを見ると、鍵がかかっているようだ。
    こっちも、ここまで来て引き返せっかよ。
    そう独白して、ポケットから針金を取り出すと、カチャカチャと器用に扉をこじ開けた。
    「えええそれ反則ドイヒー!」
    開いた扉の向こうからは、聞き慣れた声音の抗議の声。
    「なんだ思ったより元気じゃねーか」
    抗議などどこ吹く風と、そう返して。
    千空はいつもの皮肉げな笑みを浮かべた。
    「そもそもこの技術教えたのテメーだしこの針金もテメーのじゃねぇか開けてくださいって言ってるようなもんだろざまーねぇわ」
    反駁の隙も与えず捲し立ててやると、ぐうの音も出ないようで。
    幻は絶句した後、千空の肩に視線を移した。
    見覚えのある面差しの顔がふたつ、千空の肩に並んでいる。
    戸惑いを感じ取ったのか、二人は千空の肩から飛び降りると、おしゃまに一礼した。
    「 俺は悪い子のゲン!人が隠したいこと全部暴いて丸裸にしちゃう!でも千空ちゃんに負けちゃったメンゴ!」
    「 俺はいい子のゲン!嘘なんかついてないもんみんな信じて!信じてくれないなら頭の中漂白しちゃう!でも千空ちゃんに負けてゲンの秘密全部バラしたメンゴ!」
    発言内容に、しばし間を置いて。
    おもむろに振り返ると、幻に向かって問いかけた。
    「 ……おい、明らかに白い方がタチ悪りぃぞどうなってんだテメーの倫理観」
    一方、幻は二人の言葉にすっかり翻弄されてしまっているようで。
    目がぐるぐるになってしまっている。
    そこに、追い討ちをかけるように。
    「 あっでもねー!一つだけまだ千空ちゃんに知らせてないことがあります!」
    にこにこしながら、二人は言葉を続けた。
    「 言っちゃう?」「 言っちゃお!」
    時折、ひそひそと内緒話をしながら。
    千空に向き直る。
    「 俺千空ちゃんだいすきー!」
    「 俺もー!」
    「「 さて、ここで問題です!シャドウの俺たちが千空ちゃんを大好きだってことは、本体の浅霧幻は、千空ちゃんをどう思ってるでしょうか!?正解はCMのあと!」」

    「 ……うわー2匹いるとすげーうるせー…… 」
    ものすごいテンションについていけず、千空はげんなりとこぼす。
    幻は、耳まで真っ赤になって両手で顔を覆っていた。
    明らかに精神的な余裕を失っている幻と、余裕たっぷりのシャドウたちを見比べて。
    ふと、あることに思い当たる。
    「 あ"〜、なるほどテメーらやけに協力的だと思ったら先輩の中に戻りたくねーもんだから引っ掻き回しに来やがったな 」
    指摘に、二人はまた顔を見合わせてくすくす笑った。
    ……幻がシャドウを受け入れないと、シャドウは幻の中に戻れず、最悪暴走して宿主を喰い殺す。それが狙いなのか。
    視線で問う千空の方を見て、シャドウたちは無邪気な笑顔を返してくる。
    「 えー、だってせっかく自由に動けるようになったのに〜 」
    「 もう強制送還なんてつまんないよね〜 」
    「 ね〜 」
    「『幻』が戻りたくないなら、俺たちが幻になってあげる 」
    「『幻』は文字通りのマボロシになるだけだよ 」
    「 それに嘘はついてないもん。ホントはクロムやコハクちゃんみたいに名前で呼んでほしいとか〜、ね!」
    「 わざとらしく一人しか入れない扉を作ったのも、千空ちゃんに来てほしかったんだよね〜!」
    「 あー、俺知ってるそれ誘い受けって言うんだよ〜 」
    「 うわー白かしこ〜い 」
    「 でっしょ〜?」
    「 大体あんな思わせぶりな消え方すること自体、追いかけてほしいのミエミエ〜 」
    「 だよねー 」
    投げかけられる言葉に、居た堪れなくなったのか。シャドウたちの声を遮るように幻は絶叫する。
    「 うわあああ千空ちゃん聞いちゃダメえぇぇ!!!!」

    「 あ"〜、話が進まねぇからテメーらちっと黙ってろ 」
    千空はめんどくさそうに告げると、ポケットからチョコバーを取り出してシャドウたちの口に突っ込んだ。
    「 別にテメーの過去がどうだとか俺をどう思ってるとか関係ねーわ。テメーが嘘つきだろうが正直者だろうがどうでもいいわ。
    ……けど、クリスマスのバイト先のマジックショー、スイカのヤツが楽しみにしてんだよ。テメーが戻らねーと見れねぇだろ。約束は守れよな。」

    告げられた言葉に、幻はきょとんと目を見開いた。そのリアクションに戸惑ったように、千空が問いかける。
    「 ……なんだよ?」
    「 えっと、だって千空ちゃん、気が向いたらとか暇だったらとかいってたから 」
    断られたものと思っていた誘いが、有効だったことを知って。そう伝えると、千空はますます不思議そうな顔をした。
    「 予定がなきゃ行くって意味だろ?約束じゃねーのか 」

    約束のつもりだったんだあれ……断られたと思ってた。そのくらい、気が向いたら、暇だったら、は断る時の常套句だ。
    けれど目の前の彼にとってはそうではなくて。きちんと予定に組み込んでくれていた。
    それだけのことが、なんだかうれしかった。
    「 うん、でもそうね。ギャラリーがいるなら、帰らなきゃね 」
    「 おう 」
    言葉に頷き返すと、幻からも微笑が返される。
    幻は、手元に舞い降りたカードをパキンと握り潰した。
    ── 我は汝、汝は我。今こそ目を見開き、その名を呼ぼう。……ペルソナ!

    その声とともに、ごう、と空気が逆巻く。
    ……召喚されたペルソナはツクヨミ。夜毎形を変える幻想。鏡を以って相手のすべてを映し出し、狂気を招き反射する。
    攻撃のリフレクトとカウンターに加え、精神汚染を敵に対して付与することができるペルソナ。
    鏡に映し出されたシャドウたちは、口々に。
    あーあ、しょうがないね。帰ろっか。
    気が向いたらまた遊んでね♬などと最後までマイペースに嘯きながら、ゆっくりとその輪郭を溶かしていった。

    「 ……んじゃ、サクサク帰んぞ、ゲン 」
    呼ばれて、幻はえ、と顔を上げた。
    特に意識していなかったのか。千空は怪訝そうに首を傾げる。
    「 ……なんだよ?」
    「 ううん、なんでも。……帰ろっか、千空ちゃん 」
    今までにない晴れやかな顔で、幻は笑う。
    ……初めて、幻の本当の笑顔を見た気がした。
    なんだ、そんな顔で笑えんじゃねぇか。
    思わず凝視してしまって。
    「 あ"ぁ 」
    それを誤魔化すように、ややつっけんどんに頷くと、ダンジョンの出口へと向かった。

          ※ ※

     ……クリスマスの日。
    千空はスイカを伴って、幻のバイト先のマジックショーを見に行った。
     ステージは大盛況で、終わった後も興奮が冷めやらぬスイカの話を聴きながら、三人で石神家へと向かった。

    帰宅すると、ようやく捜査から解放されたらしい百夜が玄関で出迎えてくれた。
    「 おお!浅霧くん!せっかくだしゆっくりしていってくれ 」
    満面笑顔で迎えられて。
    断るのも無粋だと思ったのか、幻は頷いて招待を受けた。
     四人で大きなクリスマスケーキをつついて、一頻り今日の出来事で盛り上がって。
     はしゃぎ疲れて眠ってしまったスイカを寝かせると、そのまま泊まっていくよう勧められて、ニ階にある千空の部屋に移動した。
     ……二人きりになって。
    ふいに、ダンジョン内での出来事が脳裏を掠める。姿を消した自分を探しに来てくれたこと、そして……シャドウたちに自ら内面を暴かれ、あろうことかそれを千空に聞かれてしまったことを思い出して、どうにも落ち着かなくなった。
    あれから、千空はそのことには全く触れない。普段通りに接してくれるが、それが余計に不安を煽った。

    ……どう思ったのかな。
    やっぱり気持ち悪いよね。でも、どう思われてても関係ないって言ってたし……。
    待って、むしろそれ、気持ち悪い以前に関心がないってことなんじゃ?
    嫌われてはないと思うけど、ああでもそんなの改めて訊くのも変だしそもそもこの感情はlikeなのloveなのrespectなのわかんない。
    ただ、好きだってことしかわかんない……。
     初めての感情に、頭が正常に働かない。
    周りの人間は全部観察対象。自分に向けられる感情、他者が他者に向ける感情はお見通し。千空ちゃんに関しては読めないバグが多すぎるけど。
    じゃあ俺の感情って?……千空ちゃんに笑ってほしい。俺を見てほしい。触れてほしい。これはどんな感情なんだろう。

    「 ……おい 」
    呼ばれて顔を上げると、あかい満月みたいな目がじっとこっちを見ていて。思わず硬直してしまう。
    すると、おもむろに頬に手が添えられた。
    えっ、と思った瞬間、唇になにか熱くてやわらかいものが触れて。
    なにが起こったのかわからない。
    耳元で、小さく。
    「 ……Merry Christmas 」
    そう囁く声が聴こえた。
    ……吐息と、心地よい声が耳をくすぐって。
    ぞくぞくと鳥肌が立ちそうになる。

    「 マジックショー、スイカのヤツがすげぇ喜んでた。誘ってくれてありがとな。
    ……おい? 」
    やさしく声をかけられたけれど。
    感情がめまぐるしすぎて、思考回路がショートしてしまっている。
    ええっと、今千空ちゃんに、キス、された……????えっなんで???混乱に蕩けた顔で見上げると、目が合って。つられたように千空が頬を染めた。

    「 あ"〜……悪かったな合意確認してなくて」
    いくら付き合ってても節度はあるもんな。
    思いがけない言葉に、思わず。
    反復するようにして、問い返してしまった。
    「 ……えっと…………
    俺たち、付き合ってる……?」
    すると千空は、怪訝そうな顔をした。
    「 あ"?テメーが俺のこと好きで……うん?
    好きだっつーことでいいんだよな?」
    律儀に確認されてしまって、これは何の羞恥プレイなんだろうと思う。
    首まで真っ赤になって、答えられないでいると、追い討ちのように問いかけられた。
    「 なんだ?違ったか?」
    「 ……違わない!俺、俺は……千空ちゃんのことが……好き……だよ 」
    あまりに当たり前のように問いかけられて、反射的にそう返してしまう。
    それを聞いて、千空は安心したように息をついた。
    「 ……焦ったわ。合意確認以前の問題になるとこだった。
    んで、それから俺なりに色々考えて、付き合おうって…うん?……言ったよな?」
    いつになくあやふやな言動に戸惑ってしまう。

    「 えっ、待って千空ちゃん、……俺、それ聞いてない 」
    付き合おうどころか好意も伝えられていないが、なぜか彼の中では合意形成がされていたらしい。
    ……もちろん、伝えられたなら拒む理由はなにもないけれど。むしろ喜んで受け入れるしこっちからお願いしたいくらいだけども。

    それを聞いて、千空は何とも言えない顔で頭を抱えた。
    「 うわ最悪だろ……脳味噌バグってたわ……テメーは言う前から何でも察して動くから、……あ"〜……悪りぃ、甘えてた 」
    自己嫌悪と恥ずかしさに煩悶しているのを見ると、いつでも理知的でクールな科学者ではなく年相応の男子高校生で。なんだか微笑ましい。

    でも、直接自分自身の口から好意を伝えていないのはお互い様だったので。
    「 ……あのね、千空ちゃん」
    さっきの千空の真似して耳元にボソボソと囁いた。
    「 ……I love you」
    水を向けると、カッと千空が赤面する。
    バツが悪そうにぐしゃぐしゃと髪を掻き回して、グイッと幻を抱き寄せてきた。
    そのまま、再度耳元で。
    「 ……me, too 」
    ひそやかに、そう囁いた。

    「 ……順番、逆になっちまった。クッソ……ダッセェ…… 」
    ぐしゃぐしゃと頭を掻き回しながら煩悶する千空を見て、あの冷静な千空にもこんな一面があるのだと思うと、なんだか微笑ましかった。
    「 でも、千空ちゃんのそーゆーとこ、見せてもらえたのうれしい。ジーマーで」
    不本意そうな赤面で、数センチ上から見下ろされてあれっと思う。
    「 千空ちゃん、背、伸びた?」
    「 あ"?あ"ぁ、1.4センチな」
    よく見てんな。
    つぶやく彼に、わらっていらえを返した。
    そりゃ、ずっと見てたからね。
     すると、長い側の髪を梳くように手が添えられて。
    もう一度、やわい体温が重なった。
    「 メリークリスマス、千空ちゃん」


          ※ ※


     ……春になって。
    両親が一年間の海外出張から帰国するため、千空は都会の実家に戻ることになった。
    まだ3月だと言うのに、気の早い桜が街路を埋めていた。
    河原を歩いていると、いつもの木の下でマジックの練習をしているゲンを見かけた。
    「 よぉ、相変わらずぼっちなのかよ、ゲン」
    声をかけると、以前とは違う、ふんわりとやわらかい笑顔が返される。
    「 ひどいな〜、ぼっちじゃないよ。……今は千空ちゃんがいるでしょ?」
    へえへえ、と適当な返事を返していると、何か思いついたように。
    「 あっじゃあ、今から大技やるね!
    見ててね! 」
    そう言って幻は悪戯っぽくわらった。
    言葉と共に、ぶわっと花吹雪が舞う。

     ……既視感。
    花吹雪のあと目を開けると、ゲンは忽然と姿を消していた。
    「 ……おい、ゲン⁉︎ 」
    ざわざわと、落ち着かない気分。
    ちょうどあの時のような。……そんなことはあるはずがない。
    あの時、シャドウはちゃんとコイツの中に戻って、ダンジョンは解体した。
    この街を覆っていた、謎という名の霧は晴れた。
    だから、ゲンが消えるはずはない。
    そんな不安に似た気持ちに鷲掴みにされそうになった時。
    ふわっと白い花びらが舞って、探していた姿が目の前に現れた。
    「 じゃ〜ん!どう?人体消失マジックだよ!驚いた?ねぇ、驚いた?」
    無邪気な笑顔に、無性に腹が立って。
    理不尽なのは承知の上で、正面から思いきりデコピンを喰らわせてしまう。
    「 ドイヒー!いきなり何すんの⁉︎ 」
    「 どっちがドイヒーだ驚かせやがって!」
    抗議の声に、反射的にそう切り返すと、何かを悟ったのか。ゲンは神妙な顔になった。
    「 ……うん、ごめんね」
    そう言ってふんわりわらうと、おおきな手が優しく頭を撫でてくる。
    「 ただいま、千空ちゃん」
    「 ……おかえり、ゲン」
    ようやく、そういらえを返して、ほっそりした身体を抱きしめた。
    ふわり、やわらかい花の匂いがする。
     あの花吹雪の日から数ヶ月。
    胸のどこかに支えていたものが、ようやく溶けたような気がした。

    視線を上げると、うすべにいろの花びらが舞っていて。……ああ、この木も桜だったのか。
    そうひとりごちた。
    「 千空ちゃんは、これから都会に帰っちゃうわけだけど……浮気、しないでね?」
    ゲンは悪戯めいた表情でそう言って、ふふっとわらう。
    「 しねぇよ。つか、そんなモテるかよ」
    モテたい気持ちなど微塵もないし、モテた記憶自体も5歳辺りまで遡っても特にない。
    「 あのね、卒業したらそっちでお仕事もらえることになったの。……だから、今度は俺が探しに行くね 」
    ダンジョンに引っ掛けているのだろうか。
    相変わらず、なんとも回りくどい。
    「 ん 」
    そう言ってメモを差し出すと、ゲンはキョトンとしながらそれを受け取った。
    「 俺の自宅住所。あと電話番号とメルアドとケータイ」
    また、迷子になられたら困る。
    ただ自宅はほぼ出ねぇぞ。
    そう断って顔を向けると、メモを両手で宝物みたいに包み込んで。
    これまでになくうれしそうな顔で、ゲンはわらった。
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