……浅霧幻という名のその先輩は、記憶にある限り、いつも笑っている男だった。
左サイドがセミロングの白髪、右サイドがベリーショートの黒髪という見た目も特徴的だったが、人当たりの良い、ペラペラの笑顔がなんだか印象的だった。
先輩、と言っても実際は3歳上で、何でもマジックの修行のために海外に行っていて、二級留年したらしく、同級生なのに先輩と言う不思議なポジションにいた。
本場で修行したというだけあって、手品の腕は超高校級。頭も切れるし、巧みな話術でいつも大勢のクラスメイトに囲まれていた。
部活はもちろん奇術部に所属していたが、あまりに技術レベルが違いすぎるためか、部室にはいつも彼一人しかいなかった。
日常での人望は、技術の格差の前に意味をなさなかったのだろう。
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