……なんだか目が冴えてしまって。
仮に作った陣幕から外に出ると、まさに降ってきそうな星空だった。
空を埋め尽くす天の川の煌めきで、地上まで明るく見える。……話には聞いていたが、こうして見るとその輝きに圧倒されてしまう。
北半球では見られない、南十字星やケンタウルス座も見ることができた。
こうして目覚めるまでは、星を見るような余裕すらなかったから、なんだか不思議なノスタルジィに駆られてしまう。
星々の奏でる音が聞こえてきそうな、静かな夜。闇夜を煌々と照らす灯りもなくて。
けれど、ひどく穏やかで。
……なんだか、村を思い出す。
こちらの星も綺麗だけれど、やはり、村で見た星空が。そして、その闇を祓った微かな光が、今でも胸に焼き付いていた。
……7年、か。
そう胸中でつぶやいたところで、肩にぱさりと外套をかけられた。
「 ゲン」
呼びかけに視線を動かすと、いつのまにか隣に千空がいて。気配に気づかないほど物想いに耽っていた自分に苦笑する。千空は纏っていた外套を半分、ゲンの肩にかけて。それを互いのちょうど中間地点で、きゅっと結んだ。
「 冷えるだろ」
寄り添う体温が、じんわり肩から伝わってきて。
ぽう、と胸に灯が灯った気がした。
「 ありがとう。……マント、ゴイスーあったかいね」
「 おう。何せスイカ様謹製だからな。おありがたくあったまっとけ」
そう言って、千空は体温を分かち合おうとするかのように、ゲンの身体を外套の中に抱きこむ。
「 うーん、あったかい!スイカちゃん天才!…それに、こーゆー彼氏っぽい千空ちゃん、久々だね」
彼氏、と改めて口に出すと、なんだか少し気恥ずかしくて。それを見透かしたように、千空はわらった。
「 7年ぶりだかんなあ。……なんだ?もっとぽいこともすっか?」
千空にしては珍しい種類の軽口に、どきりとして。
「 んえぇ!?するする!」
つい、脳直で返事をしてしまう。
「 ……んじゃまあ、リクエストにお応えして」
ゲンの肩に触れていない方の手で、そっと長い髪を掻き上げて。
頬に手を添えると、そっとくちびるを重ねた。触れ合った瞬間、目が合ってしまって。
かあ、と頰が熱くなる。
篝火のようなあかい目が、こちらをいとおしげに覗き込んで。
また、くちびるが重なった。
……角度を変えて、何度も。
重ねられるくちびると、触れ合う肩から伝わる、ほんの少し早い鼓動が、あたたかくて、うれしくて。
千空の背に腕を回して、こちらからもキスをした。ぱさりと外套が落ちる音がして。
星々が音楽を奏でる中、まるでワルツを踊るように、そうしてふたりで寄り添っていた。