「 ……なんだ、まだ練習してんのか」
作業を終えて部屋に戻ると、すでに耳に馴染んだ女の声がして。
中でブラッシュアップに励んでいるらしいメンタリストに声をかけた。
この男の声帯模写は特殊で。
完全に役になりきっている時は、外見まで変わってしまう。
蝙蝠というより変幻自在の化け狐だ。
……どちらかと言えば、完璧に作り上げられたイメージに引き込まれて、脳がそのイメージを視覚に投影している、と言うのが近いのだろうが。
そんなことを思いながら部屋に入ると、珍しくゲンが固まっていて。
こちらの気配に気づいて、怖々というふうに振り返った。
「 千空ちゃん!!!どうしよ!!!???」
「 あ"ぁ?」
女の声のまま、いつになく切羽詰まった様子で訴えられて、怪訝に思って問い返す。
声はリリアンそのものだが、……どうしたことか、顔はゲンのままだ。
「 声もおっぱいも戻んなくなっちゃったよ〜!!!」
………………は?
「 つか、むしろなんで生えた」
「 わかんないわかんないわかんない!」
すっかり混乱しているゲンを、ひとまず宥めて話を聞く。
声帯模写の精度を上げるべく、いつも通りに練習を続けていて。
一息つくと、いつもはすぐにデフォルト化される声や姿が戻らなくなってしまったのだと言う。
「 顔はなんとか、リリアンちゃんの顔から元に戻ったんだけど、声と身体が戻んなくなっちゃったよ〜!!!」
「 どういう原理だ。……つか、テメーの身体どうなってんだ」
あまりに出鱈目な構造に、解決策を模索するもなかなか適切な解決策にたどり着けない。
声の主になりきることで、姿形や肉体構造まで変化可能な人間などそうはいないため、参照できるデータがない。
「 ……まあ、逆に俺の声を声帯模写すれば声自体は出せるんだけど」
「 ほーん。……顔はどうやって戻したんだ?」
「 よくわかんない。……普段はこんなことないし、自分の外見ひたすら脳内で反芻してたくらい」
どうしたものかと、ゲンは本当に困ったように頭を抱える。
脳内でイメージを反芻し続けることで元に戻るのなら、声に関しても同じではないのか。
そう思って。
「 んじゃ、男の声出し続けりゃ戻るんじゃねぇのか?」
提案してみると、ゲンはさらに困った顔をした。……どうやらそう簡単な話ではないらしい。