「 ……おい、誰だアイツに酒飲ませたの」
やや苛立った声に視線の方向を追うと、ちょこんと正座したまま、えへへ〜とかうふふ〜とか赤い顔でひたすらにこにこしている参謀がいた。
「 あー……誰かうっかり飲ませちゃったんだね……でもまあ、本人楽しそうだし、別に暴れてるわけでもないし、そんな気にしなくても」
羽京の言葉に、千空は苦虫を噛み潰す。
「 アイツは酒弱ぇし、酒癖悪ぃから呑ませんなっつってんのに」
「 まあ新年会だしねぇ。……千空がそばにいなかったんだから、仕方ないんじゃない?」
その指摘に、10匹くらいまとめて苦虫を噛み潰したような表情が返される。
心配なら、ちゃんとそばについてればいいのに、全く素直ではない。
面倒くさそうに頭を掻いて、ひとつため息をついてから、千空は人波を掻き分けてそちらへ向かった。
「 ……おい、こらメンタリスト」
「 あー!せんくーちゃんだぁ〜!もう、どこ行ってたのぉ〜?そんでさあ〜、みんな名前で呼ぶのにさあ〜、なんで俺だけメンタリスト〜?」
……出た。完全に絡みモードだ。しかも。
「 せんくーちゃんたら冷た〜い!もう!ちゅーしちゃうんだからあ」
呂律の回り切らない口調でそう言ってしなだれかかった相手は、自分ではなくクロムで。
どうやら区別もついていない。
もともと下戸だが、ここまで正体を失うほどになるのは珍しかった。
「 こら酔っ払い」
言葉と同時に、ぱしんと手のひらで唇を塞ぐと、悪戯めいた視線がこちらに向いて。
ふいに手のひらを舐められる。
「 ……ッ、ったく、タチ悪ぃな」
そのままゲンを人の輪から外れたところまで引きずっていって。
「 おら、こっちにしとけ」
と、自分の方を向かせた。ゲンは酩酊状態で、えへへ〜と笑いながら、首に腕を回してちゅー、と音がしそうな勢いで唇を重ねてきた。それを膝を跨がせる形で抱き寄せて。
整った白い歯列を割り、舌を口腔内に潜り込ませる。舌を差し入れた瞬間は熱く感じたが、おおまかな体温は、36.8℃。
まあ、微熱だ。
舌下温度を計測しつつ、舌を絡めて深くくちづける。重ねた唇の間から、切れ切れに熱っぽい吐息が漏れた。
「 ……ん……ふ……ぁ、…… 」
そのまま呼吸を奪うように何度もくちづけると、徐々に腕の中の肢体が蕩けてくる。
「 ……は、ぁ……ッふ……ぁん…… 」
潤んだ目と、赤らんだ肌がなんとも煽情的で。くちづけながら、耳を指先でくすぐってやる。びくんと跳ねた顎を捉えて、またキスをして。時折、軽く膝を揺すった。
中心を刺激されて、ゲンの腰がぷるぷるとふるえる。
「 ……せん、くーちゃぁん……、ジンジンするぅ……せんくーちゃんと、セックス、したい…… 」
「 こんなとこで、ダメに決まってんだろ。部屋戻るまで我慢しろ。お仕置きだ」
酩酊しきってゲンは忘れているようだが、ここは宴会場だ。人目を避けたといっても、アホほど人がいる。流石にこんなところでおっ始めるほど、強心臓ではない。
焦らされて、ゲンは涙目でこちらを睨みあげた。
「 やだぁ……今がいい…… 」
そう言って、ゲンは跨った膝に腰を擦り付けながら、着衣の下に手を伸ばしてくる。
「 ばっ……、」
思わず身構えたところで、大きく手を打ち合わせる音が響いた。
「 はい!もう遅いし、村長もこれから用事があるらしいから、みんなそろそろお開きだよ」
自衛隊出身だけあって、よく響く声で羽京がそう言うと、集まっていた連中がおもむろに片付けを始める。
大人数で手分けをしただけあり、ごく短時間で片付けは終わり、皆はばらばらと帰途に就いていった。
粗方の連中が帰ったあたりで、羽京は自分の耳を指差して剣呑な笑顔を浮かべる。
……つまり、ここでのやりとりは筒抜けだったようで、流石にちょっと気まずい。
続けて、小さくぱくぱくと口が動いた。
唇を読んで、さっきまでの艶っぽい雰囲気はどこへやら。
すっかりクールダウンされてしまい、千空は酩酊状態のゲンをあやしながら、自分もそそくさと部屋に戻ることにした。
いわく。
『 全部筒抜けだから、ヤるなら部屋でヤれ』
剣呑な笑顔と相俟って、不穏さが半端ない。
今後はなるべく羽京のいるところでの悪ノリは避けよう、と千空は固く肝に銘じた。