Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    otumeco

    なんでもあり 文章や絵

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 💋 💘 😍
    POIPOI 19

    otumeco

    ☆quiet follow

    【新堂】放課後、花壇 をテーマに書きました!

    花壇の友達 学校からの帰り道、特にこれといった予定もなく、気まぐれで普段通らない道を曲がってみた先にあった小さな公園。公園とは名ばかりで、その七畳ほどの空間にはベンチが一つと錆びた鉄棒がひとつしかなかった。ざらついた鉄棒は新堂には少し小さすぎるサイズだ。鉄棒に体をもたれながら、以前友人から聞かされたうんちくを思い出す。公園という体を保つには、遊具一つさえあればいいらしい。

    「……あ?」

     その公園の隅、煉瓦に囲われた小さなジャングルに目を向けて、新堂はつい間抜けな声をあげた。長年手入れされてないであろう、名前も判らない草花が雑多に伸びきった花壇の中央に、腕が一本生えていたからだった。近づいて見るとどうやらその腕は男の腕のようで、薬指の第一関節から先が無かった。先天性のものなのか、他より短いその指には縫合痕なども見受けられず、先端はつるりと滑らかだ。
     警察に報告すべきかとも思ったが、新堂はそうはしなかった。その腕が、どうやら生きているらしいことに気づいたからだった。戯れにじゃ~んけん、と音頭をとってみたところ、その腕は短い薬指をも器用に動かして反応をよこしたのだ。ちなみに、そのときのじゃんけんには負けた。
     それ以来、新堂はひまさえあればその公園に通った。狭い世界でつまらない愚痴ばかり垂れる高校の友達よりも、余計なことは一切言わず、たまに指を動かして相槌を売ってくれる腕のほうがよっぽど一緒に過ごしていて楽だった。腕はライターを渡してみればタバコに火をつけるのを手伝ってくれたし、缶ジュースのプルタブも慣れた手つきで片手だけで開けた。それ以外にもいろいろなものを持たせてみたが、腕は必ず期待通りの動きをし、新堂を喜ばせたのだった。

    「おまえ、うちにくるか?」

     奇妙な逢瀬をはじめて一か月が経ったころ、新堂は腕にそう告げた。この公園から新堂の自宅までは徒歩で一五分ほどあり、その距離を疎ましく思い始めたからだった。腕は、五本の指をぐにぐにと曲げてそれに答える。初めて見た動きだったが、新堂はそれを了承とし、腕を土から引き抜いて通学鞄に詰め込んだ。引き抜いたその先には根など無く、薬指の断面と同じくつるりとしていた。
     新堂は鼻歌を歌いながら帰路についた。これからは自宅に帰ればこの友達がいて、退屈な時間が減るのだと思うと浮足立って仕方が無かったのだ。靴を脱ぎ捨て階段を駆け上がり、早々に鞄のファスナーを引く。友達を取り出して明かりの下に晒し、新堂は息をのんだ。腕は、水分を失い完全に萎びていた。

    「お、おい……どうしたんだよ、土か?」

     慌てて階下におり、植木鉢など無いので適当な深い皿を食器棚から盗んだ。庭の芝生を抉ってその下の土を救い皿に詰めて、そうして用意した簡易的な植木鉢に腕をさしたが、腕はくたりとしたまま、指はぴくりとも動かない。水をやったり、もう一度あの公園の土に戻したり、新堂が思いつく限りのあらゆる尽力をしたけれど、何をしても腕はもう新堂のためにタバコに着火してくれることはなかった。

    「……これが、最初で最後の友達殺しの記憶だ」

     坂上は新堂のその顔の真剣さに、頷くことすらできすに小さく唾をのんだ。作り話としか思えない話だったが、だとするとこの新堂の表情は主演男優賞ものだった。黙り込んでしまった坂上のほうをちらと見たのち、ふいに、新堂が自分の鞄を持ち上げる。

    「腐らないんだよ」

     そうして鞄から取り出されたそれ。坂上は、パイプ椅子から転げ落ちそうになったのを必死に耐えた。萎びた男性の腕。つるりとした短い薬指に蛍光灯の光が反射して、坂上の目をくらませた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏💖💖💖💋💯🙏🙏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works