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    ha_chimen

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    センター長のことを知りたいあざみと、あざみの話を聞くのが好きなセンター長のおはなし。

    RADWIMPSの「カナタハルカ」に廻あざを感じて、そのイメージを元に書いてみました。

    !!!注意!!!
    明確なネタバレはありませんが念のためクリア後の方のみお楽しみください。

    #都市伝説解体センター
    #福来あざみ
    #廻屋渉
    #廻あざ

    あなたの話を聞かせてください福来あざみはよく喋る。
    昨日読んだ漫画が面白かったとか、季節の新作が美味しそうだとか、猫を見たけど逃げられてしまったとか、今日の夕焼けは綺麗だったとか。エトセトラエトセトラ。
    そんな何気ない話を、ころころと表情を変えながら楽しそうに語る彼女の声を聞くのが好きだった。

    依頼の無い日でもわざわざ自分と話をするためだけに、あざみがセンターを訪れる事が度々ある。
    以前「話すだけなら電話でもいいのでは?」と尋ねてみたら、「生存確認も兼ねてます!声だけだと分からないこともありますし」と力強く返されたので、彼女の好きなようにさせている。
    どうやら彼女の中の私は、どこか放って置けない人、という扱いになっているらしい。
    センターに訪れる事が増えたあざみのために、一組のテーブルと椅子を置いた。
    初めのうちこそ、呪いの椅子の再来ではとなかなか使ってくれなかったが、今ではそこで課題をしたり、お菓子を食べたりと自由に過ごしているので、気に入ってくれたのだと思う。

    そして今日も、あざみはここに訪れる。
    千里眼で彼女を視てみれば、ちょうどセンターの前に着いたところだった。
    古めかしいエレベーターがガタゴトと音を立てて、彼女を薄暗い地下四階まで運んでくる。
    間もなく扉が開くと、光の中からあざみが現れ「こんにちは!」と元気な声を響かせた。
    さて、今日はどんな話を聞かせてくれるのだろうか。
    「センター長さんって、オカルト以外に好きなものは無いんですか?」
    「おや、今日のあざみさんの話題は私についてですか」
    あざみは椅子に座ると、早々に私に質問を投げかけてきた。
    興味津々といった様子でこちらを見ているあたり、昼間にふと気になって堪らなくなり今に至る、といったところだろうか。
    「センター長さんは私のことをよく知ってますけど、私はセンター長さんのこと全然知らないことに気づいたんです。だから今日は絶対センター長さんのこと聞こうと思って!やっと聞けてスッキリしました」
    えへへ、とはにかみながら概ね予想通りの動機を述べたあざみは、晴れやかな笑顔を見せた。
    かと思えば、あっと声を上げ急に立ち上がった。その勢いで椅子が音を立てる。
    「すみません!もしかして嫌な質問でしたか?」
    「いいえ。あざみさんになら大丈夫ですよ」
    どうやら私の気分を害したのではないかと心配になったようだ。大丈夫という言葉を聞くと、安心した様子で再び椅子に腰を下ろした。
    人差し指をくるくると落ち着きなく動かして、こちらを伺う瞳に悪意は見えない。
    不躾に暴き立てるような好奇心は願い下げだが、あざみの質問は純粋な私への興味だ。
    てあれば、不快になる理由はない。
    むしろ、自分について聞かれたことが嬉しいとすら思った。誰にも見つけてもらえなかった自分に、光を当てられたような心地になる。
    他者の言葉を通して自分の輪郭を確かめる事は、嫌じゃなかった。
    机の上で手を組み、質問のこたえを考える。
    「しかし、オカルト以外ときましたか…………ふむ」
    「まさか…何も無いんですか!?ちょっとでも興味のあることとか、楽しみにしてることとか!」
    咄嗟に思い浮かばない様子の私を、あざみが信じられないといった目で見てきた。
    そもそもオカルトと一口に言うが…
    都市伝説をはじめ超能力・UMA・陰謀論・古代文明などその言葉の指すところは多くそれぞれに魅力が違うのだから一生をかけても味わい尽くすことはできないだろう人間の営みがあるかぎり文化と共に新たなオカルトは日々生まれてくるしかしながらオカルトという言葉自体あやふやなものであり現代日本においては先ほど挙げたような怪異的なもの異様なもの全般に使われるが本来のラテン語から語源を辿ると──
    ──いけない、思考が脱線してしまった。
    改めてあざみの言葉を思い出す。好きなもの、楽しみなこと…。
    「ああ…楽しみなことなら、最近増えたかもしれませんね」
    「えっホントですか!センター長さんのオカルト以外の趣味、気になります!」
    私の言葉にあざみがパッと目を輝かせて前のめりになる。
    そんな彼女の様子が面白くて、つい意地悪をしたくなってしまった。
    「なんだと思いますか?特定、してみてください」
    「ええっ!?い、いじわる……ヒントください…!ヒント!」
    期待通り良い反応をしてくれる。もしこの場にジャスミンが居れば、悪趣味だと顔を顰めた事だろう。
    あざみは唐突な無茶振りに不満の声を上げつつも、律儀に問題に向き合おうとヒントを要求した。
    まるで先生を呼ぶ生徒のように、真っ直ぐ手を上げてこちらを見ている。
    「最近増えた、というのがヒントでしょうかね」
    「なるほど……最近流行りのものとかかな?あっ!最近流行ってるアニメが面白かったから、原作も読んだらドハマりしちゃったとか!」
    「それはあざみさんの最近の趣味ですね」
    「うっ。違いますよね…。うーん、じゃあ………トシカイくんの魅力をもっと広めたくて、色んなアレンジバージョンを考ている…とか!?」
    「残念ながらそれも違います」
    「デスヨネ…」
    首を捻ってあれやこれやと一生懸命あざみなりに考えてみるが、浮かぶそばからどれも違う気がして、どんどん迷走していくようだった。
    その後もいくつか誤答を重ねた末、これは無理だと降参の旗を振る。
    「ギブアップです〜正解教えてください〜」
    「おや、もう少し素敵な大喜利が聞けるかと思ったのですが。残念」
    「やっぱり遊んでたんですね!?」
    「すみません、つい」
    「ついじゃないですよ…」
    あざみはじとっ…と呆れた目つきで私に視線を送ってきた。一気に力が抜けた様子からは、やれやれという声が聞こえてくるようだ。
    素直に感情を表す分、こちらの言葉ひとつで表情が変わるものだから楽しくてついつい揶揄ってしまうのだが、やり過ぎて愛想を尽かされる前にこの悪癖は改めておきたいところだ。
    「では正解発表といきましょうか。私の最近の楽しみは…」
    「楽しみは…?」
    「あざみさんのお話を聞くことです」
    「そっかぁ私の話を聞くこと!…って、えぇぇえぇええ!?」
    悩み抜いた問題のこたえがまさかのあざみ自身だと告げられ、今日一番の大きな声がセンターに響き渡った。
    自身を指差し、本当に自分で間違いないのかと確認してくる。
    「私の?」
    「あざみさんの」
    「話が楽しみ!?」
    「はい」
    「オカルトの次に!?」
    「ええ」
    「……嘘だぁー」
    「嘘ではありませんよ。そんなに信じられませんか?」
    先ほどの揶揄いの延長とでも思ったのか、どうせ冗談だろうとあまり本気にはしてもらえなかったようだ。
    あざみは今まで話したことを思い出しているのか、顎に手を当てて宙に視線を彷徨わせていた。
    「だって、いつも普通の話しかしてませんよ?なんか面白い事言ってたかなぁ」
    まったく心当たりが無いといった様子の彼女に、少々解説を加えてやる。
    「出来事の面白さではなく、あざみさんが話してくれる、というところがポイントですね。あなたの視点から語られる話はとても興味深いですから。他者の思考とはなんとも面白いものです」
    私では気づく事のできない綺麗なもの、美しいものにあざみは気づく事ができる。
    彼女の言葉が、私の世界を広げてくれる。
    「そういうものなんですか?」
    「そういうものなんですよ。それに、私はセンターに引き篭もりがちなので、あざみさんから外の世界のことを聞けるのはとても新鮮ですしね」
    「なるほどそれで…!じゃあ、これからもたくさお話しに来なきゃですね。センター長さんの大事な楽しみを奪うわけにはいきませんから!」
    そう言って屈託なく笑うあざみの笑顔は、薄暗い部屋でありながら少し眩しく見えた。
    「それはそれは、早速明日から期待してしまいますねぇ」
    「えっ、あ、あの…ハードルはあんまり上げずに待っててもらえると…!」
    「そんなに慌てずとも、今まで通りで大丈夫ですよ」
    だって、あざみの話すことならきっとなんだって楽しい。
    「私に話したいと思う事ができたら、あなたの話を聞かせてください。」




    あざみが地上へ戻るのを見送ると、センターには自分一人が残される。
    閉じたエレベーターの扉を見ていたら、つい独り言がこぼれ落ちた。
    「私にとっての外の世界とはあなたなんですよ、と言ったら流石に笑われるでしょうか」
    もしくは驚いて目を丸くするか。大げさですよと照れるかもしれない。そもそも冗談だと思って信じてもらえなさそうだけど。
    それでもいいから、伝えてみたいと思った。
    どんな言葉なら届くだろう。どんな顔をするだろう。
    まだ見た事のないあざみの表情を想像するのは、楽しかった。
    誰も知らない彼女の表情を知りたい、なんて。こんな願いあざみと出会うまでは考えもしなかったのに。
    いつの間にか随分と人間らしくなったものだな、と思わず自嘲するのだった。
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