夏の日 目を覚ました――眼前の風景に馴染みがない。薄明るく、ひんやりと夜の空気が留まるなか、小さな海賊の小屋に寝ていたようだ。
ぼんやりした頭、垂れた髪に邪魔される視界、半ば夢をまだ見ているような心地のまま布団から這い出た。
「う、む……確か、昨夜は……」
あぐらをかいて座り、崩れた着物の合わせを整え、帯を締め直す。周囲を見て目に入るのは、無造作に転がる瓢箪、盃、枕、そして初老の男。
そうだった、と仁は呟いて、派手にイビキをかく男の枕もとに膝をつき、肩を揺すった。
「おい、丶蔵。起きろ」
「ん、んん〜……」
ところが男は寝返りをして仰向けになったきり、目を覚ます気配はない。
夏の風に乗って潮の香りが漂ってくる。港では早朝から漁に出るのだろう、海賊たちの声が聞こえてきて、しこたま酒を呑み騒いだ夜中から、そう経っていないのだと思い至った。
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