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    omoch117

    @omoch117

    文章書いて自給自足が趣味のゲーム脳おばさん。左右非固定、NLGLBLなんでも食う。
    絶賛、ツ島の刺と牢で狂ってる。

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    omoch117

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    いつもは癒やす側のひとが、癒やされてる側のひとに世話されてほしいところある。弱ってるときにだけ見せる表情や感情のギャップが好きだな、うん。

    熱出してブッ倒れた牢人を刺客が看病する話 白く、無機質なほど無色の鳥居を抜け、冥人としての役目を果たした牢人と刺客は帰還した。
     既に陽が傾き、天も地も、辺り一面が橙色に染まっている。雲は少なく、今夜は広く満点の星空が望めそうだ。
    「今度のはラクだったな、牢人」
     吹き矢を空へ投げては掴み、くくく、と刺客は白い狐面の奥で笑う。
    「いつもこうだったらいいのになァ?」
    「……そうだな」
     対する牢人はといえば、どこか上の空だ。それは戦闘中ですらちらほらあって、刺客がヒヤリとした場面も数回では済まない。
    「おい。なんか今日のお前、ヘンだぞ」
     目の前に立ち止まって首を傾げる刺客に、牢人は顔を上げず首を振る。
    「いや、大した事では」
     不意に、牢人の膝がガクンと折れた。
     とっさに刺客は肩を抱き止め、その時に初めて、彼の息が荒く熱を持っていることに気が付いた。
    「お前ッ、ガマンしてやがったな!?」
     刺客の呼び掛けに応えることなく、牢人の意識は力なく沈んで、深い闇へと落ちていった。


     以前にもこうして、共に居た者に心配を掛けさせてしまったことを思い出す。謝罪と感謝を伝え、己の行動を反省したものだ。
     独りで過ごしていた間は、そんなことを考える余裕もなく、ただ、いつ終わりが来るのかと絶望する日々。
     だがしかし、その両方ともが過去の話だ。今は――
    「しか、く」
     ぼんやりする視界の中、牢人はどうにか言葉を発した。
     額に、冷たく濡れた布が乗せられる感触。重い身体は温かな布団に包まれ、うっすら汗ばんでいるようだった。
    「目が覚めたのか」
     狐の面を外したままの刺客が、牢人の枕元にちょこんと座って、頬を膨らませて怒ったように見下ろしている。
    「いつになったら、ガマンしなくなるんだ?」
    「済まん……」
     弱々しく布団から出した手は、刺客の頬をそっと撫でた。
    「ちゃんと寝てろよ、熱だけならすぐ治る」
     そう言って立ち上がろうと背を向けた刺客の袖を、ぐい、と引っ張る。
     何かに引っ掛かったのかと驚いて振り向く刺客の目に、不安げに顔を歪めた牢人が映って、思わず息を呑んだ。彼のそんな顔は、はじめてだ。
    「どうした、牢人……そんな顔……」
     赤ら顔の牢人が、唇を動かして何かを言ったようだ。しかし、か細いそれは刺客の耳をもってしても聞き取ることができなかった。
    「薬になる草をとりに行く。すぐもどるぞ」
     袖を掴む手に、刺客も手を重ねた。潤んだ牢人の目から、一雫の涙が伝う。
    「まだ……居てくれ……」
    「こわいのか、牢人」
    「……頼む、そば……に」
    「言ったろ、お前をひとりにしない。そんな顔するな」
     刺客は、牢人の肩を起こしてぎゅうと抱き締めた。いつぞや、悪夢に怯え震えていた時と同じように。
    「お前がいないと、おれもひとりだ」
    「……あぁ」
    「今度はガマンするなよ」
    「済まん……」
     孤独の辛さは痛いほど知っている。しばらくの間そのままに、刺客は牢人を抱き締め続けた。
     やがて袖を掴む手が床に落ち、とん、と微かな音を立てる。ゆっくりと身体を離せば、安らかとはいえないが、目を閉じて寝息を立てている牢人が目に映った。
    「なんでもひとりで、やってきたんだよな……お前も」
     起こさないよう、そうっと刺客はもう一度、愛おしそうに牢人の身体を抱いた。熱の篭もる身体、汗ばんで、荒い呼吸。慎重に寝かせてから、水桶に浸して冷やした手拭いを絞って乗せ、立ち上がる。
     外は、既に陽が落ちて暗くなりつつあった。朱色と藍色が混じって、寒いんだか暖かいんだか、両極端な印象をこちらに与えてくる気がして、刺客はこの色が好きだった。
    「急がねェと」
     常人より鼻が利くとはいえ、視覚も使った五感で探した方が早いに決まっている。彼が再び目を覚ます前に、十分な量の薬草を集めなければ。いつもの冷静さが欠片もない先ほどの様子では、何をするか分かったものではない。不調を気力で誤魔化して、刺客を探してうろつくなどという行動をとる可能性もある。
     冥人といえども、痛みや苦しみは変わりない。次に見る牢人が倒れている姿かもしれないなどと、想像すらしたくないのだ。
     冷えた夜風に乗って運ばれてくるニオイをどうにか嗅ぎ分けて、昼間の記憶と照らし合わせながら、目当ての植物の群生している場所へと辿り着いた。
    「おっ、あった」
     月光に照らされる緑葉や根を適量摘み取って、薄手の麻袋へ雑に仕舞い込むと、探し回った時間を取り戻そうとするように、全力で駆ける。複雑に生える樹々の間を擦り抜け、岩があろうと穴があろうと構わずに直進していく。
     やがて、いつものあばら屋が見えてきたと思えば、いくばくかを数える間に入口の戸に手を掛けていた。
    「っはぁ、ふぅ、水も、いるな」
     肩で息をしつつ、台所に桶があったと思い出しながら引き戸を開ければ、出掛ける前と同じように牢人が大人しく横になっていた。ホッと胸をなでおろして、手桶を持ち外に出ようとし――
    「っがは、げほげほっ」
     突如、牢人がむせたように激しく咳き込んで身じろぎ、掛けていた布団が大きくズレてしまう。
    「ろうにんっ!」
     持っていたものを無意識に落とし、駆け寄って両手で牢人を抱きかかえた。
    「ゲホッ、う、はぁ、っはぁ」
     息が詰まったように、眉間に深いシワを刻んで苦しげに喘ぐ。目は閉じられたままで、まだ意識は夢の中にあるようだ。
     力なく垂れた両腕、汗で顔や首筋に貼り付いた乱れ髪。病魔に蝕まれた牢人は、刺客の知る威風堂々としたそれとはかけ離れて、弱々しく儚いものに見えた。今にも、その命がこぼれ落ちてしまうのではないかとさえ。
    「しぬなよ、牢人……おれを置いていくな……」
     ぽつりと呟いて、刺客はまた牢人を抱きしめた。身体から魂が抜けてしまわぬよう、彼が確かにここに居るのだと。
     熱だけなら、しっかり休めれば一晩で治まることも多い。しかし咳まで症状が出てきたのなら、長引くことも視野に入れて看病する必要が出てくる。急ぐあまり、咳止めの効果がある薬草も一緒に採ってくればよかったと、刺客は後悔した。





    (そのうちまた続き書きます)







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     唖然としている少年の後ろから、五条はすたすたと歩いてその門へと向かっていく。
     ぎぎ、と軋んだ音を立てて開く、身の丈の倍はあるだろう木製の扉。黒い蝶番は一体いつからこの扉を支えているのか、しかし手入れはしっかりされているらしく、汚れた様子もなく誇らしげにその動きを支えていた。
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