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    kusekke_ura

    女体化だったりパロだったり。
    色々とごちゃまぜです。

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    kusekke_ura

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    暁の彼方、きみとともに。(仮)

    「妊娠と共に止まっていた肉体の時間が動き出してしまう陸奥守」
    の、プロット的なものです。
    妊娠・出産・死別・本丸解体等の表現があります。
    2021年無内には、紙媒体に纏めたいです

    陸奥守のお腹に、和泉守との新しい命が宿った。

    硬く冷たい鋼の体は柔らかな肉の体を得、そしてその内側に宿した揺り籠に、煌めく命を抱いたのだ。

    最初の内は喜んだ二振り。
    しかし検診で、重大な事が発見された。

    胎内で、猛烈な勢いで細胞分裂を繰り返し成長する胎児に合わせ、陸奥守の肉体も、止めていた時間を動かし始めたのだ。

    二振りは、話し合った。

    陸奥守は悩んだ。
    せっかく自分達を選んでやってきてくれた小さな命。産む以外には考えられない。
    でもそれは、将来、和泉守を一振り残し自分だけ先に逝くという結果につながる。
    彼は悩んだ。
    それを、和泉守は笑いとばした。
    「だったらお前に残された時間、嫌ってほどお前を目いっぱい愛しつくしてやるよ!」
    と。

    だから産んで欲しい。
    二振りと一人で家族になって、残された時間を謳歌しようと。
    伴侶の言葉に、陸奥守はまだ膨らんでいないお腹を抱えて泣いた。
    和泉守も彼のお腹を抱きしめ顔を寄せて
    「待ってるから、ゆっくりおいで」
    と泣きながら我が子に声を掛けた。

    十月十日、陸奥守はその揺り籠で我が子を大事に大事に慈しみ、育てた。
    そして無事、陸奥守は元気な男の子を産んだ。

    ヒトの子を育てるというのはなかなかに大変なもので、二振りは本丸の仲間達の協力を得ながら愛おしい一粒種を大切に育てていった。

    子が成長する。
    そして
    陸奥守が歳をとる。
    しかし
    和泉守は、変わらない。

    愛おしくも切ない時間が、家族の間に流れた。


    寝返りを打った
    ずり這いをした
    ハイハイをした
    立った
    歩いた
    喋った

    子どもの成長に、本丸中に毎日歓声が上がった。

    そしてそれと共に
    陸奥守の顔に皺が増え
    髪には白いものが混ざり始めた。

    「陸奥守…」
    目元に刻まれた皺をそっと指先でなぞる。
    深い、笑い皺。
    彼がこの時間を心から楽しんでくれている、何よりの証拠。
    その事実が、和泉守にとって救いだった。


    大きな病気をする事もなく、子どもは無事成人を迎えた。
    そして自分の夢を叶える為に本丸を出て一人立ちをした。

    夫婦二振りきりとなった和泉守と陸奥守。
    陸奥守の目尻には何本もの深い深い笑い皺。
    それは家族の幸せの記憶。

    「陸奥守」
    「和泉守」
    陸奥守に残された時間を、二振りは思う存分愛し合い、謳歌した。


    彼等をこの本丸に顕現した審神者は高齢になり引退し、新しい審神者がその後を継いだ。
    それでも変わらず、本丸の時間は流れた。
    四季がいくつも巡り、陸奥守の肉体も次第に力を失ってきた。
    それでも彼は和泉守い寄り添い、和泉守は彼を愛した。
    昔程激しくはなくとも、それ以上に言葉で仕草で愛を伝え合い、二振りは共に在った。


    そしてとある麗らかな春の日。

    鍛刀場で桜吹雪を背負い元気な産声と共に顕現した刀剣男士・陸奥守吉行は、
    満開の桜の下、
    愛する伴侶の腕の中でその生涯に幕を下ろしたのだった。


    それから数年後、歴史修正主義者との戦いも終焉を迎えた。

    「あとちょっと長生きしてくれりゃあ……一緒に逝けたのにな…」
    自室で愛する伴侶の骨壺の入った桐箱を抱きしめ、和泉守はぽつりと呟いた。

    刀剣男士としての使命が終わり、彼等はその肉体を解き魂を本霊に戻す事になった。


    仲間達は朝から順番に審神者の元へ赴き、別れの挨拶をした後、顕現を解かれていった。
    皆、積もる話もあってか、最後の和泉守の順番が回ってきたのは夜遅い時間だった。

    「入るぜ」
    共に行かせて欲しいと骨壺を抱いたまま、和泉守は審神者の元を訪れた。
    部屋に入り審神者の前に堂々と起坐し恭しく頭を下げる和泉守に、審神者は言った。



    「永きに渡る歴史修正主義者との戦い、おつかれさまでした。刀剣男子和泉守兼定…いや、とと」




    先代の審神者から代替わりを果たしたのは、和泉守と陸奥守の息子だったのだ。
    「いや、お前もよくやってくれた。お前の采配のおかげで何度命拾いしたか」
    脚を崩し胡座をかき、和泉守は息子を見つめた。
    見た目は既に自分の何倍もの歳を重ねた、初老の男性。
    自信に満ち溢れた橙色と浅葱色の混ざった瞳は、紛れもなく和泉守の愛する我が子。

    「そりゃあ、僕は和泉守兼定と陸奥守吉行の子どもだからね。ちゃんと決める時は決めるさ」
    審神者と男士の垣根を崩し、彼等は親子として向き合った。

    「歳とったなぁ。その笑い皺、あいつにそっくりだ」
    陸奥守の目元に深く刻まれた幸福の皺。
    彼が笑って余生を過ごしてくれた証の皺を愛する息子も刻んでいた。
    和泉守は胸の奥からは愛おしさがあふれた。
    それに比べて自分はと、和泉守は拳を握りしめた。
    最愛の伴侶や息子と同じ時を刻めなかった、自分。
    いつまでも変わらぬ姿のまま、彼等がどんどんと時を重ね小さくなる背中を、見守るしかなかった自分。
    「僕は、ととがいつまでもかっこよくて強いままでいてくれて嬉しかったよ」
    息子は、胸をはりそう答えた。
    「…そうか」
    「うん!」
    「ありがとな」
    「こちらこそ。少し無茶な作戦にも付き合ってくれて感謝してるよ」
    「そうだな…お前しくもない、少し焦りの見えた場面があった」
    「どうしても守らなきゃいけない約束があったからね。負けるわけにはいかなかなかったんだ」
    息子の言葉に、和泉守は「約束?」と首を傾げた。
    「うん。かかとね」
    「陸奥守と?」
    「子の死に目に遭わせる様な親不孝は、絶対にしない。ととを一振りにしない、ってね」
    「お前たち…」
    桐箱を抱きしめる腕に、力が籠った。

    そんな父の様子に、息子は腰を上げると彼の目の前へと歩み寄り、しゃがみ込んだ。
    「とと。長い間、刀剣男士和泉守兼定として、そして僕の父親として、本当ありがとうございました。ようやくかかの元へと送ってあげられるね。遅くなって、ごめんね」
    そう言った後、桐箱に手を添えた。
    「かか、待たせてごめんね。今からととがそっちに行くよ。
    桐箱を愛おしそうに見つめる眼差しは、母譲り。
    久方ぶりに彼の面影を間近で見る事が出来、和泉守は溢れる愛おしさを涙として溢れさせた。
    「あっちでさ、また夫婦水入らずでイチャイチャしてきなよ」
    へらりとおちゃらける息子を、和泉守はつよく抱きしめた。
    「待ってる…お前の事も待ってるから…ゆっくりでいい。必ず会いにこい」
    「うん。なるべく邪魔したくないから、ゆーーっくり行くね」

    「必ず来い」
    「うん。男同士の約束だよ」
    「布団の真ん中空けて待っててやる」
    「この歳で川の字は狭いよ、とと」

    暫しの談笑。
    懐かしい空気が流れる親子を東の地平線から顔を覗かせた太陽が照らした。
    「綺麗だ…」
    金色の朝日に、息子は目を細めた。
    白髪混じりの茶色の髪を風に揺らし目元に刻んだ皺をより一層深くしながら幸せそうにに微笑む様は、在りし日の陸奥守そっくりだった。

    「陸奥守…」
    桐箱をぐっと抱きしめた父を、息子はそっと抱きしめた。
    「それじゃあね、とと。いってらっしゃい。かかによろしくね」
    「ああ、行ってくる」

    万屋が何処かに買い出しに出掛ける際に交わされるようななんて事ない会話を交わし、息子は審神者として父の顕現を解いた。

    和泉守の体をいくつもの温かな光が囲った。

    「あれ?」
    今まで百振り近くの顕現を解いてきた彼。
    見慣れた光景の中に、一つだけ違うものが混ざった。
    男士を包む白い光の中に、一つだけオレンジ色の光があったのだ。
    「お迎えにきてくれたんだね」
    その声に応える様にオレンジ色の光はくるくると踊るように浮遊したあと、ほわりと大きく膨らみ和泉守を包み込んだのだった。
    「いってらっしゃい。かか、とと」

    「またね」

    その声を合図に、オレンジ色の光は弾け、その眩しさに閉じた瞼を開いた時には、既に和泉守の姿は桐箱諸共消えていたのだった。
    「我が両親、最期までラブラブで大いに結構!」
    父親譲りの威勢の良い声でそう叫んだ言葉は、浅葱色と橙色の混ざり合う朝焼けの空へと吸い込まれていったのだった。


    おしまい。
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