ゲッターチームにケモ耳が生えたら俺以外捕食者でした。 ある日の浅間山、早乙女研究所。いつもと同じ様にメカザウルスに襲撃されゲッターロボで撃退するはずだった。
筈だったというのも、現れたメカザウルスはゲッターロボと対峙するや否や装備していた光線をロボとコマンドマシンに向けて照射し、そのまま退却してしまったのである。
「なぜメカザウルスはあんな光線だけで逃げてしまったんだろう。ハヤト、ムサシ!大丈夫か」
「特に体調に変わりはないぜ...けどよ」
「でもなんだろうなおいら少し...眠くなって来ちゃった」
特に大きな変化が感じられる様なものではないはずだが、唐突にゲッターチームを包み込むような眠気が襲ったのだ。
「ゲッターチーム、大丈夫?ムサシ君から眠いとか聞こえたけど駄目そうならオート操縦に切り替えて頂戴ね」
「ミチルさんも光線を浴びてたけど眠くはならないのかい?僕も少し眠くなって来たような気がするんだ...」
比較的元気だったリョウも少しずつ眠くなってきたようであり、四人とも夢の中へ落ちてしまうのは時間の問題の様だ。
「私も...駄目かもしれない。お父様...全員オートパイロットにするから誘導お願いします...」
研究所にたどり着くまであと少しという所で四人とも深い眠りへと意識を手放した。
十数分後……
「「「博士えええええええええ!!!」」」
研究所に響く雄叫びに近い悲鳴とともにゲッターチームの三人が司令室に飛び込んできた。
うるさいからもう少し静かのしなさいと三年を注意しようと振り返った早乙女の目がいつもより三割ほど丸くなる。
「どうしたんだいその姿は」
「どうしてなのかは僕達にもよくわかりません」
「ただ研究所に戻るときの皆突然眠くなって気がつ
いたらこうなっていて……」
「おいらなんてみてくださいよこれぇ!」
そういって回れ右をしたムサシの頭の上には黒くて丸い耳、尻の辺りには耳と同じ色の毛の房が垂れ下がっており、位置的にも
「これは本当の尻尾じゃないか。まさかリョウ君達も同じ様になっているのかい?」
そうなんですと残りのふたりも早乙女に背中を向けるとリョウの尻にはくるりと丸まったふさふさの茶色の尻尾、頭には同じ色のピンとたった三角の耳、ハヤトには黒と白の二層に別れた丸みのある尻尾かそれぞれ生えていた。
ちょっと触るよと早乙女が三人の耳と尻尾を触診すると感覚もしっかりあるのかピコピコと上下に左右に動いてくれるのだ。
「ふむ、これはもしかしたら君達の体が獣になるように何かをされたのかましれないな。よし、今日は研究に三人とも泊まりなさい。そんな体じゃ寮に戻れないだろう。おそらく、メカザウルスもまた攻めてくるだらうからしばらくここにいるように」
ところでミチルはどうした?と早乙女が問いかけると意識を失う前には一緒だったよなと三人で見合ったいたら、私も皆と同じ事になってるみたいねと、これまたリョウより少し小さめの白い三角の耳と先端が黒と茶色の模様が入った細い白の尻尾をゆらしなごらミチルが司令室に入ってきた。
「はぁ…ミチルは三毛猫さんと言ったところか」
「お父様の飲み込みの速さ、ちょっと羨ましいわ。ハヤト君なんてさっきからあまり話さないけど、それウサギの尻尾でしょ?一番びっくりしても仕方ないわよ」
「えっ?ハヤト、お前それウサギ…ウサギさんだったのか!?てっきり俺と同じ犬だとばっかり」
「こんなまるっこい尻尾の犬、トイプードルでもそうはいねぇよ。おい、何で近寄ってくるんだ」
少しムスッとした隼人にリョウがジリジリと近づいていく。
「いや、ほらウサギっていうわりには耳が長くないと思ってさ。確かめさせてくれよ...あ、垂れてる。」
「んっ………」
隼人の長めの襟足の隠れた耳にリョウの手が触れる。優しく触れてくるがいつもより敏感になっている耳のせいかキュッと隼人は身を硬くする。ついでにウサギの尻尾って触ったこと無いんだよなとちょっと邪な考えに至ったリョウの手が耳から隼人の尻尾に伸びた瞬間、隼人の右足がダンと地面を鳴らした。
「変な所触ってんじゃねえよ!!!」
仕返しだと言わんばかりに隼人ほリョウのふさふさの尻尾をがっと鷲掴みしたが、キャン!!とリョウからかん高い悲鳴が出たのみであった。
そうして二人がもみ合った所でソファの1つを縄張りにした隼人と残りの三人で向かいのソファに付いた所で、今回の対策についての作戦会議が始まった。
「おいら達、このままどんどん動物になっちゃうのかな…熊さんになっちゃうよお」
「おい滅多なこと言うなよムサシ。俺なんてそうしたらウサギになっちまうぜ?」
「大丈夫よ二人とも。多分メカザウルスを倒せばどうにかなると思うの」
「そう、まずはメカザウルスを倒すことが先決だ。おそらく、やつらは俺達が完全に動物に変わっていると考えているだろう」
「それで必ず襲撃してくる。その時に返り討ちにしてやるしかないってことか」
「そう、その時が一番のチャンスなんだ」
「で…話変わるけど何で隼人はさっきからソファを一人占めしてるんだよお。そんなにおいら達が嫌か?」
ふとムサシが尋ねると
「悪いとは思っとるんだが、どうも落ち着かねぇ。リョウはさっき耳とか触ってきたしミチルさんもムサシも近寄ったら何かゾワゾワしてきてな。1人が落ち着くんだ」
「もしかして、ハヤト君だけウサギさんだから私達に食べられると思ってるのかもしれないわ」
そう、リョウ、ムサシ、ミチルの三人は犬と熊、猫と立派に肉食動物であるがハヤトのみウサギなのである。つまり、ハヤト以外は捕食者なのだ。
そう考えた瞬間、ハヤトは自分のこのおちつかなさに合点がいった。そしてそれは恐怖に置き換わっていったのである。
俺、食われる方って事かよ!!
そう考えたらなんとなく三人の視線が怖い。おいやめろ、そんなに凝視してくるんじゃない。何で爪先こっちに向くんだよリョウ。ムサシなんだその手は。飛びかかる気満々じゃねえか。ミチルさん?なんでちょっと構えてるんですか?...逃げるぞ!
文字通り脱兎の如く、ハヤトは司令室を飛び出した。それを追うために三人も走りだし、部屋を出ていくのを見送った早乙女博士は元気だなぁ...と思ったのであった。
研究所をそのまま飛び出したハヤトが逃げ込んだ先は研究所の回りにある雑木林。室内よりも隠れ場所は多いから見つかる事はないだろう。
頼む、誰も見つけるなよ...。
「見つけたぞハヤト!」
林の中に響く声。少し尻尾を横に揺らしながら走って来たリョウがそのままハヤトに飛び付く。どうして逃げるんだよ!俺達耳と尻尾は生えたけど人間だから食べないだろ!
だからそういうことじゃねえんだよ!と再度もみ合ったところでリョウがハヤトを勢いで押し倒した。これじゃ本当に狩られた獲物じゃねえか。ちくしょう...
「ごめんハヤト。でも急に走り出したのもいけないんだからな!大人しくしてくれよ」
「俺だってそうしたいんだがよ、この様だから駄目なんだよ!!」
そういってリョウの脇腹にハヤトの左足がめり込み、リョウがよろけた拍子にハヤトは逃げ出した。
待てよハヤトぉ...と小さく聞こえたけど無視だ無視。
林の奥へさらに逃げていくとちょうどよく倒木が重なってしゃがめば人1人隠れられるだろう隙間ができていた。ナイス、博士から連絡があるまで隠れていればあいつらも諦めるだろと隙間に飛び込んで一息付いたところでハヤトは信じられない方向から信じられない声を聞いた。
「はーやーとくん♪」
ハヤトのいる窪みのちょうどななめ前、太めの木の枝に腰かけたミチルがいたのである。
え?ミチルさん?どうしてここにとハヤトが考える前にミチルはそのままハヤトめがけて飛び降りた。
「リョウ君も言ってたでしょ?ハヤト君が私達に食べられるって思って逃げちゃうもんだから追いかけたのよ?でもわかるわ、そりゃあこれだけ可愛いウサギさんなんだもの。美味しそうに見えちゃうわよ」
「嬉しくない可愛いだなあ...」
リョウの様に退かしたいが窪みもそこまで広くなく、飛び降りたミチルをキャッチしたせいでハヤトの上にミチルが乗っている状態である。つまりめちゃくちゃ密着しているのである。しかも今のミチルさんは獣成分が強いのかなんとなく妖艶だし、美味しそうとハヤトの輪郭をなぞる様に指で頬をなぞってくる。その度にハヤトのどんな感情よりも素直な尻尾が上下にビビビっと震えてしまう。
「今日のハヤト君、可愛い...」
何かおかしくなっているミチルが更にハヤトに近づこうとした瞬間、無機質な機械音が二人の通信機から鳴り響いた。
「私だ、早乙女だ。メカザウルスが再度現れた。ゲッターチーム、直ちに急行せよ!」
早乙女からのメカザウルス出現の報せに二人の頭の中は一斉にいつものゲッターチームに切り替わる。
「こちらハヤト!今ミチルさんと合流した所です。これから向かいます!」
「よし、頼んだぞ!」
早乙女への返事の変わりに二人で顔を見合わせるをそのまま駆け出し、オート操縦で飛んで来たゲットマシンに乗り、そのまま戦場へ向かったのだった。
なお、メカザウルスは撃退され、四人の体も翌日には元に戻り今回の事件は無事解決されたのであった。