いつものふたり。たぶん、その日も雨が降っていた。
麟児のどこか冷たさをまとった低い声がいつもよりハッキリと聞こえたと嬉しく思ったからだ。
ぽつりぽつりと傘を叩く雨音に溶け込むように穏やかに麟児は話す。他人と話す際にはない温度を傘の内側で感じながら顔に出さないように前を向いていた。
「お前がこの前言っていた橋が映るんだろう?」
「え、あっ、はい。フライヤーに載ってたのでおそらく」
海を越えたとある国のとても大きな橋がロケ地となる。そう教えてくれたのは同じく海を越えた先で働いている父だった。だが日本での公開は一ヶ月ほど遅れると知り、当時いつになくテンションを上げて麟児に話していたことが修は少しだけ恥ずかしかった。
その映画のコマーシャルがテレビで流れたようで麟児はなんでもないように修へと話を振ったのだ。一ヶ月も前に話した、麟児の興味では無いような映画の話を覚えていてくれたことにのぼせる頭を傘の外へと傾ける。そんなことをしたって顔が赤いのはバレているし、なんなら傘の中の温度さえも上がったように感じて足が止まってしまいそうだった。
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