いろいろなイベントに出演して、いろいろなファンの人たちに見つけて貰えた。
いろいろな人たちに出会って、C.FIRSTのみんなと仲良くなって、ぴぃちゃんに褒められていつの間にか家に帰るのがこわくなった。
個性に溢れて夢や希望に溢れた音楽と一緒に、様々なアイドルたちが背中を押して、隣に立って、支えてくれる日々。
応援してますと顔を真っ赤に染めて一生懸命、好意を伝えてくれるファンの人たち。
それらを支えるようにステージやイベントの裏方を準備してくれるスタッフたち。
そして、目を輝かせながら僕たちを愛してくれるぴぃちゃん。
どれもが奇跡のようにきらめいていて、不相応ではないかと僕を焼いた。
それでもここしかないと、ぴぃちゃんしかいないとみっともなくしがみついていると、ある日、僕を焼いていた炎が愛だと知ってしまうのだ。
「あのね、ぴぃちゃん」
もふもふえんやHigh×Jokerをはじめとした未成年組は既に帰っており、同ユニットであるアマミネくんやマユミくんの姿も既にない。
成人組も各自の予定により家路についており、いつもは賑やかな事務所も、暖かい色をした間接照明で照らされる程度の温度だった。
「百々人さん? 忘れ物ですか?」
今日はC.FIRSTでのあわせをした後、2時間ほど前に解散していたからぴぃちゃんはにらめっこしていたモニターから驚いたようにこちらに目線を移した。
「とびら、あけられなくて戻ってきちゃった」
2時間前、たのしくおしゃべりをしながら3人で帰っているときはいつもどうりだったのだ。ひとり、またひとりと道を別れて僕ひとりになった時、すぅーっと気分が落ち込んだ。
「──、」
1歩、また1歩、足を動かす度に身体は強ばって、玄関に着いた時には息が上がっていた。
秋風に背中を押されるようにドアノブに手をかけて、その金属の冷たさに手が引っ込んだ。
その扉を隔てた先の空間の冷たさに足が震えて、1歩、また1歩と、後退る。
「どうしよう。かえりたくないんだ」
縋るように抱きしめたぴぃちゃんは少し冷たくて、一人だと暖房を付けるほどじゃないなと暖房を消す姿がありありと思い浮かんだ。
でも、昼間のように、ライブのように暖かすぎる空間に耐えられる気もしなかったからちょうど良かった。なによりずっと外をさまよっていた僕のほうが冷たかった。
ぴぃちゃんは僕の冷たさに息を詰めて、人を恐れる動物を撫でるようにゆっくりとやさしく抱き返してくれる。
やさしいなって震えが少しおさまって、なおさら家には帰りたくなくなった。
「お家に、電話していいですか」
怖いことはしないと伝えるようにゆっくりと言葉を紡ぐぴぃちゃんに小さく頷くと1度強く抱きしめられたあとに「少し待っていてください」とスマホを片手に給湯室のほうへと移動していった。
こういう時自分が未成年であることを実感してしまう。今更家出なんて、あの家の人達はなにも感じないし口出しをしてこないのに、どうしたって許可を取らなければならないのだ。
アイドルになると言った時だってあの人たちはアイドル活動にかかるかもしれないお金のことばかりが心配で、日々の生活を振り返ると守銭奴というよりはやはり投資家の側面が大きかった。
僕は投資するには値しない。
しばらくするとぴぃちゃんはマグカップを持って帰ってきた。
「ココアです。許可は取れましたので少し温まってから帰りましょうか」
「帰るってどこに」
受け取ったマグカップは、いつの日か陶芸のイベントの仕事の際にC.FIRSTのみんなで作った物だった。家に持って帰るがなんとなく嫌だったから事務所に置いて使っていた。
「狭いですけど、俺の家に」
「──いいの?」
ぴぃちゃんは力強く頷いた。
ステージに立つ時に不安になった僕たちを安心させて、勇気づける時と同じ眼差しだった。