Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    edF1X2

    @edF1X2

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 27

    edF1X2

    ☆quiet follow

    麟修
    https://twitter.com/edF1X2/status/1488662471934345217?t=nMQ27KB00WFkg_w6d3v5Dg&s=19
    これ。基本捏造しかない

    いつものふたり。たぶん、その日も雨が降っていた。

    麟児のどこか冷たさをまとった低い声がいつもよりハッキリと聞こえたと嬉しく思ったからだ。
    ぽつりぽつりと傘を叩く雨音に溶け込むように穏やかに麟児は話す。他人と話す際にはない温度を傘の内側で感じながら顔に出さないように前を向いていた。
    「お前がこの前言っていた橋が映るんだろう?」
    「え、あっ、はい。フライヤーに載ってたのでおそらく」
    海を越えたとある国のとても大きな橋がロケ地となる。そう教えてくれたのは同じく海を越えた先で働いている父だった。だが日本での公開は一ヶ月ほど遅れると知り、当時いつになくテンションを上げて麟児に話していたことが修は少しだけ恥ずかしかった。
    その映画のコマーシャルがテレビで流れたようで麟児はなんでもないように修へと話を振ったのだ。一ヶ月も前に話した、麟児の興味では無いような映画の話を覚えていてくれたことにのぼせる頭を傘の外へと傾ける。そんなことをしたって顔が赤いのはバレているし、なんなら傘の中の温度さえも上がったように感じて足が止まってしまいそうだった。
    「見に行こうか」
    「え?」
    「今すぐには無理だから少し待ってもらうことになるけど」
    「待ちます! あっ……いえ、待てます」
    食い込むように答えた声と、大袈裟に動いてしまった体が傘を持ってくれている大人の手とぶつかり、驚いて傘の外に飛び出てしまう。
    麟児は少しだけ口元をゆるめてゆっくりと体を修へと向けて傘を傾ける。
    「意外だな。おまえの好きな橋が映るんだ、当日に行くのかと思っていたよ」
    このままでは麟児までもが濡れてしまうと修も半歩ほど足を進め、向かい合ったまま立ち止まる。
    「ひどいこと言わないでください」
    わかっているくせに。と拗ねた声が出てまた顔が熱くなる。母にだってこんなにも甘えた声を出したことなどなかったのに。

    最初、父のように甘えているのだと思った。海外へ赴いてばかりの父の代わりに、大人の男性へ父を重ねて甘えているのだと。それなら母への甘え方と種類が違うのも納得出来たし、なにより修は父が好きだったから思ったよりも自分は寂しかったのだなと頭を冷やした。
    それなのに麟児との日々は知らない自分ばかりを見せつけられて、麟児の隣にいて恥じない人間になろうと欲のようなものさえも芽生え始める始末でほとほと困り果てていた。
    そこまでくるともう家庭教師として勉学を教えてもらう延長で馬鹿正直にも本人に修は聞いたのだ。聞いてしまったのだ。
    『これは"恋"なんでしょうか』と。
    その時の麟児といえばいつものような思慮深い表情をしており、告白まがいのことをしてもなおいつもの通りの家庭教師と生徒のような空気だった。
    というのはもちろん当時の修の思い違いで、あれから数ヶ月だっただけの修でさえも当時の麟児の表情というのはとてもめずらしく傑作であった。
    どうしたものかという表情で、──おそらく身内に対して存在するなけなしの良心によって隠されていた修への何かを──『修はどうしたい』と問いかけた。
    解答、もしくはヒントを与えられると思い込んでいた修は焦り、大量の冷や汗をかきながら『ほ、保留で』と机に広げていた筆記用具を鞄へと投げ込み、逃げた。家庭教師を頼んでからはじめての早退だった。
    夕飯を食べ、湯船につかり、寝て、起きて、学校へ向かう。そうして麟児との家庭教師の日になれば、二人は何事も無かったかのようにいつもの距離で過ごせてしまう。そういう二人だった。たとえ、麟児がシャーペンを握る修の手に軽く触れようとも、修がいつもより近くに座ろうとも何も変わらないと二人は思っていた。

    ──そして麟児は修を置いて近界へと行ってしまった。



    再会したのは数年後だった。敵対国との会談の場に当たり前のような顔をして麟児一同は現れた。敵対国、ボーダー遠征部隊、麟児一同は三面で向かい合い、麟児が友好を結んだ数カ国を含めた同盟が正式に決定し、多少のごたつきがあったものの密航者たちは堂々とボーダー遠征部隊と共に日本へと帰ってきた。
    とはいえ麟児一同の行動は咎められるべきものであり、不信感を拭いされるものでもなく、監視という名目でボーダーへの加入(再加入)が義務付けられた。
    そんな彼らを受け入れられるのは玉狛支部しか見当たらず、すんなりと麟児は修の元へと帰ってきたのである。
    "修の元へ"、というよりは"妹の千佳の元へ"とが正しいのだが話さない分は誰に迷惑をかけるものでも無いので修はそう思っていた。おそらく麟児も。

    「映画、見に行こうか」
    だからその言葉をすんなりと数年前のことだと紐づけることが出来たのは修にとって随分と照れくさい事だったのだ。
    「──終わった話にされたのかと思っていました」
    数年前に見ようとしていた映画の再上映。それは麟児への監視が緩み、ちょっとした遠出なら許されるようになってきた頃合に知らされた。
    修が知ったのは映画好きで有名な荒船が食堂で嬉しげに話していたのが聞こえたからだ。
    「あのアクションをフルスクリーンで見れんのは最高だ!」「あの映画の続編が今度やるんだが一緒に行こう。金は出す!」「絶対後悔させないから! なんならジュースとポップコーン代も出してやる!」
    熱心に村上などを誘っており、はじめて修は件の映画にアクションシーンがあり、続編があることを認知した。麟児は知っているのだろうか。
    携帯で映画に誘う文章を作成しようとして、どうせこの後玉狛支部で会うのだからと携帯をしまい、いつもより少しだけ急ぎながら昼食を終え、現在。書類仕事を片付けている際に麟児はあの日の続きを口にした。
    「終わった話になんかするものか。第一俺は"すぐには無理だ"と言ったはずだ。
    ──むしろおまえはまだ観ていないのか? 」
    そう言っている割には修が観ていないことを確信している声色だった。こういう所が憎たらしい。そう思う自分が恥ずかしい。……ああそうだ。麟児との会話はいつもそうだった。
    「いやなひと。ぼくにひとりでいけと?」
    やり返そうと口から出た言葉が甘い。隊を任され、遠征に赴き、成長をしたと思ったのにこれだ。
    「まさか」
    音なく笑う大人な麟児さん。数年前より成長している麟児さん。昔はあんなに傑作な表情をしてくれたのに!
    「一銭も出しませんからね」
    「デートだぞ? 出させるわけがないだろう」
    帰ってきてから一回も聞かせてくれなかった甘さが滲む。顔が熱くて仕方ない。
    「……きっと次の日も予定がありますよ」
    「きっと?」
    「ええ、きっと!」
    ぼくはテーブルに広げていた書類と端末をかき集め部屋へと逃げ込んだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    edF1X2

    DONE麟修
    https://twitter.com/edF1X2/status/1488662471934345217?t=nMQ27KB00WFkg_w6d3v5Dg&s=19
    これ。基本捏造しかない
    いつものふたり。たぶん、その日も雨が降っていた。

    麟児のどこか冷たさをまとった低い声がいつもよりハッキリと聞こえたと嬉しく思ったからだ。
    ぽつりぽつりと傘を叩く雨音に溶け込むように穏やかに麟児は話す。他人と話す際にはない温度を傘の内側で感じながら顔に出さないように前を向いていた。
    「お前がこの前言っていた橋が映るんだろう?」
    「え、あっ、はい。フライヤーに載ってたのでおそらく」
    海を越えたとある国のとても大きな橋がロケ地となる。そう教えてくれたのは同じく海を越えた先で働いている父だった。だが日本での公開は一ヶ月ほど遅れると知り、当時いつになくテンションを上げて麟児に話していたことが修は少しだけ恥ずかしかった。
    その映画のコマーシャルがテレビで流れたようで麟児はなんでもないように修へと話を振ったのだ。一ヶ月も前に話した、麟児の興味では無いような映画の話を覚えていてくれたことにのぼせる頭を傘の外へと傾ける。そんなことをしたって顔が赤いのはバレているし、なんなら傘の中の温度さえも上がったように感じて足が止まってしまいそうだった。
    2760

    recommended works