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    04shiromi

    @04shiromi

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    04shiromi

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    れさキッス!キッス!目隠しもあります!まだまだ未完

    「お前誰かと寝た事ねえのか」

    アロマの香りがする。あまり嗅いだ事のない、異国の甘さ……これはバリ島のものだろうか。ちょっと変わったとこないん、と無茶ぶりした結果連れてこられた一室は、俺の選ばない種類のそれだった。

    「失礼な、食うもんには困らんかったで」

    ジャケットをぱん、ぱん、と二度払ったあとハンガーに掛ける。香りも慣れればいいものだけれど、移り香は避けられない。後でファブらなあかんな。なんて、この人に近付く時は毎回煙を被らされているのだけれど。

    「そっちじゃねェよ」

    零は窓の外を見ながら緩やかにそう言った。間接照明で暖色に照った壁は、情緒を感じるようなダークブラウンで埋められている。“寝る”、と聞いて抱く方を想像するのは、俺にとって至極当然のことで。

    もしかして夜の踊り子みたいに…幾多もの男侍らせてきたとか何とか、こいつに思われとるんやろうか。服の皺が消えた事を確認しては、視線を向けないままやや怪訝な顔をした。

    「……ベタベタ触られるん嫌やねん」
    「てっきりグルメかと思ってたが。簓くんは人誑しの才能があっからなぁ〜」

    ああこれ、四割ホンマに思っとるやつや。白いシャツ一枚にズボン、柄の入った青い靴下は高価なカーペットをあるく。ランプの光が滲むベッドサイドまで向かえば、そこへ腰掛けている…相変わらず胡散臭くにやつく男を見下ろした。

    「阿呆か、舌肥えとるのは芸だけや」

    普段なら大袈裟にするところ、控え目に肩を竦めてみせる。誰が簡単に体許すねん。自己評価うなぎ登りエベレスト様やぞ。

    「……で、」

    腕を引かれ、マットレスに膝がつくと白が弛む。BGMもない室内では二人分の呼吸音しかなく、空調も遠くで僅かに聞こえるだけだ。騒がしい昼間の現場とはまるで違う空間に、肌が暗がりで塗られた宵を感じ取る。

    「その一流芸能人様が“こんな所”にいる理由は?」

    この男が問いを放るとき、それは質問なんてものではなく……指された事項を音声に起こして“表明させる”自白作業に近い。黒いくせっ毛の隙間から瞳孔が覗いて、次の言葉を手招きする。

    「わざわざ一手間かけて困らせてくれるとか商人様ちゅうんはよっぽどお暇なんやなぁ……」
    「間を持たせてやってんだろ」
    「それにしては下手やわ、もっと洒落た台詞こさえられへんの」

    どうせ嫌味で返す事も分かってるやろに、懲りへん奴や。膝立ちになって眼下、額へ掛かった前髪を退かす。前説芸人ですらもっとええ仕事こなすわ。野暮な事振らんといて、と跳ねた髪先を指で掬い、くるくると捻ってみせた。

    「一番後腐れなくて、かつ利用価値のある俺の事を無下に扱わへん。お前ならスキャンダルもきっちり処理してくれるやろ?」
    「これまた便利に使われたもんだねぇ」
    「乗っかってきたんはお前やんけ」

    腰へ回された腕を咎めないままでいたらベルトを外されていたらしい。崩れて形のへしゃげた紺色の縞模様。舞台の裏側、剥がされる布地……どうせアロマと煙と一緒にクリーニングされるからどうでもええか。

    「そりゃあ非売品が特別に提供されるとあっちゃな」
    「んは、上手上手」
    「これで機嫌取りも上々か?」

    お喋りなんて要らないと呆れる女も少なくなかったから、こうやってダラダラ会話に付き合ってくれるのも有難い。なんて思っていたさなか、体が、持ち上げられて。厚い足を座布団にするかの様に座らされる。自然と肩へ手をやれば、するり、正面から浅葱を梳かすよう撫でられた。

    「なあ」
    「……ん」
    「もう一つあるだろう」

    五十近い、けどよく鍛えられた、掌。緊張という緊張はしていないのだけれど、四肢には人となりの意識が詰まっていて…その一つ一つが楽になるような感覚がする。撫でるの、上手いな。何となしにそんな感想を抱いた。

    「善くなってみたいと思った」
    「……」
    「俺なら善くしてくれると思った」

    零は表情を変えずにそう告げた。壁側、男の背後から橙色の光が照らし、かたちを変えたシルエットが俺の体へと落ちる。

    興味が無いと言えば嘘だった。と、その位の表現が答えとして正確だった。甘いというなら味わってみたい……それだけの話。自分に箔が付いているからなんて理由でお膳立てされた夜はどれも無味無臭で、とても興奮出来たものではなかった。
    官能は甘いと聞く。無闇矢鱈に貪ろうとは思っていないものの、つまりは、世に云う糖を知らないままで死んでいくのが少し勿体なくなっただけであって。

    「結局全部言うんやな」

    前髪を柔くかき上げられてはあしらう様に笑う。この部屋へ踏み入れた時、あるいはそのずっと前からこちらの意図を汲み取っていた癖に酷いもんや。

    「洗いざらい吐かれたくなきゃ早く塞ぎな」

    まあしゃあないか。俺は俺を売ってこいつに買わせ、そしてこいつの事を買った。要は一種のテイスティング──自分自身の味見を許す代わりに、この男の欠片をほんの少し試すだけの一夜なのだから。

    陽気に促すくちびる。引き返す理由は売り払ってしまっていた。俺にとって、どんだけお前が都合のええ存在か、分かっとるんやろか。…分かっとるんやろな。
    まずはひと口。浮ついた微熱を寄せて、そっと口付ける。

    「……、…ん…」

    あまりリップ音は鳴らなかった。弾力が合わさり、静かに微笑がまじわる。ふわり、充満したアロマに混ざって紫煙が燻った。

    「…んっ……ン…、…」

    襟足のあたりに手が添えられる。俯き加減で重力に流されて、深く、唇の肉が沈んでいく。

    「…っ……ふ、…」

    こんな情欲のこもったキスいつぶりやろ。女食い漁ってた頃ぶりやろか。それとも、初めてやったりして。口を開いては厚い舌を招き入れ、濡れた表面を交える。水音も立たないほどゆっくりと撫でられると思わず感嘆の息が揺れた。

    「……、………ぁ…」

    些細で後に残る、線みたいな刺激が舌の上でするする踊って。すぐさま舌を逃がしたくなる様な擽ったさに脳幹……俺の中でいちばん理知的な部分が混乱していく。弱々しい電流のくせに、そうやって摩られると、ぞくぞく…ぞく、って、して、

    「あ……ぁ…、…は……ぇ」

    崩れていく身体の軸を抱えられながら俺のしなった舌を追い、気分を官能へと浸す様にすり合わせられる。人間の性質上、口を閉じた状態でないと嚥下は出来ない。仕方なしに相手の舌を食んで唾液を飲み込めば、その隙に舌で上顎を撫でられて…底から意識の浮かぶような目眩が広がった。

    「…ん…ぇ、……ぁ…ぁ…、…」

    塗り変わる、ってこういうのを言うんやろか。身体が“期待するように”仕立て上げられて、次なる快感を望みだして。時計の刻む時間なんてものを忘れてしまう。掻き混ぜられると思考すら有耶無耶にされて、緩い電熱線にあてられた自己が形を失っていく。

    「………、……は…」

    ぞく……ぞく、ぞく。適温より低いぬるま湯で逆上せた俺を一瞥すると、零は満足そうに微笑んだ。

    「存外いい顔すんじゃねえの」
    「……ッほんまに普段使てる、ベロと…同じか疑うわ」

    お眼鏡に適ったなら嬉しいぜ、と下拵えを終えた男は頬を撫でる。

    「これで数多の女の腰砕いてきたんか」
    「買い占めも引き受けるぜ」
    「んは、ちょーっと迷うなあ……ポケットマネーならなんぼでもあるし」

    俺は剥がされる前にと自分の白いシャツを肩から落とした。天谷奴零──はたまた、知的好奇心の火薬庫。外側でも内側でも、漁れば漁るほど目新しいものが出てくる。ちょっと冒険してもええか、と思うくらいには、火遊びを誘う魅力がそのハラワタに詰まっていた。

    「けど」

    用心を忘れず、けれど少し羽目を外して。彼が何をしてくれるのか尋ねてみる。尊厳を踏み躙らないだろう事は承知しているからこそ、何を提案されても食わず嫌いはしないと決めていた。

    「お前は“口”だけの男とちゃうやろ?」

    ───さて、何から始めよう。








    あいだ飛びます





    投薬とか機械とか、はたまたマイクの類とか…やりようによっては幾らでも出来る筈やけど。と、訝しむ俺の思考を読んでか零は試すように言葉を続けてきた。

    「何でだか分かるかァ?」

    この距離は……たぶん、耳から10センチ。右の前方から、左前方へ。ゆっくりと移動していく低音。変わらず俺の目の前は真っ暗で、その声以外に感じ取れる情報は何も無い。けれど、今話しかけてくるこの男が、外せない目隠しのついた俺を見て嬉々としている事だけはよく分かった。あと、この状況は結構ヤバいって事も。

    「お前に学習させるためだ」
    「、……っ…ん…」

    する…り。耳の下から指先が顎をつたい、喉元をくすぐる。さながら猫にするような仕草。肌の表面を厚い爪がさり、と撫でつければ微かに睫毛が震えた。こんなんで過敏に感じてまうん、もしかしたら不味いかな。年相応の割に逞しい手はよく覚えろ、と言っているような気がする。

    「いい顔だなぁ……知らねえ奴に拉致られてもそんな顔すんなよ」
    「誰が!」
    「ほら」

    一度離れて、また気配が薄くなる。声だけに頼って意識を上へ寄せると、その警戒ごと絡め取られるように口付けられた。

    「…ン…、………」

    唇の弾力と圧を優しさで包んで。ちぅ…と味見するように音を立てる。こうして安堵を施してくるのも意図的だろうか、どちらにせよ心地好さには変わりなくて絆されてしまう。ちゅ、っ…ちゅ、と三度繰り返したところで、俺は聞かれていたものの鱗片が少し掴めたような気がした。

    …………うわ。そういう事か。

    こうして違和感のないまま出来るのは、人間がキスをする時同じように瞑っているからで。つまりは“慣れ切って”しまう事で、今みたいに疑問も抱かず零の感触に浸れるようになる……と。きっと、そういう事やろ。

    「五感にどう干渉されようと、最終的にその信号を受け取るのは脳だ」

    指の先が胸元をくだる。

    「お前の脳が学習しちまえば対象くらい何だって結び付けられる、恐怖にも快楽にもな」

    と、思ったら脇腹のすこし下のところを骨に沿うように撫でられて、体勢を崩してはいないものの分かりやすく肩が跳ねてしまった。

    「だからおいちゃんがゆっくり教えてやるよ」
    「…ッ、……」
    「この声を聞いた時、この手に触れられた時」

    ……たまたま、今回奪ったのが視覚だっただけで。例えば聴覚を奪われたりどこにも触られなかったり、“信号の入り口”が限定される状況であっても、脳が覚えてさえいれば同じ事なのだろう。トラウマでも絶頂も、深層へ植え付けられたら逃げられない。

    「とんでもなく善くなれると……無条件に陶酔するように」
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    04shiromi

    MEMO前に書いたミステリの一コマ風どつ(れいささ)モブ母「大和のこと?あの子ったらロクに帰ってこないで…仙草さんって分かる?あんな大物俳優さんのとこにお世話になってるなんて母として申し訳ないわぁ」
    盧笙「いや…」
    簓「ほな息子さんとはずっと会うてないんですね」
    母「連絡くらい寄越せばいいのに…姉の咲夜が結婚して、その相手が外資系の社長なもんだから……きっと駆け出し芸人の居場所がないと思ってるのね」
    盧「大和…」
    母「私はあの子がどんな事してたって愛してるのに…」
    盧「……………」
    母「暗い話して悪かったわね、今日は来てくれてありがとうねぇ」
    盧「いえ、貴重な話聞かしてもろて」
    簓「お姉さんおおきにぃ」
    母「あら、お姉さんだなんて……」

    盧「簓、付き合うてくれておおきに」
    簓「かまへんよ〜」
    盧「あいつの言うてること全部合っとったな」
    簓「おん」
    盧「これで大和は晴れてシロや」
    簓「せやろか」
    盧「へ?」
    簓「俺は寧ろ怪しく感じたけど」
    盧「なんでや」
    簓「あのおかんの言うことは全部大和の説明と一致しとったし、そこに齟齬はあらへんかった」
    盧「それなら、」
    簓「おかんは必要な情報だけ出してきたんや」
    盧「…おん」
    簓「まるで口裏合わせ 917

    04shiromi

    MAIKINGれさキッス!キッス!目隠しもあります!まだまだ未完「お前誰かと寝た事ねえのか」

    アロマの香りがする。あまり嗅いだ事のない、異国の甘さ……これはバリ島のものだろうか。ちょっと変わったとこないん、と無茶ぶりした結果連れてこられた一室は、俺の選ばない種類のそれだった。

    「失礼な、食うもんには困らんかったで」

    ジャケットをぱん、ぱん、と二度払ったあとハンガーに掛ける。香りも慣れればいいものだけれど、移り香は避けられない。後でファブらなあかんな。なんて、この人に近付く時は毎回煙を被らされているのだけれど。

    「そっちじゃねェよ」

    零は窓の外を見ながら緩やかにそう言った。間接照明で暖色に照った壁は、情緒を感じるようなダークブラウンで埋められている。“寝る”、と聞いて抱く方を想像するのは、俺にとって至極当然のことで。

    もしかして夜の踊り子みたいに…幾多もの男侍らせてきたとか何とか、こいつに思われとるんやろうか。服の皺が消えた事を確認しては、視線を向けないままやや怪訝な顔をした。

    「……ベタベタ触られるん嫌やねん」
    「てっきりグルメかと思ってたが。簓くんは人誑しの才能があっからなぁ〜」

    ああこれ、四割ホンマに思っとるやつや。白いシャツ一 4378

    recommended works