深淵より・4 『死神』の運転する車は軽快に街並みを抜けて荒野に出た。この国の西の方にこういった地形があると観光ガイドで見た気はするが、特に名所もないので近寄る予定はなかった地域だ。対向車もいなくなった頃、舗装された道を外れて暫く進むと廃屋が見えてきた。元は工場か何かだったのだろうが、天井に穴が空いていたり壁が抜けていたりと散々な有様だった。打ち捨てられて久しいようで、埃や砂塵にまみれ当然ながら人の気配もない。『死神』が車を止めたのはそんな場所だった。
促されて車を降りると、今日から一月ここで寝泊まりして修行するのだと説明された。
「修業」
「そう。人を殺すための修行。本来なら死ぬはずだった君は『鴉』の利となることを証明できなければ捨てられる」
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