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    櫂 詫人

    @totyuho

    pixivのUIが不満すぎて覗いてみました。
    定着したら二次創作の絵や漫画や小説を置くつもりです。
    WEBイベントでの展示置き場としても利用しております。

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    櫂 詫人

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    とうらぶ 陸奥守吉行が審神者を斬った話。
    昔ブラック本丸が流行っていた時に「人を殺めるのに使われなかった初期刀を処刑に使われるっていいよね!」ってノリで書いたもの。冒頭のみ。

    #刀剣乱舞
    swordDance
    #小説
    novel

    こわれた吉行と本丸最期の日
     陸奥守吉行は初めて顕現された刀であり、誰よりも早く限界まで鍛え上げられた刀だった。
     もうこれ以上伸びることはないと感じ始めてから、初めて彼は一番隊を外され、他の部隊で戦慣れしていない刀の手伝いを任された。
     ある程度他の刀剣達も実力を付け、彼と同じく後輩刀を警護・引率するようになると、今度は遠征部隊へと配属された。成長の限界を迎えているため、任務達成してもただ満足感を得るだけだったが、実力のある彼がいればより長時間の遠征ができるし、お宝を持って帰れるので、別段損とは思わなかった。
     本丸に戻って結果を報告し、また長旅へと出る──その繰り返しだった。以前と比べ主と顔を合わせることはめっきり減ってしまったが、いつでも暖かく迎え労ってくれるため苦にはならなかった。むしろ遠征報告を楽しみに待っていてくれると思うと、自然と身に力が入った。
     そんな中、いつもどおり遠征から戻ってくると、本丸が妙にざわついていた。けしてそれは良い空気ではなく、むしろ不穏な気配さえ感じた。見知らぬ人間達が本丸内を占拠しており、中には刀剣の誰かと口論になっている声も聞こえる。
     胸騒ぎと、とにかく事情を訊くため、陸奥守吉行は遠征報告も兼ねて主のもとへと走った。


     ◇



    「……今、なんちゃあゆうた」

     それは静まり返った室内に妙に響いた。しんしんと降る雪だけが、この時が止まったような空間の中で唯一動き続けていた。雪明かりで薄く照らされた薄暗い室内は、どこか色を失ったような、重苦しい雰囲気を放っていた。──これは夢ではないのだ、と突き付けるように。
     本来審神者が執務をするための部屋だが、ここに部屋の主の姿はない。陸奥守吉行と近侍である同田貫正国が灯りも付けずに、対面するように鎮座している。
     初めて部屋を覗いた時、陸奥守吉行は面食らった。同田貫正国に促されるまま彼の真正面に座り、主はどうしたのかと尋ねると、どこまでも落ち着いた声で、上の連中に連れて行かれた、と言った。そして「主の死刑が決まった」とも。

    「明日、主の打ち首が行われる。それを、やれ、と上からの命令だ」

     普段は投げやりのような、気だるいような言葉を投げる同田貫正国だが、この時ばかりは、はっきりと低いながらも響く声で言った。

    「わしが?」
    「長い時間を共にし、繋がれちまった審神者との霊力を断ち切るには、初めて顕現し、一番古い付き合いである刀が良いんだってよ」

    “断ち切る”。
     その言葉に陸奥守吉行は息を飲んだ。
     言葉通りとするならば、それは。つまり──。
     同田貫正国は答える代わりに、無言で彼が帯びている刀を目で示す。

    「わしで……主を斬れゆうがか……」

     自然と腰の鞘に手が伸びる。
     陸奥守吉行は前の主、坂本龍馬が実兄から賜った先祖伝来の品であり、争いごとを嫌う前主は彼を佩刀しながら、人を斬ったことは一度もなかった。だが彼自身それが誇りであったし、これからもできるならばそうありたいと思っていた。すでにこの世を去って久しいが、自分を愛してくれた前主の想いを貫きたかった。故に普段は帯びている刀ではなく拳銃を使っている。彼が自身を鞘から抜く時は、窮地に立たされた時のみだ。
     その、初めての人斬りが、自分の主。
     それも自刃に使われるのではなく、主から賜ったこの体を使って。
     ──主人としてではなく、罪人として。

    「──なら……僕がやるよ」

     突然降ってきた幼い声に、自身を握ったまま俯いていた陸奥守吉行は顔を上げる。同田貫正国の視線に導かれてふり返ると、幼子の形をした短刀、小夜左文字が縁側に立っていた。髪も着物も袈裟もすべてが寒色でまとめられている彼が、色を失くした寒空の下に立つ姿は、胸が締め付けられるくらい絵になっていた。

    「盗み聞きとは良い根性してるじゃねえか」

     小夜左文字は同田貫正国の言葉を欠片ほども気にせず続けた。

    「陸奥守の次に来たのは僕だ。たしかに陸奥守が一番長いけど、時期的に差はないはずだよ」

     彼は、陸奥守吉行が初陣で負傷帰還した際に、増援として新たに顕現された刀だった。陸奥守吉行と同じく、今では数多い短刀の中で一番の実力者となっている。

    「苦しませずに命を絶つ術なら心得ている。こういうことは、僕のほうが向いているから」
    「主は『敵[かたき]』じゃねえぞ。それでもいいのか」
    「……わかっているさ」

     小夜左文字は復讐こそ己の存在意義だとしているものの、本人はそれを美徳とも誇りとも感じておらず、むしろ忌まわしき闇であり、その闇を払拭するために戦に身を投じている節があった。復讐を果たせば、敵を討ち取れば心の闇が晴れると、思い込まずにはいられないほどに。
     それなのに、今の彼は進んで主との絆を断つ役割を受けようとしている。主は彼の求めている敵ではないし、人間をあまり信用していないきらいはあるが、主に恨みがあるとも思えない。一切、彼の得にはならないというのに。

    「誰か……誰かがやらなきゃいけないんだ……。ならいっそ……」

     僕が終わらせる、そう呟いた小夜左文字の声は、相変わらず幼い容姿に似合わぬ重たい響きを含んでいた。
     小夜左文字はいつも“そう”なのだ。迷いがない。いつも『やるべきことはひとつ』とその鋭い眼光をまっすぐに突き付ける。それは達観しているのか、諦めからくるものなのか、はたまた自暴自棄の果てなのかは、陸奥守吉行にはわからない。

    「直接申し立てしてくる」
    「小夜! おい!」

     言うが早いが、同田貫正国の声も振って小夜左文字は風のように去っていった。仕方ねえな、と同田貫正国はため息をつき、小夜左文字を追おうと立ち上がる。部屋を出る直前、陸奥守吉行をふり返って。

    「断れば主が助かると、甘いことでも考えたか? お前が断っても小夜がいる。小夜がダメなら今剣が、それでもダメなら短刀や打刀連中が。……“代わりはいくらでもいるからな”」

     鞘を握る手に力がこもる。
     そう、代わりなら、いくらでもいるのだ。
     審神者業に熱心だった主は、時間遡行軍と戦いつつ刀を集めることにも余念がなかった。見つけるのに難儀したこともあったが、存在が確認されている刀はすべて集めた。そしてそのすべてを即戦力となるよう鍛え上げている。
     刀であり使役される側であるが、その戦績や功績を見れば、我が主は“失くすには惜しい人材”だということは、陸奥守吉行にもわかった。
     それなのに、刑が執行されるということは。
     ──審神者も、我々と同じく、代わりはいくらでもいるのだ。
     それとも、死罪を償えぬほどの大罪を犯してしまったのか。
     本丸で見てきた主は、とても死罪に問われるような人間には思えなかった。誰に対しても優しく、常に刀剣男士の身を案じ、歴史修正主義者を許さず、上から与えられた任務を全うしていた。非の打ち所のない完璧な善人のようにしか見えなかった。

    「そんなお人を、斬れっちゅうんか……」

     ──龍馬、なあ龍馬。わしゃあ、どうすればいいがじゃ。
     ──おんしなら、どうするが。

     ──なあ、龍馬。

     すがるように念じてみても、それに答える者は、もうここにはいなかった。


     ◇


     本丸の、審神者がよく執務の合間に覗く庭で──よく近侍の刀剣男士と茶菓子をつまみ、昼飯を食べ花見をし、夕涼みで体を冷やし、鮮やかな紅葉を楽しみ、息も凍る中雪人形を作ったその庭で──主の斬首が行われようとしていた。
     粉のような雪が降る中で見た主は、罪人として真白い面紙[つらがみ]を付けられ、雪景色に同化してしまいそうな白い死装束をまとっていた。手伝い人に目下に掘られた穴を覗き込むような姿勢を強いられながら。

    「陸奥守吉行、ここに」

     刀の名を聞いた瞬間、石像のように動かなかった主の体がびくりと震えた。それを見た手伝い人達がすぐさま更に力を込めて押さえつけるが、それきり主が動き出す素振りはなかった。
     代わりに、うう、ううう、とくぐもった呻き声が耳を撫で回す。その声は恨みのこもった呪言にも、懺悔を乞い泣き叫ぶ音にも聞こえた。
     ぽた、ぽた、と面紙のあいだから雫が穴へ落ちる。我先にとふたつの雫がとめどなく穴に跡を付けていく。
     ──その穴は、春の終わりに主が「次はここに梅の木を植えよう」と約束しくれた場所だった。

    「ううう……!」

     研がれた刀身が、壊れたようにただ呻くだけを繰り返す罪人を映す。その面紙の先に隠れた形相がどんなものなのか、最期なのだから見納めたいという想いがせり上がっては、手に握った刀の重さを感じる度に、見なくてよかった、と沈んでいく。

    「──これより、罪人の処刑を開始する」

     その声を合図に、刃先は薄灰色の空へと伸びた。
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